神社やお寺などでは、「おみくじ」の箱を軽く振って棒を振り出し、社務所の方に番号を伝える「おみくじ」をくださいます。最近では、箱の中に入っているおみくじを選んでひとつ取るタイプや、からくり人形がひとつ引いてくれるタイプなど、おみくじの種類も豊富ですね。いずれにしろ、「別に期待してないし…」とは思いつつも、ひいたおみくじのなかに「大吉」の文字を見つけたときは嬉しもの。でも「おみくじ」って、そもそも何? いただいたあとは木に結ぶ? それとも持ち帰る? 今回は意外と知らない「おみくじ」の作法について解説します。

【目次】

和歌や漢詩を読み飛ばしていませんか?
和歌や漢詩を読み飛ばしていませんか?

【「おみくじ」を深く理解するための「基礎知識」】

■「おみくじ」ってそもそも何?  

「おみくじ」とは「くじを引いて神意を問う占いの一種」です。

■「和歌」や「漢詩」こそが神さま仏さまからの「お告げ」です

日本人は昔から、悩みや不安、願いがあるときに神さまに祈ってきました。祈りが届くと、神さまは夢に現れたり、巫女などが神がかりしたりして、お告げを伝えたとされています。実はそのお告げの多くは和歌で示され、それは「託宣歌(たくせんか)」と呼ばれていました。「託宣歌」を受け取った人は、その和歌を拝読し解釈して、神さまからのお告げを理解したのです。

さらに、お告げの歌を読み解くところから、和歌による占いが生まれました。これが現在多くの神社で見られる「和歌みくじ」のルーツです。つまり、「おみくじ」でいちばん大切なのは、「大吉」「小吉」といった運勢ではなく、ひときわ大きく書かれた和歌や漢詩なんです! ご存じでしたか? ちなみに、神社で頂く「おみくじ」は和歌で、お寺で頂く「おみくじ」は漢詩が書かれていることが多いようです。これは仏教のお経が中国語である漢文で伝えられてきたたためといわれています。

■漢字で書くと?

「おみくじ」の漢字表記は「御神籤」「御御籤」。「みくじ」ともいい、この場合は「御鬮」「御孔子」とも表記します。「おみくじ」は「神仏のお告げ」ですから、「くじ」に「お」や「おみ」といった接頭語をつけた尊敬語の敬語表現となっています。


【神社で引いたおみくじの「返し方」の作法とは?】

■「持ち帰る」?それとも「結ぶ」?  

引いた「おみくじ」、特に凶と書かれた「おみくじ」を引いたら、「どこかに結びつけなくてはいけない」と思い込んでいませんか? 「おみくじ」を木に結びつける習慣は江戸時代からありましたが、たくさんの「おみくじ」で木の芽や葉が傷んでしまうため、最近では「おみくじ」を結ぶ場所が境内に設けられています。でも実は、奈良の東大寺二月堂の「おみくじ」のように、「何かにくくりつけると、思いが結ばれて願いごとがなかなか叶わない」とされるものもあるのです。「おみくじ」を結んだ方がよいのか、持って帰るのがよいのかは、その神社やお寺によってバラバラのため、特に決まりはありません。

神さま仏さまからのメッセージをじっくりと読んで考え、これからの指針にするためには、「おみくじ」は結びつけずに持ち帰るのもおすすめです。そうすれば、何度も読み返すこともできますから。

■神さま、仏さまに御礼をお伝えするのを忘れない

「おみくじ」を引いたあとは、神さま仏さまへの御礼をお伝えするのを忘れないようにしましょう。本殿に向かい、「貴重なお告げをありがとうございました」との思いを込めて、一礼するとよいそうですよ。

■持ちかえったおみくじ、そのあとは?  

「おみくじ」を引いたらそれっきり。バッグに入れっぱなしでボロボロになっていたり、「どこへやったか忘れてしまった」という人もいるかもしれません。でもそれでは、せっかくの「お告げ」を活かせずに残念です。引いた「おみくじ」は手元に置いて読み返し、さらにその後の報告を神さま仏さまにできるのが理想。いずれにせよ「おみくじ」を雑に扱うのはNGです。

■処分する「タイミング」は?  

・初詣のとき
「『おみくじ』を引くのは初詣で」という人は多いですよね。基本的に年の初めにいただいた「おみくじ」には年内のお告げが書かれています。次の初詣の際、前年の「おみくじ」を返納するのがベストです。

・お告げが実現したときや、願い事が叶ったとき
「おみくじの通りのことが起こった!」あるいは「願いが叶った」ときには、できれば同じ神社やお寺をお参りして結果をご報告し、感謝の気持ちを伝えましょう。その時に前の「おみくじ」はお返ししましょう。

■「違う神社」に返すのはOK?

持ち帰った「おみくじ」は、いただいた神社やお寺に返納するのがいちばん。神社やお寺に設置されている、古いお札を収める「古札入れ」や、古札受付と書かれたところにお返ししましょう。とはいえ、お返ししたい気持ちはあっても、遠方で簡単には行けないこともあるりますよね。「おみくじ」をお納めするのは、必ずしも引いた神社やお寺でなくても構わないとされています。地元の神社にお参りしたり、あるいは1月15日に神社で行われる「どんと焼」に持参して燃やしていただくのもいいですね。ただし、神社でいただいた「おみくじ」は神社に、お寺の「おみくじ」はお寺に納めるのが作法です。

また、「おみくじ」を引いた遠方の神社やお寺に、郵送で返納するという方法もあります。ただし、事前に郵送が可能かどうか必ず確認してからにしてくださいね。そして最後の手段が…燃えるゴミに出して処分する、という方法です。どうしてもやむを得ないときには、「おみくじ」を和紙や半紙、あるいは封筒やビニール袋などに入れ、粗塩を添えて捨てるとよいとされています。忘れていただきたくないのは、神さま仏さまに敬意を払い、感謝の気持ちをお伝えすることです。


【「悪いおみくじ」と「いいおみくじ」ってあるの?】

「おみくじ」を引いたとき、皆さんは「吉凶」などの運勢を見た後、どこを読みますか?「恋愛」や「健康」「探しもの」など、関心のある項目は確認しますよね? でも「おみくじ」は本来、神仏のお告げ。いちばん大切なのは、添えられた和歌や漢詩であることは、前述した通りです。

■「吉凶」はひとつの目安

「吉凶」は、あくまで神さま仏さまからのお告げの中のひとつの目安です。「悪いおみくじ」「よいおみくじ」というのはありません。一喜一憂せずに和歌や漢詩をじっくり読むことが大切ですよ。とはいえ、やはり結果は気になるものですよね。皆さんは、そもそも「吉凶の種類」がどれくらいあるのか、ご存じですか?神社やお寺によって順位や解釈が異なることもありますが、大吉から大凶まで、7つまた9つに分けるのが一般的

【おみくじの吉凶が7種類あるもの】
大吉→吉→中吉→小吉→末吉→凶→大凶
【おみくじの吉凶が9種類あるもの】
大吉→吉→中吉→小吉→半吉→末吉→末小吉→凶→大凶

大吉の次が吉、ということを知らなかった方も多いのでは? ちなみに「凶」は、「よくはないが今が底。自分の行いを見つめ直して改善すれば、運は上昇していく」。そして「大凶」は「最悪に思えるが、さらに落ちる可能性あり。むやみに行動せず、身をかがめて嵐が過ぎるのを待つのがよし」という意味だそうです。最近では「凶」のない「おみくじ」も増えているのだとか。特にお正月は神さま仏さまも人々を祝福する気持ちが高まって、おみくじから「凶」が消えたり「大吉」が増えたりすることもあるようですよ。

■注意点:「おみくじ」は何度も引かない

「おみくじ」は心を集中させて引くことが肝心です。同じ内容を複数の神社仏閣で占うのは、すでにお告げをくださった神さま仏さまを信用していないことになるためNGとわれています。願い事をかえて引くときは、恋愛の相談なら縁結びに御利益のある神社で、学問のご相談は菅原道真公をまつる天満宮でという具合に、御祭神の御利益に応じて、お尋ね事を決めるとよいですね。また、「大吉が出るまで何度も引く」といった占い方も、「おみくじ」に気持ちが集中しないため、自分にふさわしいお告げをいただくことが難しくなってしまうそうですよ。

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平野多恵さんの著書『神さまの声をきく おみくじのヒミツ』によれば、「おみくじ」は、自分が心地よいと感じたり、心惹かれる神社やお寺でいただくのがおすすめなのだそう。そして大切なポイントは、「おみくじ」をいただく前に、まずは神さま仏さまがまつられているところを参拝すること。そして「おみくじ」を引く前に、悩みや相談の内容をできるだけ具体的に、質問のかたちで心に思い浮かべてから引くのがよいそうです。例えば、「仕事」の「成就」を祈るならば、その質問に心を集中して「おみくじ」を引き、「事業」や「商い」の項目を見ます。すべての項目を見る必要はありませんが、自分の願い以外の項目で目に飛び込んでくる言葉があったら、それは今のあなたに必要なメッセージです。「おみくじ」を味方につてけ、日々の暮らしに活かせるといいですね。

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『神さまの声をきく おみくじのヒミツ』(河出書房新社) :