今回のテーマは「懐が深い」。「A部長は本当に懐が深い」のように、「相手を受け入れる包容力がある」ことを表した言葉ですが、相撲の専門用語としても使われています。言葉の意味を正しく理解し、ビジネスシーンで使いこなしましょう!
【目次】
【「懐が深い」を正しく理解するための「基礎知識」】
■意味
「懐が深い」は「ふところがふかい」と読み、「心が広く、相手を受け入れる包容力がある」ことを表した言葉です。
「懐」という言葉はたくさんの意味をもつ言葉です。
1)衣服を着たときの、胸のあたりの内側の部分。
2) 相撲などで、前に出した両腕と胸とで囲まれる空間。
3) 比喩的に周りを山などに囲まれた奥深い場所。
4) 外界から隔てられた安心できる場所。
5) 物の内部。内幕。
6) 持っている金。所持金。
7) 胸の内の考え。胸中。
「懐が深い」は1や7の意味が転じて、(口には出さない)胸の内の考えが奥深く、余裕があることを表すようになったと考えられます。
ゆがんだこと、曲がったことを一切許さない正義感の強い人は、もちろん正しい人であり立派なのですが、少々窮屈にも感じられます。状況に応じて、善も悪も、優秀な人も不器用な人も、どんな人であっても受け入れることのできる人のほうが、大人の余裕を感じさせるものです。こうした様子を、「懐が深い」と表現します。
■相撲の専門用語としての「懐が深い」は?
「懐が深い」は上記2の意味で、相撲の専門用語としても使われています。背が高く、腕の長い力士は、相撲で四つに組んだときに両腕と胸とで作る空間が広く、相手になかなかまわしを与えないもの。この様子を指して「懐が深い」と表現するのです。
【「懐が深い人」の具体的な「特徴」は?】
■他人の小さなミスを責めない
■相手の心情を推し量り、理解・共感する能力に優れている
■人の成長や事態の好転を見守ることができる
■未熟さや欠点を含め、人を受け入れることができる
ビジネスシーンでは、業務に慣れない新人や不器用な後輩のフォローに回ることがあるかもしれません。そんなとき、細かなミスには目をつぶり、「大丈夫。頑張れ!」と応援してあげられるような、先輩であり上司でありたいものですね。
【「使い方」がわかる「例文」4選】
■1:「私も部長のように、懐の深い上司になりたい」
■2:「彼女は後輩の小さなミスを頭ごなしに責めない、懐が深い人です」
■3:「最初はビジネスパートナーとしての彼女の懐の深さに惹かれ、交際に至った」
■4:「彼女の懐の深さに、大人としての余裕を感じた」
「懐が深い」は、「懐が広い」あるいは「懐が大きい」と使われるケースもありますが、こちらは誤用と言われています。意味は通じますので、誰かが使った際はそれと理解し、自分は使わない、というのが、大人の選択ですね。
【「類語」「言い換え」表現】
「懐が深い」と同じような意味をもつ言葉をいくつかご紹介しましょう。
■器が大きい
「器が大きい人」とは、人としての度量が広く、能力が十分に備わっている人。また、細かいことや小さいことを気にしない人のことです。「器」には「大きい」あるいは「小さい」が使われます。
■包容力がある
「包容力」とは、「過ちや欠点なども含め、相手のさまざまな点を受け入れることができる心の広さ」。「包容力」は「大きい」や「深い」ではなく、「ある」と表現しますよ。
■寛容
「寛容」は、「心が広く、よく人の言動を受け入れること。人の罪や欠点などを厳しく責めないこと。また、その様子」という意味の言葉です。
【「英語」で言うと?】
「懐が深い」をズバリ表す英単語はありませんが、「寛容」という意味に解釈すれば[tolerant]という単語で表現できます。
・The Romans were tolerant of alien religions.(ローマ人は外国の宗教に対して寛容であった)
また、「心の広い、寛大な、寛容な」という意味の[broad-minded ]も使えます。
・She is a broad-minded person.(彼女は心の広い人だ)
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あなたはどんな人に対して「この人は大人だなぁ」と思いますか? 「懐が深い人」に、人としての成熟、大人の余裕を感じる人は多いのでは? 「懐が深い人」は、相手の未熟さや欠点も含めて受け止めてくれる、優しさをもった人と言うことができますが、一見、物腰の柔らかな人や親切な人が「懐の深い人」とは限りません。ご注意くださいね。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『ランダムハウス英和大辞典』(小学館) /『ひと言で知性があふれ出す 大人の語彙力が身につく本』(かんき出版) :