「アンニュイ」は「気怠(けだる)い雰囲気」を表す言葉として使われてきたカタカナ語ですが、若い世代の間では「ミステリアスで儚(はかな)げ」「色っぽい」というニュアンスで使われることが多いようです。今回はこの「アンニュイ」の語源を紐解き、カタカナ語「アンニュイ」について解説します!

【目次】

由来となる言葉にはポジティブな意味合いはありません。
由来となる言葉にはポジティブな意味合いはありません。

【「アンニュイ」を正しく理解するための「基礎知識」】

カタカナ語「アンニュイ」の意味を理解するために、まずはその由来となる言葉の意味をご説明しましょう。

■カタカナ語「アンニュイ」の由来

「アンニュイ」の由来は、フランス語の[ennui]です。[ennui]には「倦怠感」「退屈」「物憂(ものう)さ」という意味があり、「生きる意欲を失い、退屈で物憂い精神状態」を表しています。ボードレールやランボーの作品など、19世紀末のヨーロッパを風靡(ふうび)したデカダンス文学の底流をなす精神状態とされ、世紀末特有の「憂うつ感」や「虚無感」を示しています。

■「アンニュイ」には、ふたつの意味が

フランス語[ennui]を由来としたカタカナ語の「アンニュイ」も、「物憂げな様子」や「なんとなく気が進まない様子」を表す言葉として使われてきました。気分が晴れずつまらなそうにしている人や、暇をもて余している人に対して、「今日はなんだかアンニュイな感じだね」のように使われます。決してポジティブなニュアンスはありませんが、「気怠(だる)い雰囲気」が「格好いい大人の女性像」と結びつき、いわゆる“いいオンナ”をイメージさせる言葉としても定着しました。大人世代なら、女優の桃井かおりさんを連想するかもしれませんね!

そしてカタカナ語「アンニュイ」は、現在もうひとつの意味で使われています。「ミステリアスで儚(はかな)げ」「神秘的」「妖艶」といった意味です。前述の「気怠い女性」と比較すると、「アンニュイ」がかなりポジティブに使われていることがわかります。特に若い世代がメイクやファッションについて「アンニュイ」という言葉を使う際は、多くが「ミステリアスな魅力への褒め言葉」として使われています。ちなみに、[ennui]には「神秘的」「ミステリアス」といった意味はありません。大雑把にまとめるとフランス語の[ennui]はネガティブな意味合いしかなく、カタカナ語の「アンニュイ」はネガティブ・ポジティブどちらのニュアンスも含みます。ただし、若い世代はポジティブな意味で使うことが多いようです。


【「アンニュイな雰囲気」の具体的な「特徴」は?】

では、「アンニュイな人」の特徴を見てみましょう。

■つまらなそうで退屈している様子。投げやりな感じ

「アンニュイ」をこのようなニュアンスで使うのは、大人世代限定かもしれません。「仕事への意欲がなく、だるそうな人」に対して皮肉を込めて「アンニュイな雰囲気だね」と使うこともありますよ。仕事中、上司にこう言われたら、多分、褒められてはいないので、ご注意くださいね。

■ミステリアスな魅力がある

外見というよりも、その人が発する神秘的なオーラや雰囲気を指して「アンニュイ」と表現します。

■「キリッ!」の対極。儚げで透明感のあるメイク

「アンニュイメイク」の特徴は、ダークな色味のアイシャドウ、下向きのすだれまつ毛、ヌーディーもしくは赤リップなど。「キリッ!」の対極、「とろん」と「可愛らしい」、もしくは「妖艶な」印象のメイクです。

■ルーズ感・抜け感のあるヘアスタイル

カチッと決めすぎず、ラフな印象の無造作ヘアが、アンニュイなヘアスタイルのポイントです。いわゆる「ゆるふわ」な雰囲気を大切にした、抜け感のある髪型でアンニュイな雰囲気を演出することができます。


【「使い方」がわかる「例文」5選】

■1:「仕舞(しまひ)にアンニュイを感じ出した。何処(どこ)か遊びに行く所はあるまいかと、娯楽案内を捜して、芝居でも見やうと云ふ気を起した」

こちらは夏目漱石の『それから』(1909年)より。文学作品で「アンニュイ」はこのように使われました。

■2:「しとしとと止まない雨を見つめながら、アンニュイな午後を過ごした」

「退屈な午後」といった意味合いです。

■3:「アンニュイな雰囲気が魅力の彼女には、黒いドレスがよく似合った」

人を形容する際、「アンニュイ」はミステリアスという意味で使われます。「なぜか心惹かれる魅力的な人」というニュアンスで、女性にも男性にも使えるほめ言葉です。

■4:「海に落ちる夕日が見られるこの場所は、アンニュイな景色で知られる人気スポットだ」

「アンニュイな景色」も、使い方次第でほめ言葉に。

■5:「メイクとヘア次第で、アンニュイな雰囲気は演出できる」

「アンニュイメイク」は「気怠い雰囲気が色っぽい」と人気。ファッションはスモーキーカラー中心のナチュラルコーデでまとめて。


【日本語で言うと?「類語」「言い換え」表現】

■ネガティブな意味での類語

・倦怠(けんたい)感 退屈 ・無聊(ぶりょう) ・憂鬱(ゆううつ) ・不満げ ・メランコリック

「無聊(ぶりょう)」とは、「退屈なこと。心が楽しまないこと。気が晴れないこと。またその様子」を意味する言葉です。

■ポジティブな意味での言い換え表現

・儚げ ・神秘的 ・ミステリアス ・つかみどころのない ・妖艶 ・色っぽい


【「アンニュイ」の「対義語」は?】

■ネガティブな意味での対義語

・熱中 ・没頭 ・活発 ・爽快

「倦怠」や「退屈」の対義語が「熱中」と「没頭」。「憂鬱」の対義語が「爽快」です。

■ポジティブな意味での対義語

「神秘的」の対義語として、「平凡」「普通」「ありきたり」「現実的」など。「儚げ」の対義語としては「しぶとい」「したたか」などが挙げられます。また、「妖艶」の反対の意味としては「色気がない」とも言えますが、対義語は「清楚」や「清純」です。

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「アンニュイ」という言葉は、「物憂げで気怠い雰囲気」という意味で使われますが、日本ではマイナス面を強調されることはむしろ少なく、「独特の雰囲気をもった格好いい人」というプラスのイメージで使われることが多いですね。「アンニュイメイク」が「ミステリアスなモテメイク」のひとつとして人気を博しているのも、日本独特の美意識なのかもしれません!

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『カタカナ語 すぐ役に立つ辞典』(河出書房新社) /『現代用語の基礎知識』(自由国民社) /『角川類語新辞典』(角川書店) :