「野暮」は融通が利かないことや、風流などに疎(うと)くて無粋(ぶすい)なこと、都会的に洗練されていないことを意味する言葉で、「粋(いき)」の反対語に当たります。「野暮な人」という評価は、スマートであることを信条とする人ならば、「仕事がデキない」と言われるより、むしろ屈辱的な言葉かもしれませんね。ということで今回は「野暮」について、その意味はもちろん、野暮な人の特徴、使い方、反対語から英語表現まで、さまざまな角度から解説します。

【目次】

要するに「ダサい」ってこと。
要するに「ダサい」ってこと!

【「野暮」を正しく理解するための「基礎知識」】

■読み方

「野暮」は「やぼ」と読みます。

■意味

「野暮」は、大きくふたつの意味で使われています。ひとつめは「融通が利かないこと」や「空気が読めない」「気が利かない」といった意味で、ふたつめは「都会的に洗練されていないこと」「あか抜けないこと」を表します。

■語源は?

一般に「野暮」の字を当てていますが、こちらは当て字で、「野夫(やふ、やぶ)」から転化したものと考えられています。「野夫」とは「田舎に住む男。田舎者」のこと。自分を謙遜して「野夫」と自称することもあったようです。

本来「田舎者」という意味をもつ「野暮」は、当初は遊里(遊郭)などの事情に疎いことを意味していました。人情の機微を解せず、粗暴で荒々しく、特に女性に対して露骨に性欲的な男性を指して「野暮」を用いたのです。その後、意味が広がり、「無教養で文化的繊細さを欠いた男」を表すようになり、江戸の市民生活において、最も軽蔑される存在であったそうです。現在では、「融通が利かない」「あか抜けていない」という意味で、男女の区別なく使われています。


【「聞くだけ野暮」「言うだけ野暮」とはどういうこと?】

■要するに「そんなこと聞くなんて鈍すぎ!」ってこと!

例えば、部署の飲み会のあと、みんなが二次会に流れようとしているときに、「僕は今日はここで失礼します」「私はこれで帰ります」と言うふたりがいたとしましょう。そのふたりは、最近一緒にいるのをよく見かける独身の男女。こんな場面で「そんなこと言わずにもう1軒行こうよ。なんで行かないんだよ」「あ、もしかしてデートだったりして~」などと聞いたり言ったりするのは野暮というもの。相手の事情や気持ちを機敏に察したら、あえて深く追求しないのが大人のたしなみですよね。「聞くだけ野暮」とは、「そんなこと聞くなんて鈍すぎない? 察してね!」という意味になります。

■「言うだけ野暮」は「みんな知ってて黙っているのに…」

「言うだけ野暮」は「みんなが知っていながら黙っていることを、口に出して言うのはばかげている」という意味の言葉。「聞くだけ野暮」とよく似ています。その場にいる人は「みんなわかってて黙ってるのに…」「あ〜あ、言っちゃった…」と、少々呆れた気持ちでいるのが想像できますね。上のシーンで言うと、ふたりが帰ったあとみんなに「あのふたり、付き合ってるよね?」などとわざわざ口にすることです。


【「野暮な人」とはどんな人?具体的な「特徴」は?】

では「野暮な人」と言われがちな人は、どんな特徴をもっているのか、挙げてみましょう。

■詮索好き

■空気が読めない

■余計なひと言が多い

■「暗黙の了解」を理解さない

■服装に無頓着

■趣味が悪い


【「使い方」がわかる「例文」4選】

「野暮な人」の特徴からわかるように、「野暮」は人をほめる意図で使われることはあまりありません。逆に「察しが悪いこと」や「あか抜けない様子」を揶揄する場面で多く使われます。「野暮」と言われた人が「馬鹿にされた」と感じてしまう可能性もありますから、面と向かって使用する際には十分注意が必要です。

■1:「今どき女性の年齢を聞くなんて、時代の空気もまったく読めてない野暮さ加減に呆れる」

■2:「休暇中に何をしてたとか、上司には答えたくないよね。野暮なことは聞かずにいてほしいものだ」

■3:「せっかく予約がなかなか取れないレストランに誘ったのに、彼は驚くほど野暮な格好で現れた。もう帰りたい」

■4:「飲み会を断る口実に『少々野暮用で』と言えば、もののわかる人ならそれ以上追求せずに納得してくれるものだ」

本来「野暮用」は「趣味や遊びではない、仕事上や付き合い上の用事」を表す言葉でしたが、現在では「どうでもいい用事」も含め、「いろいろな用事」という意味で使われています。誘いに対して「行きたくない」とストレートに断れば角が立つため、「野暮用で」とオブラートに包んだ表現でやんわりお断りするのです。実に便利な表現ですから、覚えておきましょう!


【「類語」「言い換え」表現は?】

■野暮天(やぼてん)

■ぼんくら

「野暮」と同じく「気が利かないことや、その人自身」を表す言葉が「野暮天」と「ぼんくら」です。「野暮天」は仏教の神様を表す「〜天」に擬したもの。「天」は程度の高い意を表すことから、「たいそう野暮なこと」、つまり、極めて融通の利かないこと、風雅な心を解さないこと、気が利かないことやその人自身を指します。「ぼんくら」は、もともとは賭博(とばく)用語で、「さいころを振る盆の上での勝負に暗い(=疎い・弱い)」という意から転じて、ぼんやりとしていて気の利かないことを言います。

■無粋

■無骨

■無風流

「無粋」「無骨」「無風流」は、「野暮」同様、「言動や身なり、趣味などが洗練されていない様子」を表す言葉です。違いは「無粋」は特に男女間の情の機微がわからないことの意で使われることが多い言葉で、「不粋」とも書きます。「無骨」は礼儀、作法を知らないことの意でも使われ、「武骨」とも書きます。そして「無風流」は、風流を解さないことです。

■野暮ったい

「野暮ったい」は、「あか抜けしない、野暮な感じがするさま」を意味する言葉です。

■ダサい

「野暮」は「気が利かず、空気が読めない」や「言動や趣味が洗練されていない」ことを表す言葉ですが、ひと言で言えば「ダサい」という言葉がぴったりきますね。


【「対義語」は?】

江戸時代、「野暮」は、「粋 (いき、すい)」 や「通 (つう)」 など、人々の美的生活理念の反対概念を示す語として使われた経緯をもっています。

■粋(いき)

■粋(すい)

江戸時代の人々は、「気質や容姿、身なりなどがさっぱりとし、洗練されていて、しゃれた色気をもっていること」を、「粋」と表現しました。

■通(つう)

「通」は、「ある領域の趣味や道楽について精通していること、特に花柳界の内情に詳しいこと」を表す言葉です。また、「人情に通じ、人柄がさばけていること。特に、男女間の機微に深い思いやりのあること」も「通」と表現されます。

■あか抜ける

「あか抜ける」は、「容姿や動作、技芸などが洗練されている。粋ですっきりしていること」です。


【「野暮」を「英語」で言うと?】

「野暮」のを英語で表現すると「がさつな、無神経な」という意味をもつ[boorish]となります。「野暮な男」といえば、[a boorish man]ですね。「気の利かない、不器用な」という意味の[gauche]も使えますよ。

・It's gauche to ask who his date is.(デートの相手は? なんて聞くのは野暮だ)

「野暮」を「あか抜けない」「ダサい」という意味で使うなら、[bad taste]でも。

・He has bad taste in fashion.(彼はファッションセンスが悪い)

***

「野暮」は「気が利かず、空気が読めない」や「言動や趣味が洗練されていない」ことを表しており、今風に言い換えれば「ダサい」という言葉がぴったりきます。少々呆れたニュアンスで使われることも多いので、ビジネスシーンで使用するには注意が必要な言葉です。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『使い方の分かる 類語例解辞典』(小学館) /『世界大百科事典』(平凡社) /『角川類語新辞典』(角川書店) /『プログレッシブ英和中辞典』(小学館) :