あまり日常で見聞きしない言葉ですが、「俎上」は「まな板の上」を表します。まな板といえば…そうです、「まな板の鯉」を連想しますね! 今回のテーマは「俎上」。少々難しい読み方から、故事成語となったフレーズの出典、使い方がよくわかる例文や言い換え表現を解説します。
【目次】
【「俎上」を正しく理解するための「基礎知識」】
■読み方
「俎上」は「そじょう」と読みます。「俎」はあまり馴染みがない漢字ですから、難しいですね。
■意味
「俎上」の「俎」には、「机の形をした祭器。牲(いけにえ)を供える台」と「魚や肉などの料理台(まな板)」というふたつの意味があります。「俎の上」である「俎上」は、そのまま「まな板の上」となりますが、「調理すること」や「調理したもの」、「料理」という意味に加え、「俎上の魚」という故事成語を略した言葉としても用いられます。まな板に載せられた魚は、これから調理されるのを待つだけで、万が一にも助かる見込みはありません。ここから転じて、「相手のなすがままに任せるほかないような状態」、「自分の運命を相手に握られている状態」のたとえに使われます。「俎上の魚」と聞くといかめしく感じられますが、意味としては「まな板の鯉」と同じです。
■由来
「俎上」の由来は中国前漢時代の歴史書『史記』の「項羽紀」です。以下、ストーリーを簡単にご紹介しましょう。
紀元前206年、秦王朝を滅ぼすために立ち上がった武将・劉邦は、総大将・項羽の怒りを買ったため、項羽の陣を謝罪のために訪れた。項羽は劉邦を許すが、項羽の部下たちは劉邦を亡き者にしようと隙を窺っている。危機を察した劉邦の部下たちは、劉邦に逃げるように進言するが、劉邦は項羽に暇乞いの挨拶をしていないことを気に掛け、動こうとしない。すると、部下のひとりが「この瞬間、人はまさに刀俎たり、我は魚肉たり(相手は包丁とまな板で、我々は魚や肉なのです)」と説得したため、劉邦も納得してようやく立ち去った。危機を脱した劉邦は、のちに項羽を打ち破り、前漢王朝を樹立することになる。
この逸話から、「俎上(の魚)」という故事成語になりました。「俎上(の魚)」は絶体絶命のピンチのように思われますが、後に大逆転を迎えることもあるのですね!
【「俎上に載せる」の意味は?】
「俎上に載せる」とは、ある物事や人物を、こちらが自由に処理できるような対象として取り上げたり、議題として論じたり批判したりすることを意味する言葉です。この場合のまな板は、公的な会議や集会、ミーティング、最近ではネット上のスレッドなど、さまざまな意見が集まる場、ということになります。
【「俎上に上げる」は誤用?】
『日本国語大辞典』では「俎上に載せる」と同義の言葉として「俎上に上(のぼ)せる」を挙げています。また、「批判や議論の対象となる」という意味の言葉として「そじょうに上(のぼ)る」という記載もありますが、「俎上に上(あ)げる」はありません。「俎上に上げる」は、元々は「俎上に上せる」の誤用だったのかもしれませんが、現在では「俎上に載せる」と同じ意味で使われています。
【「使い方」がわかる「例文」5選】
■1:「先日行われた人事に関する会議では、A部長更迭の是非が俎上に載った」
■2:「報道ではライバルであるA社の躍進が俎上に上がり、社員たちの志気を高めることにつながった」
■3:「国会で俎上に載せられた詐欺事件は、新たな風評被害を生まな板めにも真相解明が急がれる」
■4:「日本はW杯予選ですでに2敗。予選敗退目前の俎上の魚だ」
■5:「ちょっとした誤解からあることないこと噂されて、まるで俎上の魚の気分だよ」
【似た意味をもつ「類語」「言い換え」表現】
「俎上」は、大人の語彙力としてはぜひ覚えておきたい言葉ですが、日常会話で使うには、少々わかりにくですね。同じような意味を表す言い換え表現も押さえておきましょう。
■「俎上の魚」の「類語」「言い換え」
・俎上の肉
・まな板の鯉
・手も足も出ない
・お手上げ
・絶対絶命
・途方に暮れる
■「俎上に載せる」を言い換えると…?
・議題にする
・批評の的とする
・会議や紙面、誌上で取り上げる
・論点にする
・ネタにする
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一般的に「俎上(の魚)」といえば絶体絶命のお手上げ状態と解釈されますが、項羽と劉邦の逸話のように、後に奇跡の大逆転を迎えることもあります。大逆転までいかずとも、ピンチを脱して安全なところへ移ることを「俎上の魚(うお)江海(こうかい)に移る」というフレーズで表現できますよ。重要な局面を乗り切ったときなどに、さらっと使ってみたいですね。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『故事成語を知る辞典』(小学館) :