憧れであり、「選択の自由」の象徴でもある“ハイヒール”への想い

先天性四肢疾患のため9歳のときに自らの意思で両足を切断、以来義足で生活を送りながら、アーティストとして活動を続けている片山真理さん。

「ハイヒール・プロジェクト」は、学生時代に義足であることに気が付いていない相手からハイヒールを履いていないことに対する心無い言葉を投げかけられた苦い経験をきっかけに、ハイヒールを履ける義足を製作し、歩き、ステージに立つまでを目指して2011年にスタートしたものです。

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セルジオ ロッシのファクトリーで撮影されたセルフポートレイト作品。

しかし、リサーチや義足の製作を進めるにつれ、彼女が直面したのは、「誰もが憧れをもつことの自由―ひらかれた選択肢―すらない社会の現状」だったと語ります。

みんながハイヒールを履くべき、おしゃれすべきということではなく、その前段階にあるはずの、「やりたい/やりたくない」と言える、自由な選択肢があることが一番重要。片山さんは、その“象徴”としてハイヒールを履き、歩き、伝え続けているのです。

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セルジオ ロッシのファクトリー内、アーカイブルームで撮影されたセルフポートレイト作品。

片山さんの妊娠・出産により一時休止していましたが、2022年より“第2章”として「ハイヒールが特別なものではない。でも、あなたにとって(大切で/なんでもない)自由に選択できる1つになってほしい」という想いのもと、活動を再開。イタリアのラグジュアリーシューズブランド、セルジオ ロッシを義足用のハイヒールを開発するパートナーに迎えました。

「靴は女性の脚の完璧な延長である」──その理念を映し出す特別な1足

片山さんのために製作されたハイヒール「Mari K」のベースとなったのは、クリエイティブな姿勢に強さを宿す現代的な女性に向けてデザインされたセルジオ ロッシのコレクション「SI ROSSI by Sergio Rossi」。プラットフォームとストラップ、彫刻的なチャンキーヒールという、義足が地面で安定するために必要となる重要な要素を備えています。

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セルジオ ロッシのファクトリー内、アーカイブルームでカスタマイズシューズ「Mari K」を撮影した作品。

そしてセルジオ ロッシ チームは、木型の測定、デザイン、ウォーキングトライアルのためのプロトタイプの製作、豊富な素材と色の選択と提案など、最初のステップから仕上げまでを通して取り組むことに。全工程はセルジオ ロッシのデザインチーム、プロダクションチーム、片山さん、そして片山さんが幼少期より信頼をおく日本の義肢装具士である医師との対話を重ね進められてきました。

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セルジオ ロッシのミラノ スピガ通り旗艦店で撮影されたセルフポートレイト作品。

この「ハイヒール・プロジェクト」第2弾の発表に寄せて、片山さんは次のように語っています。

「セルジオ・ロッシ氏が『靴は女性の脚の完璧な延長である』と言ったように、この靴からつながる新しい道が生まれ、本当に脚が延長されたような気がしています。ハイヒールが完成し、みんなのプロジェクトになった今、ここからすべてが始まります。さて、これからこの身体でどこに行こう…?」

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セルジオ ロッシのファクトリー内、アーカイブルームで撮影されたセルフポートレイト作品。

よりリアルな心情に迫るPrecious.jp独自の質問に片山さんが回答!

さらに片山さんは、今回新たにPrecious.jpからの質問にも答えてくれました。本プロジェクトに対する片山さんの心の内を、また新たな角度から感じとってください。

──セルジオ ロッシとのプロジェクトがスタートするにあたって、どのような思いや期待を抱かれましたか?

オブジェ作品や写真作品を作るときはいつも、思いや気持ちに沿ってやるべきことや自分にできることを淡々と「作業」していき、完成後に作品から学ぶことが多いです。「ハイヒール・プロジェクト」も、さまざまな方々と関わりながら共に作り上げていく作品となります。

しかし第2弾ではこれまで経験したことのない規模と広い世界が待っていて、やはり少しの怖さはありました。けれども心強く、あたたかい仲間のおかげでそんな怖さは一瞬で吹き飛びました。いつもわくわくしていました。

初めてセルジオ ロッシのパンプスに触れたとき、「こんな足が欲しいな」と思いました。触れたパンプスから、生きた足を感じたのです。

子供の頃から、足の無い私が「足が欲しい」と言うとそれを聞いたまわりの人たちはとても申し訳なさそうな顔をしました。だから「足が欲しい」なんて、そんなことを言うと周りの人たちに悪いから、思ってはいけないことなんだと自分に言い聞かせていました。

しかしセルジオ・ロッシさんの「靴は女性の脚の完璧な延長」という理念を聞いたとき、大きな希望を感じました。そして堂々と「こんな足が欲しい!」と言うことができたのです。これには自分でもびっくりしました。

そしてそれを聞いたセルジオ ロッシのみなさまも、スタジオの仲間もとても嬉しそうな顔をしていて、とても幸せなスタートとなりました。

──カスタマイズシューズの最初の試作品を見て、そして着用して、どのように感じましたか?

鏡に映る自分の姿、脚から目が離せませんでした。

ファーストプロトタイプですので、ほんの少しの調整が必要でしたが、歩行テストをしながら「またステージに立てる!」と、ステージで歌う自分の姿を想像していました。

──完成したハイヒール「Mari K」を手にしたときのことを教えてください。

「Mari K」と書かれた箱をいただいて、すぐに履きました。とても美しかったです。そして、「このまま履きたい!」と言ってしまいました。

履いたままファクトリーでの撮影を開始し、気がつくと夕方になっていました。新しい身体を、脚を得たのだと、撮影が終わったときに感じました。

──セルジオ ロッシの職人の方々とのコミュニケーションはいかがでしたか?

本当にみなさんがこのプロジェクトに情熱をかけていることがわかる、フレンドリーで、素晴らしい方々でした。

ラスト(木型)など靴構造製作を手掛ける職人のLorenzoさん、レザーのカットを操作するCADを作る方、ストラップを縫う方、セルフポートレイトの撮影時に「暗くない?」と電気を点けに走ってくれた方、全ての出会いが印象的です。

みなさんがセルジオ ロッシというブランドを愛してるんだなぁと会うたびに感じました。そしてそんな方々がハイヒール・プロジェクトに参加してくれている。「これは『私の』プロジェクトではなく、みんなのプロジェクトだね」と、ファクトリーで確信しました。また、「作る」という共通の方法を持っていることで通じあうもの、言葉を超えたコミュニケーションも感じました。

なかでもデザインチームのSimoneさんとは初めて会った気がしませんでした。いいお友達になれました! 今、セルジオ ロッシの靴を見るたびに、ファクトリーで出会ったみなさんの顔が浮かぶのです。

「Mari K」完成までのプロセスを収めたドキュメンタリー映像も必見!

片山真理さん
アーティスト
(かたやま まり)1987年群馬県出身。2012年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了。自らの身体を模した手縫いのオブジェ、ペインティング、コラージュのほか、それらの作品を用いて細部まで演出を施したセルフポートレイトなど、多彩な作品を制作。2019年「第58回ヴェネチア・ビエンナーレ」に参加するなど国際的に活躍。2020年には第45回木村伊兵衛写真賞を受賞。さらに歌手、モデル、講演、執筆など活動の幅は多岐にわたる。http://marikatayama.com/

以上、セルジオ ロッシがパートナーとして参加した、片山真理さんの「ハイヒール・プロジェクト」第2弾についてお伝えしました。

なお、2022年の「ハイヒール・プロジェクト」で製作した新作を展示した片山さんの個展「CAVERN」が2023年6月24日(土)まで開催中です。ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?

Mari Katayama Solo-exhibition「CAVERN」概要

  • 「CAVERN」 
    会場/GALLERY ETHER 
    会期/~2023年6月24日(土)
    開場時間/12:00~15:00、16:00~19:00
    TEL:03-6271-5022
  • 住所/東京都港区西麻布 3-24-19 三王商会西麻布ビル 1F・B1F

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PHOTO :
Mari Katayama
EDIT&WRITING :
谷 花生