60年以上にわたり現代美術の第一線で活躍し続けるデイヴィッド・ホックニー。その多彩な代表作の数々を一堂に紹介する大型個展が、待望の開催です。なかでも近年の風景画の傑作には圧倒されること間違いなし!

雑誌『Precious』8月号では、デイヴィッド・ホックニーについてや、注目の作品など、美術ライター・中村志保さんのナビゲートでご紹介しました。

中村志保さん
エディター・ライター
慶應義塾大学文学部美学美術史学専攻卒。ロンドン大学ゴールドスミス校でファインアートを専攻後、メディア学修士終了。『美術手帖』『ARTnews JAPAN』編集部を経て、エディター・ライターとして活動中。

86歳の今も精力的に活動し続ける現代美術の巨匠!ホックニーの“今”を存分に体感できる大型個展へ

1960年代の初期の代表作から、故郷イースト・ヨークシャーで描いた近年の巨大な風景画、コロナ禍に現在活動の拠点をおくフランス・ノルマンディーで制作した全長90メートルの新作まで、120点以上を通じてアーティストの60年以上に及ぶ画業をたどる。日本では27年ぶりとなる大規模個展です。

展覧会_1
デイヴィッド・ホックニー《春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》2011年 油彩/カンヴァス(32枚組 各91.5×122cm)365.6×975.2cm ポンピドゥー・センター(c) David Hockney Photo: Richard Schmidt

10年4月の発売と同時にiPadを入手し、新境地を開いたホックニー。〈春の到来〉は、大型の油彩画とiPadドローイングから構成される、近年のホックニーを代表する風景画シリーズ。故郷であるイギリスのヨークシャー東部で制作され、豊かな色彩感覚によって“春の到来”が生き生きと描かれている。今回の展覧会では、高さ3.6m、幅10mにもおよぶ巨大な油彩画を、大判サイズのiPad作品12点と共に展示。ホックニーの目がとらえた身近な自然を共有したい。

David Hockney
芸術作家
1937年英国生まれ。ロンドンの王立美術学校で学び、1964年ロサンゼルスに移住。アメリカ西海岸の情景を描いた絵画で一躍脚光を浴びる。現在はフランスを拠点に活動。

’18年にオークションで作品が約102億円で落札され、当時の現存作家の過去最高額を打ち出したり、おじいちゃんになってからiPadで制作を始めたりと、話題に事欠かないデイヴィッド・ホックニー。86歳を迎えてもなお、現代アート界の最前線を走り続けています。

ホックニーは、イギリス北部の街、ブラッドフォードに生まれ、初期の頃には暗い色を多用した内向的な絵を描いていましたが、1960年代にロサンゼルスへ移住すると、その気候の恩恵を受けるように、陽が降り注ぐような明るい作風へと大きく変化します。やはりこの色彩こそ、多くの人を魅了する理由ですよね。しかし、生き生きとした色使いとは対照的に、画面を眺めていると、風景も人物もどこか淡々として、孤独な気配がふとよぎります。見る人はそこに個人的な内情を通わせて、さらに惹かれていくのではないかとも思うのです。

さて、日本では27年ぶりとなる大規模なホックニー展が、東京都現代美術館で開かれると聞いて、楽しみにしている方も多いのではないでしょうか。

特に注目しているのが、上の作品。作家の故郷で制作された幅10メートルほどもある巨大なカンヴァスには、樹木の幹のカラフルな色や葉っぱがうごめき、なんだか不思議。あえて平面的な要素を残した奥行きの演出は、どこかデザイン的に見えるのも素敵です。本作品を含め日本初公開作品や、全長90メートルの新作、世界初公開の自画像なども展示され、作家の新たな一面を発見できそうです。(文・中村志保さん)

〈展覧会概要〉

  • 場所/東京都現代美術館
  • 期間/2023年7月15日(土)~11月5日(日)
  • TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)

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PHOTO :
(c) David Hockney Photo: Richard Schmidt、(c) David Hockney Photo: Jean-Pierre Gonçalves de Lima
EDIT :
正木 爽・宮田典子(HATSU)、喜多容子(Precious)
取材・文 :
剣持亜弥(HATSU)
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