ただでさえ人手不足なのに、ましてや業務拡張なんてありえない!――今回はこの文中にもある「ましてや」について解説します。「なおさら」や「ますます」といった意味をなす「まして」という副詞の強調形である「ましてや」。例文や言い換え表現などを見ていきながら、正しい使い方を覚えていきましょう。

【目次】

「まして」と「ましてや」の使い分けは…?
「まして」と「ましてや」の使い分けは…?

「ましてや」とは?「意味」と「漢字」「使い方」 】

■意味と語源

「ましてや」は、「言うまでもなく」「なおさら」といった意味です。「まして」という語を強めたいときに使用します。

「まして」は、動詞「増(ま)す」の連用形に助詞の「て」が付いてできた副詞。「先行する状態よりも程度の甚だしいさま」、「それ以上に」「今までよりも強く」「いっそう」といった意味を表します。その強調形が「ましてや」というわけです。

■漢字

原型が「増す」ですから「ましてや」も「増してや」となります。見慣れないかもしれませんが「況してや」と表記しても間違いではありません。

■使い方

「ましてや」は、否定的な文意で物事を強調したいときにのみ使える言葉。「Aであるから、Bであるはずがない」はOKですが、「Aであるうえ、Bでもある」といった肯定文はNGなので気を付けて!


「ましてや」の「や」って何?】

「まして+や」の「ましてや」ですが、「や」とはどういった語なのか解説しましょう。

■「や」は係助詞

この「や」は、特定箇所・問題点・強調点などを示す係助詞(かかりじょし)のひとつ。「~は」「~も」「~や」「~こそ」「~ぞ」「~か」などは文語での一例で、口語では「~は」「~も」「~や」「~こそ」「~さえ」「~でも」「~しか」などがそれにあたります。この係助詞「~や」は、文語では事実をありのままに述べた平叙(へいじょ)の文や、疑問・反語の文などの文中、または文末に用いられ、問題点・強調点・疑問点などを示します。

■『源氏物語』の「ましてやすからず」は…

平安時代に紫式部によって書かれた『源氏物語』。帝(みかど)の息子である光源氏を主人公のひとりとした世界でも評価が高い長編小説ですね。『源氏物語』は「いづれの御時にか、女御・更衣あまたさぶらひたまひけるなかに~」という大変有名な書き出しで始まる本作は、全54帖からなりますが、第1帖「桐壺」の冒頭に「ましてやすからず」というフレーズがあります。

これは「ましてや+すからず」ではなく「まして(増して)+やすからず(安からず)」です。「心穏やかではない」「おもしろくない」という意味の「安からず」を強調しているので、今風に解釈すれば「めっちゃムカつく!」くらいの意味になるでしょうか。


【「ましてや」の「ビジネスでの使い方」がわかる「例文」3選】

「ましてや」は物事を強調したいときに使われる言葉ですが、ビジネスシーンではどのように用いたらいいのでしょうか。例文を参考に、自分が使うことを想定してみてください。

■1:「ベテランの○○さんでさえ苦労しているのに、ましてや新人には任せられない」

■2:「当事者の私が知らなかったのに、ましてや部外者が知るはずがない」

■3:「無駄な経費なんてまったくないのに、ましてや制作費削減だなんてふざけてる!」

「ましてや」は否定的な意思を強く伝える際に有効な言葉ですが、相手や話し方によっては“上から目線”と思われてしまう可能性も…。目上の人には、次の言い換え表現を使うなどして気を付けたいものです。


【「ましてや」の「類語」「言い換え」表現】

■なおさら・なおのこと

物事の程度が前よりいっそう進むさま。「先輩でも締め切りギリギリなら、私はなおのこと(なおさら)間に合わない」

■当然・当たり前

その事柄が、どう考えてもそうあるべきであること。そうであることが、なんら疑問の余地のないこと。「同じ間違いを何度も繰り返していたのだから、担当を外されて当然だ(当然担当を外されるべきだ)」

■おろか(疎か)

言うまでもないことである。もちろん。「掃除はおろか、食後に食器を台所に持っていくことさえしない」

■もってのほか(以ての外)

予想を越えて程度が甚だしい。また、そのさま。「時間ギリギリだなんて、社会人としてもってのほかだ」


【「ましてや」を「英語」にすると?】

■much  less(まして~なんてない、~はなおさら無理だ)

He is not kindness, much less polite.(彼は親切ではないし、ましてや礼儀正しくもない)

■to say nothing of(言うまでもなく)

I can beat even GIAN, to say nothing of NOBITA.(のび太は言うまでもなく、ジャイアンにも勝てる)

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今回の「ましてや」は、口語で使うと少々古風な感じがするでしょうか。使う頻度は低くても、ボキャブラリーは多いに越したことはありませんね。

この記事の執筆者
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参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/『使い方のわかる 類語例解辞典』(小学館)/『プログレッシブ英和中辞典』(小学館)/『ランダムハウス英和大辞典』(小学館) :