「忘却の彼方」は「記憶や想い出をすっかり忘れてしまうこと」を指す言葉です。なんとなく文学的な香りのする美しい日本語表現ですね。とはいえ、意味が曖昧になっているのは困ります。今回は「忘却の彼方」について、その意味や使い方、言い換え表現などを解説します。この機会にぜひ、覚えていただけると幸いです!

【目次】

忘却の彼方とは?思い出したくないこともいずれは……。
思い出したくないこともいずれは…。

【「忘却の彼方」の「読み方」と「意味」】

■読み方

「忘却の彼方」は「ぼうきゃくのかなた」と読みます。

■意味

「忘却」には「すっかり忘れてしまうこと」「忘れ去ること」という意味があり、「忘れる」の程度が強調された熟語です。これは「却」に動詞のあとについて「~し終わる」という意味があるため。「彼方」は「あちら」「あっちの方」という意味で、話し手・聞き手の双方から離れた場所や方向、あるいは現在から遠く離れた過去・未来を示します。つまり、「忘却の彼方」とは「(時間的にも空間的にも)遠く離れたところに、忘れ去ってしまうこと」を表す言葉です。この場合、忘れ去ってしまったのは、記憶や想い出など、かつて確実に存在していたものです。


【「使い方」がわかる「例文」4選】

「忘却の彼方」は基本的に日常会話で使われることはあまりない、書き言葉ですが、あえて口頭で使うことで、「すっかり忘れた」ことを強調する効果があります。「忘却の彼方」となった記憶や想い出には、楽しかったこと、悲しかったこと、つらかったことなど、さまざまな出来事が含まれます。

■1:「あの忌まわしい戦争も、今では忘却の彼方の出来事となってしまった。二度と繰り返さないためにも、語り継いでいかねばならないだろう」

■2:「あなたと過ごした日々は、私にとってすでに忘却の彼方なの。やり直す気には到底なれないわ」

■3:「誰でも、忘却の彼方に葬り去りたい黒歴史をひとつくらいはもっているものだ」

■4:「休暇を取って南の島に来ています。美しい海を眺めていると、慌ただしい日々のストレスも一瞬で忘却の彼方です」


【「類語」「言い換え」表現】

通常の会話で使うには「忘却の彼方」は少々仰々しく感じられます。身近な言葉に置き換えてみましょう。

■失念

「忘却する」は完全に忘れてしまっている場合に使いますが、「失念する」は「覚えているべきことを、一時的につい忘れたような状態」を指します。ちなみに「物忘れ」は、物事を忘れやすいことで、具体的に「○○を物忘れする」といった使い方はしません。

■忘失(ぼうしつ)

「忘失」は「すっかり忘れてしまうこと。また、忘れてなくすこと」という意味の書き言葉です。

■記憶を失う

■思い出せなくなる

■すっかり忘れた

■まったく覚えていない、ちっとも思い出せない


【「英語」で言うと?】

「忘却」を意味する英単語は[oblivion][forgetting]です。また、[passed into oblivion]というフレーズで「忘却の彼方」のニュアンスを伝えることができます。

・The civilization passed into oblivion.(その文明は世間から忘れ去られた)

***

「忘却の彼方」は、記憶や想い出など、一度は確かに存在していたものを完全に忘れ去ってしまうことを言います。「時薬(ときぐすり)」という言葉もあるように、どれ程、悲しい出来事もつらい経験も、長い時間が経てばやがて「忘却の彼方」へ。傷はいつか癒やされます。大切な約束を忘れるなど、誰かに迷惑をかけるのは困りますが、「忘れる」のは悪いことばかりでもなさそうです。

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『プログレッシブ英和中辞典』(小学館) /『プログレッシブ和英中辞典』(小学館) /『角川類語新辞典』(角川書店) :