アイデアを載せて、作品を載せて、未来を載せて。アートという情熱を届ける巨大なタンカー、世界を就航中!

昨年、世界最大級の現代アートの祭典「ドクメンタ」に参加し、注目を集めているアーティストの栗林隆さん。

現在、あらゆる場所にアートエネルギーを届ける「タンカー・プロジェクト」をさまざまに展開中です。現物としてつくられている作品だけではない、思考や行動そのものを表現とする、現代アートの魅力について、エディター・ライターとして活動中の中村志保さんのナビゲートでご紹介します。

Navigator : 中村志保さん
エディター・ライター
慶應義塾大学文学部美学美術史学専攻卒。ロンドン大学ゴールドスミス校でファインアートを専攻後、メディア学修士修了。『美術手帖』、「ARTnews JAPAN」編集部を経て、エディター・ライターとして活動中。

今月のオススメ:栗林 隆《Tanker Project》

展覧会_1
Tanker Project Concept Models 展示風景 (C)Takashi Kuribayashi

タンカーを「巨大なエネルギーに満ち、自由に移動する “アートタンカー”」に見立てた「タンカー・プロジェクト」の展示風景。「ドクメンタ15」への参加を機に始動した本プロジェクトは、さまざまなアーティストらとコラボレーションしながら、仮想と現実の海を自在に航海し、アートのエネルギーを世界中に届けるという。

栗林 隆さん
アーティスト
1968年長崎県出身。武蔵野美術大学卒業後、渡独。'01年デュッセルドルフ美術アカデミー修了。'22年の「ドクメンタ15」には「逗子海岸映画祭」を手掛ける集団Cinema Caravanと共に参加。'23年、芸術選奨文部科学大臣賞受賞。5月27〜28日に開催されるアートの饗宴「六本木アートナイト2023」では栗林隆+Cinema Caravanとして、鴻池朋子と共にメインアーティストに選出。

ドイツ・カッセルで5年に一度開かれる現代アートの大祭典「ドクメンタ」。昨年、栗林隆さんはこの一大イベントに日本を代表して参加。“蚊帳” でできた移動式の小屋のような作品群を発表しました。

そのひとつはサウナになっているという奇想天外な仕掛けが! 誰もが一度は “蚊帳の外” となった経験があると思いますが、蚊帳の内と外の人々をつなぐ世界をつくったと言えそうです。境界線を少しずらすことで、“当然” を疑う空間を生み出すのが、栗林さんの創作なのですね。

そんな彼が’21年に立ち上げたのが、「タンカー・プロジェクト」。原油や石油製品を輸送するタンカーを、アートという “エネルギー” を運ぶ船に見立てています。このプロジェクトは構想された時点からスタートし、アイデアを載せてインターネット空間で運ばれるのもよし、アーティストや作品を載せて実際に海を渡るのもよし。上の写真に写っているタンカーは、コンセプトをイメージして栗林さんが制作した模型のひとつ。生い茂る緑を搭載し、世界中を旅します。さて、次なる目的地はどこなのでしょうか。

栗林さんは長年、福島の原発事故などの社会問題をテーマに制作してきました。リサーチから、現地の人々や他のアーティストとの協働に重きを置き、1回限りで終わらないプロジェクトとして、思考や行為そのもの、またその過程や軌跡を何らかの形で提示します。そう、現代アートとは絵や彫刻に限ったものではありません。栗林さんの活動はその現在地をそっと私たちに教えてくれるようです。(文・中村志保)

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