【目次】

猿楽町ってどこにあるの?「読み方」「場所」

猿楽町の「読み方」

渋谷駅から代官山に向かって緩やかな坂を登っていく途中に「猿楽町」がある。
渋谷駅から代官山に向かって緩やかな坂を上っていく途中に「猿楽町」がある。

東京都渋谷区の南部にある「猿楽町」は「さるがくちょう」と読みます。猿楽町は「丁目」のない単独町名。この辺りは、お隣の「代官山町」や「鶯谷町(うぐいすだにちょう)」「鉢山町(はちやまちょう)」など、単独町名の多いエリア。昔からの町名が残っているのも特徴です。

猿楽町の「場所」、渋谷までの距離は?

旧山手通り沿いにはブランドの旗艦店が並びます。写真は「バーミキュラ」の旗艦店でカフェも併設されている。
旧山手通り沿いにはブランドの旗艦店が並びます。写真は鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」の旗艦店でカフェも併設されている。

東京都渋谷区の南部、猿楽町は渋谷と恵比寿と中目黒を結んだエリアの中間に位置していて、原宿や青山と肩を並べるファッショナブルな街として知られている「代官山エリア」にあります。渋谷区「代官山町」という地名が猿楽町のお隣にありますが、猿楽町も含めたエリアのことを代官山と呼ぶのが一般的です。

猿楽町の住宅街。大通りから小道に入ると低層の建物が並んでいる。
猿楽町の住宅街。大通りから小道に入ると低層の建物が並んでいる。

ファッションスポットとして紹介されることの多い代官山に、「住む」というイメージが湧かないという人もいるかもしれません。ですが、高台にあるこの周辺は、渋谷の喧騒とは完全に切り離された別世界。とても静かな住環境が整っていて、ミュージシャンや俳優、文化人など、著名人もたくさん住んでいるといわれる人気エリアです。

旧山手通り沿いにある複合施設の「代官山T-SITE」。写真左手にあるのがレストラン「IVY PLACE」。朝9時からオープンしている。
旧山手通り沿いにある複合施設の「代官山T-SITE」。写真左手にあるレストラン「IVY PLACE」は朝8時からオープンしている。

ショッピングが楽しい複合商業施設が複数あるのもポイント。猿楽町で特に有名な施設といえば、住宅と店舗、ギャラリーなどが入っている「ヒルサイドテラス」と蔦屋書店を中心にした商業施設の「代官山T-SITE」です。お隣の代官山町にはスーパーマーケットやベーカリー、ドラッグストアやクリーニング店など生活に必要なものがなんでも揃えられる「代官山アドレス」もあります。猿楽町は住む人にとっても、訪れる人にとっても楽しい街です。

写真左側が「代官山アドレス」。建物入り口にある巨大な花のオブジェが特徴的だ。写真右側には新たに隈研吾設計の複合施設「フォレストゲート・代官山」が完成した。
写真左側が「代官山アドレス」。建物入り口にある巨大な花のオブジェが目印。写真右側には新たに隈研吾氏設計の複合施設「フォレストゲート代官山」が完成した(2023年10月19日オープン)。

猿楽町の「最寄り駅」

東急東横線の代官山駅は、渋谷から1駅3分の距離です。
東急東横線の代官山駅は、渋谷駅から1駅3分の距離です。

猿楽町の最寄り駅は東急東横線の「代官山駅」。渋谷駅と中目黒駅の間にあって各駅停車しか停まらない、とてもコンパクトな駅です。しかしながら、東急東横線は、渋谷駅から東京メトロ副都心線に、横浜駅からは横浜高速鉄道みなとみらい線へ相互乗り入れをしていてとても便利ですし、猿楽町から坂道を下っていけば渋谷駅。場所にもよりますが、徒歩で10〜15分程度です。また、恵比寿駅までも10〜15分程度、中目黒駅までも15〜20分程度です。猿楽町に住めば、話題のスポットとして紹介されるカフェやレストランも「徒歩圏」、ないしタクシーで1メーター、なんてことも「日常」です。

猿楽町の「地図」

猿楽町の「歴史」と「由来」

猿楽町の「歴史」を体感できる場所は?

猿楽町にある「旧朝倉家住宅」は、渋谷区が管理していて拝観料100円で見学することもできます。
猿楽町にある「旧朝倉家住宅」は、渋谷区が管理していて観覧料¥100(大人)で見学することができます。

猿楽町…代官山がどのような街なのかを知るため、ご紹介しておきたい場所があります。それは、重要文化財に指定されている、大正期の和風住宅「旧朝倉家住宅」。こちらの建物、どちらにあるか皆さんおわかりでしょうか。

「旧朝倉邸住宅」近くにある目切坂の頂上からは富士山が綺麗に望めたそう。現在はマンションが建っている(写真左)。
「旧朝倉家住宅」近くにある目切坂の頂上からは、昔は富士山が綺麗に望めたそう。現在はマンションが建っている(写真左)。

朝倉邸があるのは駒沢通りと旧山手通りが交差する鎗ヶ先交差点の近く。中目黒駅側から代官山方面へと続く「目切坂」という細い坂を上っていった「代官山ヒルサイドテラス」のお隣です。代官山によく遊びに行くという人でも、この建物に気付いていない人は多いのでは?と思うほど、ひっそりと建っています。

連日、この和風住宅を観に訪れる人の多くは外国人観光客なのだそう。
連日、この近代和風建築を観に訪れる人の多くは外国人観光客なのだそう。

このお屋敷は、関東大震災より前の大正8(1919)年に建てられました。 大正時代に建てられた屋敷を見学できるのはかなり貴重。接客のための座敷や家族向けの座敷、茶室などが良好な状態で残されているほか、美しい回遊式庭園も保存されていて、まるで京都を訪れたかのような優雅な時間を堪能できます。

「旧朝倉家住宅」庭園内には立派な樹木が残されている。
「旧朝倉家住宅」にある崖線という地形を生かした回遊式の庭園内には、立派な樹木が残されている。
「旧朝倉家住宅」の入り口は、「代官山ヒルサイドテラス」の裏側にある。
「旧朝倉家住宅」の入り口は、「ヒルサイドテラス」の裏側。

この家の所有者であった朝倉家は江戸時代にこの辺りの大地主となり、幕末には精米業を始めます。その後、婿養子に入った朝倉虎治郎によって建てられた建物が「旧朝倉家住宅」です。虎治郎は東京府議会議長のほかに、渋谷町会議長も務め、地元の繁栄に力を尽くしました。このお屋敷は、戦後、相続などで多くの土地や家屋を売却しなければならなかった苦しい時代に朝倉家から政府機関にわたり、公邸として使用されました。その後、お屋敷と庭園の保全運動が起こり、平成16(2004)年に国の重要文化財に指定されました。

猿楽町はなぜ高級住宅街になった?

複合施設の「代官山T-SITE」があるこの場所は、徳川圀順邸宅の後、「ノースウェスト航空」の所有する土地となる。
複合施設の「代官山T-SITE」があるこの場所は、徳川圀順邸宅の後、「ノースウエスト航空」の所有する土地となる。

朝倉家のほかにも、明治時代の早い段階から、西郷隆盛の弟、西郷従道など、著名人が暮らしていた代官山エリア。都心に近い高台で、富士山も見えるほどの眺望に惹かれたということも好まれた理由のひとつになっていたようです。東武鉄道社長の根津嘉一郎氏も、岩倉具視の別邸を購入し、ここで暮らしました。また、現在の「代官山T-SITE」は、朝倉家から土地を購入した水戸徳川家13代当主、徳川圀順(くにゆき)の邸宅があった場所です。

「同潤会代官山アパート」の跡地に建っているのが住居と商業施設が一体となった「代官山アドレス」だ。
「同潤会代官山アパート」の跡地に建っている住居と商業施設が一体となった「代官山アドレス」。

現在、さまざまな路線が乗り入れている「渋谷駅」ができたのは明治18(1885)年。日本鉄道品川線(現在の山手線)の渋谷駅開業時です。その後、昭和2(1927)年に東京横浜電気鉄道(現在の東急東横線)、昭和8(1933年)に帝都電気鉄道線(現在の京王井の頭線)が開通。一気に渋谷の交通の便がよくなり、周辺の宅地化が進みます。昭和2年には、代官山駅近くに「同潤会代官山アパート」が建てられました。これは、当時としては最先端技術が詰まっている注目の集合住宅でした。そして、代官山がおしゃれな高級住宅街へと進化する一石を投じたのが、昭和44(1969)年に完成した住宅とオフィスと店舗が一体となった複合施設「ヒルサイドテラス」です。

代官山のヒルサイドテラスはどんな場所?

「代官山ヒルサイドテラス」内にあるクリスマス用品専門店「代官山クリスマスカンパニー」は昭和60年創業。
「ヒルサイドテラス」内にあるクリスマス用品専門店「代官山クリスマスカンパニー」は昭和60年創業。
クリスマスカンパニーのすぐ近くにはレストラン「kuchibue」や「minä perhonen」が店を構える。
代官山クリスマスカンパニーのすぐ近くにはレストラン「洋食KUCHIBUE」やファッションブランド「minä perhonen」が店を構える。

戦後、朝倉家は、不動産業を営んでいました。そして、自らの所有していた旧山手通り沿いの細長く広い傾斜地に住居、住居と商業施設とオフィスが一体となった「ヒルサイドテラス」 を建てます。代官山ヒルサイドテラスはA〜H棟、さらにヒルサイドウエストまである、とても広大な敷地にある複合施設です。設計をしたのは、建築家の槇文彦氏。A棟とB棟が完成したのは、昭和44(1969)年のこと(第一期)。 この建物がとてもおもしろいのは、ゆっくりと時間をかけて全体が建てられているという点。なんと、 第6期計画であるF・G・H棟が完成したのが1998(平成10)年なんです。 とにかく早急に建てられる現代の高層ビルと大きく違い、周辺の変化になじむように、住民が快適に過ごせるようにとゆっくりと建てられていった建物として業界からも注目されています。

代官山ヒルサイドテラスのすぐ裏側には、「旧朝家邸住宅」がある。駐車場からは住宅の緑が見える。
代官山ヒルサイドテラスのすぐ裏側には、「旧朝倉家住宅」がある。駐車場からは住宅の緑が見える。

建設計画がなされたとき、この辺りは第一種低層住居専用地域になっていて、建物の高さも10メートルまでという規制がありました。そのため、ヒルサイドテラスも低層です。厳しい条件のもと、回遊性のよさなど人が施設の中を楽しく歩き回れる仕掛けをすみずみに設けながら、デザイン性を重視して造られた建物は注目を集め、代官山という街のさらなる価値向上にもつながりました。その後、ヒルサイドテラスの正面にできた「代官山T-SITE」をはじめ、代官山の発展の規範ともなっています。

猿楽町の「由来」

ヒルサイドテラス 内にある猿楽神社。
ヒルサイドテラス 内にある猿楽神社。

猿楽町の「猿楽」とは元々、東京府豊多摩郡渋谷町大字下渋谷の小字(こあざ)でした。昭和3年から渋谷町の大字名になり、昭和7年に渋谷区の町名となります。

猿楽町の町名の起源は「猿楽塚」だといわれています。「猿楽塚」とは、この辺りにあった大小2基の古墳時代の円墳のおおきいほうの名前です。なぜ「猿楽」と呼ばれたかという由来には諸説あって、「鎌倉時代に、源頼朝がこの地で猿楽(のちの能楽)を催し、その道具を埋めた」とか「渋谷の長者がこの辺りで宴を楽しんだことから我が苦を去るという意味で去我苦(さるがく)といわれ、のちに猿楽となった」といった説があります。

そしてこの猿楽塚は、今でもヒルサイドテラス敷地内で「猿楽神社」と共に見ることができます。旧朝倉家住宅の崖線にある広大な庭園を抜けると、ちょうど猿楽塚に出ます。

「旧朝倉家住宅」の緑が生茂る庭園を抜けると突然近代的な建物が現れる。代官山の面白さを感じる場所だ。
「旧朝倉家住宅」の緑が生い茂る庭園を抜けると突然近代的な建物が現れる。代官山のおもしろさを感じる場所だ。

住みやすさは?猿楽町の「魅力」

■1:旧山手通り沿いには高い建物がないんです

旧山手通り沿いにあるフランス料理レストラン「ASO」もザ・代官山らしい建物だ。
旧山手通り沿いにあるフランス料理レストラン「ASO」もまさに代官山らしい建物だ。

訪れたときにぜひ意識してみてほしいのが、猿楽町エリアの南西側にある「旧山手通り」。道路幅が22メートルと広く、両側に並木が続く立派な道路で、人気ブランドの旗艦店が並ぶ、代官山の顔ともいえる通りです。東京の場合、こういった人気の場所にある道路の両側には高層ビルが建つのが一般的。ですが、低層の「ヒルサイドテラス」が建つこのエリアには高層の建物がありません。というのも、「街の発展には立派な道路が必要」という土地所有者だった朝倉虎治郎や、ゆとりを求める周辺住民の考えも反映されているよう。現在、この道路沿いには一戸建て住宅はほぼありませんが、今でも第2種低層住居専用地域という規制がかかっていて今後も高層ビルはできません。空も広く感じられる気持ちのよい場所だからこそ、住宅地としての価値も高いんです。

旧山手通り沿いには電柱もありません。大通り沿いに高い建物がないのは、東京都内では稀有。
旧山手通り沿いには電柱もありません。大通り沿いに高い建物がないのは、東京都内では稀有(けう)なこと。

■2:早起きして散歩をしたくなる街です

アップルパイの美味しいカフェ「松之助N.Y東京・代官山店」は行列のできる人気店。お隣にはキッチン&テーブルウェアの「チェリーテラス」がある。
アップルパイの美味しいカフェ「松之助N.Y 東京・代官山店」は行列のできる人気店。お隣にはキッチン&テーブルウェアの「チェリーテラス」がある。

代官山は朝が早い街です。 例えば、「代官山T-SITE」内にあるカフェ「シェアラウンジ」は朝7時から、蔦屋書店は朝9時からオープンしています。代官山ヒルサイドテラス内にある「松之助N.Y 東京・代官山店」は朝9時スタート。旧山手通りを超えて目黒区側には、「西郷山公園」や「菅刈公園」など、早起きをしたら愛犬との散歩が楽しめる公園も揃っています。朝活派にはぴったりの場所です。

「菅刈公園」は猿楽町から目黒川の方向へ下っていった場所にある。芝生の綺麗な公園だ。
「菅刈公園」は猿楽町から目黒川の方向へ下っていった場所にある。芝生の綺麗な公園だ。

■3:ショッピングが楽しい4つの複合施設があります

八幡通り沿いにある「代官山アドレス」にはスーパーマーケットが入っている。
八幡通り沿いにある「代官山アドレス」にはスーパーマーケットが入っている。

高級マンションの入った「ヒルサイドテラス」や「代官山アドレス」は、完成した当時は東京の最先端といわれた建物でした。これらの建物には商業施設なども併設され、常に新進気鋭のお店が集まり、ショッピングが楽しめます。旧山手通り沿いに平成23(2011)年にオープンした「代官山T-SITE」は蔦屋書店を中心にしたライフスタイル提案型の商業施設で、おしゃれなイベントもたくさん行われています。また、「代官山アドレス」のお隣には「フォレストゲート代官山」が完成したばかり。こちらもオフィスと商業施設と住居が一体となった複合施設で代官山の新しいランドマークになりそうです。

「フォレストゲート代官山」にも、カフェ「ブルーボトルコーヒー」やレストラン「MIDTREE」など話題のお店が集まる。
「フォレストゲート代官山」にも、カフェ「ブルーボトルコーヒー」やレストラン「MIDTREE」など話題のお店が集まる。

■4:ターミナル駅の渋谷駅が徒歩圏内です

渋谷駅はさらなる進化に向けて工事が進んでいる。
渋谷駅はさらなる進化に向けて工事が進んでいる。

猿楽町から徒歩で行ける渋谷駅は、よく知られているようにJR山手線・埼京線・湘南新宿ライン、東京メトロ銀座線・半蔵門線・副都心線、京王井の頭線、東急東横線・田園都市線など、乗り入れ路線がとても多いターミナル駅です。これだけの路線が使えるので、通勤や通学にもとても便利。渋谷は100年に一度という大開発により、渋谷スクランブルスクエア、MIYASHITA PARK、渋谷ストリームなど新しい商業ビルがどんどん建てられています。これからどのように変化するのか、トレンドの発信地としても目が離せない注目の渋谷がすぐ近くにありながらも、高台にある猿楽町からは適度に離れているという絶妙な距離感が魅力です。

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新進気鋭のアパレルショップの集まるイメージが強い代官山〜猿楽町エリアですが、同じくファッションの街、原宿とはまた違った優雅な時間の流れる街だと感じました。朝からオープンしているお店も多く、美味しいコーヒーを飲みながら朝活ができるのも魅力的です。なぜここが高級住宅街になったのか、その歴史を紐解くとますます猿楽町に惹かれます。これからの進化も楽しみ。将来の高級住宅街のあり方が見えてくる街でした。

参考:渋谷区ホームページ
   目黒区ホームページ
   代官山ヒルサイドテラス
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PHOTO :
AC,柳堀栄子
WRITING :
柳堀栄子