「師事」は「師として尊敬し、その教えを受けること」を意味する言葉です。「○○先生に師事しております」などと使われ、特に難しい意味ではありませんが、「師事を受ける」など、実は誤用の多い言葉です。「え? 誤用?」と思った人も多いのでは。今回は「師事」の意味と使い方がよくわかる例文、言い換え表現をご紹介します。

【目次】

師弟関係の有無がキーワードです。
師弟関係の有無がキーワードです。

【「師事」を正しく理解するための「基礎知識」】

■読み方

「師事」は「しじ」と読みます。

■意味

「師事」は「師として尊敬し、その教えを受けること」という意味の言葉です。「師事する」のように、「する」をつけて動詞化して使われることが多いですね。「師事」への理解を深めるために、さらに詳しく考察しましょう。「師」は 「学問・技芸を教授する人。師匠。先生」「先生と仰ぐこと。手本とする」といった意味の言葉です。僧や神父、牧師などを敬っていう語でもあります。

「事」には、「事柄」「仕事」といった意味のほか、「仕える」という意味もあり、「師事」や「兄事(けいじ)」という熟語に使われます。「兄事」は「兄に対するように、敬意と親愛の気持ちをもって仕えること」という意味で、「兄事する先輩」のように使われますよ。以上のことから、「師」と「事」から成る「師事」は、「学問や技芸の師匠として尊敬し、弟子となって教えを受けること」を意味しています。つまり「師事」は、「師弟(師と弟子)関係がある」ことを意味する言葉です。


【使い方がわかる「例文」6選】

具体的な事例や使い方を例文で見ていきましょう。

■1:「長年の趣味が高じて、会社を辞め著名な陶芸家に師事することを考えている」

■2:履歴書の経歴欄やプロフィールの記載に
   「××年より○○〇〇氏に師事。」

「師事」は師弟関係の存在を意味する言葉です。「憧れの人のYouTubeで絵画のテクニックを学んだ」のように、先方が弟子と認識していない、一方的な関係の場合に「師事」という言葉は使えませんので注意してください。

■3:「私のピアノの先生は、とても著名な演奏家に師事されていたそうです」

この場合の「師事されていた」は、受身表現ではない、尊敬の助動詞「…れる」を用いた敬語表現です。つまり、「とても著名な演奏家」が、「私のピアノの先生」の「師匠」にあたるということです。実は「師事」は「受け身」のかたちで使われることはほとんどありません。

■NG1:「師事を仰ぐ」

「師事」は「師匠の弟子となり学問や技芸の教えを受けること」。また、「教えを受けること」を「師事する」と言います。「仰ぐ」は「教え・援助などを求める」という意味の言葉ですが、「師事」と共に使われることはありません。「師事を仰ぐ」は「指示を仰ぐ」と「師事する」を混用した誤記であろうと言われています。

■NG2:「師事を受ける」

「師事」は「教えを受けること」。意味が重複してしまう「師事を受ける」も、「師事を仰ぐ」同様、誤用です。

■NG3:「師事を乞う」

「乞う」とは「へりくだった態度で、何かをしてくれるように頼む」ことです。こちらも誤用で、「教えを受けさせてもらえるように頼む」の意味で使うのであれば、「教えを乞う」が正解。

【「類語」「言い換え」表現】

■入門

「師事」と「入門」はどちらも「弟子となって、師の教えを受けること」。違いは、「師事」は、その人を先生と仰いで教えを受けることであり、「入門」は教えを受けるために弟子入りすること。

■薫陶を受ける

「薫陶」は「香(こう)を焚いて香りを染み込ませ、粘土(ねんど)を捏(こ)ねて、形を整え、陶器をつくる」という意から、「自己の徳で他人を感化すること。すぐれた人格で教え育て上げること」という意味をもつようになった言葉です。「師事」のように「教えを受ける」という意味で使う場合は、「薫陶を受ける」と表現します。こちらは「師事」とは異なり、実際の師弟関係や面識がない相手にも使うことができる表現です。


【「英語」にすると?】

「師事する」に相当する英語表現は[study under (somebody)]となります。

・He studied under Kenzo TANGE.(彼は丹下健三の元で学んだ)

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「師事する」は「師弟関係の下、教えを受けること」を意味する言葉です。憧れの人を「心の師」と仰ぐのは自由ですが、それを「○○先生に師事してる」と人に伝えるのは誤解の元。ほかにも「師事を仰ぐ」など、誤用の多い言葉でもあるので、使用の際は注意が必要です。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『プログレッシブ英和中辞典』(小学館) /『使い方の分かる 類語例解辞典』(小学館) /『新選漢和辞典Web版』(小学館) /『角川類語新辞典』(角川書店) :