人気漫画家モンキー・パンチ氏原作による漫画やテレビアニメでお馴染みの「ルパン三世」シリーズが、新作歌舞伎『流白浪燦星』となって新橋演舞場にて上演されます。本作は石川五右衛門が実在した安土桃山時代を舞台に古典歌舞伎の技法や演出も盛り込みながら、歌舞伎とルパンの世界が融合されたオリジナルの物語で展開される話題作。劇中では国宝級の秘宝である“卑弥呼の金印”を巡って、怪盗ルパン三世と大盗賊の石川五右衛門が大立廻り。注目のルパン役は片岡愛之助さん、石川五右衛門は尾上松也さん、次元大輔は市川笑三郎さん、峰不二子を市川笑也さん、銭形刑部は市川中車さんが演じるという12月公演にふさわしい豪華な顔ぶれです。新作歌舞伎の出演は今年3作目となる尾上松也さんにお話をうかがいました。

歌舞伎俳優の尾上松也さん
ジャケット¥93,500・シャツ39,600・パンツ¥39,600(ウィーウィル)その他/スタイリスト私物
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尾上松也さん
(おのえ・まつや)1985年、東京都出身。屋号は音羽屋。5歳で父・六代目尾上松助の襲名披露にて、二代目尾上松也として『伽羅先代荻』の鶴千代役で初舞台を踏む。以降、古典歌舞伎の舞台出演を重ねながら2009年より歌舞伎自主公演『挑む』を主宰。歌舞伎以外にも映画、ドラマ、ミュージカル、吹き替えなど幅広く活躍。2019年には山崎育三郎さん、城田優さんとのプロジェクトIMY(あいまい)を結成する。2023年は『新春浅草歌舞伎』、歌舞伎座新開場十周年『團菊祭五月大歌舞伎』公演など古典歌舞伎の舞台に立つほか、月9ドラマ『女神の教室』に出演、映画『Gメン』、『ミステリと言う勿れ』が公開、9年ぶりの出演となったミュージカル『スリル・ミー』にも出演と精力的に活動。新作歌舞伎は『ファイナルファンタジーX』、『刀剣乱舞-月刀剣縁桐-』に続いて今年3作品目の『流白浪燦星(ルパン三世)』が12月5日より上演される。

歌舞伎を観慣れている方にも予想のつかない舞台になるかもしれません」尾上松也さん

――新作歌舞伎『流白浪燦星』は世代を越えて愛されてきた人気漫画の歌舞伎化とあって、チケット発売日にはネット上で“ルパン×歌舞伎ってすごく面白そう!”と、期待の声がタイムラインをにぎわせました。オファーを受けたときの松也さんの感想はいかがでしたか。

「そうですね。僕としても“遂にあのルパン三世を歌舞伎にするのか!”という思いがよぎりました。今年携らせていただいた新作歌舞伎は、春は『ファイナルファンタジーX』、夏は『刀剣乱舞-月刀剣縁桐-』と、非常に人気のある作品を原作にした演目ばかりでした。そして1年を締めくくる12月の上演が『流白浪燦星』。良い経験をさせていただけてありがたく思っています」

――出演者の撮り下ろし写真には原作へのこだわりが感じられました。ルパンは鮮やかな赤と黒の和装にトレードマークのもみあげまで。石川五右衛門も原作同様、水色の着流しにさらしを巻いたビジュアルでした。

「僕も自分の衣裳を写真撮影の日に初めて目にしました。原作がモンキー・パンチさんのルパンということであれば明確なキャラクターのカラーとイメージがすでにありますので、すべてのキャラクターがそれを踏襲することでよりいっそうの面白さが増してくるのではないかと思っています」

「1年を締めくくる12月の上演が『流白浪燦星』。良い経験をさせていただけてありがたい」(尾上さん)
「1年を締めくくる12月の上演が『流白浪燦星』。良い経験をさせていただけてありがたい」(尾上さん)

――歌舞伎には盗賊が活躍する“白浪物(しらなみもの)”というジャンルがありますが、今作のタイトルにも“白浪”という文字が当てはめられていましたね。

「『流白浪燦星』は新作歌舞伎ですが、古典歌舞伎のさまざまな“名場面”も折り込みながら構成される舞台となっています。手法として“本水(ほんみず)(※注1)”“だんまり(※注2)”などが取り入れられたり、ルパン三世のテーマ曲などは和楽器でアレンジされたものが流れると聞いています。とはいえ、モンキー・パンチ版という言葉をしっかり意識して演じるほうがいいとも思っているんです。アニメの印象が強いですのでそれを裏切りたくはないという気持ちがあります。石川五右衛門についても基本的には原作アニメのキャラクターの雰囲気を参考にしなければと思っています」

※ 注1/本水…通常歌舞伎では水を表現するときに本物の水は使用しない。しかし演目によっては特別に舞台上で本物の水を使って川や海を表現する場合もある。※ 注2/だんまり…複数の登場人物が暗闇の中で言葉を発さないまま、黙ってお互いを無言で探り合う演出のこと。

――五ェ門といえば寡黙な二枚目というイメージがありますよね。

「そちら系のキャラですね。物語の中で全員がコミカルな芝居をする場面もあったりするのでいちがいには言えないですけれども、今回登場する人物の中では最も“カッコつけてる”キャラクターになります」

――ルパン役の愛之助さんを始め座組みも非常に豪華です。公演に際してどのような期待をされていますか。

「愛之助さんとは新作で何度もご一緒させていただいていますし、中車さんとも個別に作品をご一緒させていただいたことがあります。笑三郎さん、笑也さんとももちろん共演の経験があるのですが、このメンバーでそろってメインに入る座組みというのは、たぶんこれまで一度もなかったように思います。そういう意味では歌舞伎を見慣れている方にもあまり予想のつかない舞台になるのかなという気はしています。僕は中車さんと新作歌舞伎を一緒につくっていく機会は初めてですので、そこはとても楽しみにしている部分でもあります」

「座長のルパンを支えてついて行くのが、今回の僕たちの使命です」尾上松也さん

「舞台や演劇と同じで、新作歌舞伎でも古典歌舞伎でも毎日上演をしていく中で少しづつ変化していくものがあります。初日と楽日では自ずと演者自身の考え方も変わってきます。今回ルパン三世を表現するにあっても、いったいどんなことが効果的なのか、臨機応変にみんなで探っていく舞台になるのではないかと予想しています」

歌舞伎俳優の尾上松也さん
「いったいどんなことが効果的なのか、臨機応変にみんなで探っていく舞台になるのでは」(尾上さん)

――観る側も複数回足を運ぶのが楽しみな舞台になりそうですね。

「新たな発想や新たな形が生まれる可能性もありますからね。そのぶん、生みの苦しみも山ほどあるわけですが、そうやって役者や舞台に関わる全員で悩みながら進んでいくことが楽しかったり、醍醐味だったり…。僕が思う新作歌舞伎をつくる楽しみというのはそういうところにあります。そして今回の公演はタイトルがルパン三世なのですから、もうみんなで座長・ルパン三世についていけばいいんですよ(笑)。僕を含むルパン以外の4人は、支えてついていくことがミッションだと肝に銘じています」

――最後に、新作歌舞伎の楽しみ方についてアドバイスをお願いします。

「歌舞伎って、芝居もあれば歌も踊りも音楽も楽しめる、本当になんでもありのエンターテインメントなんです。ですから新作でも古典でも、演目に歌舞伎とついていれば歌舞伎ですし、演者が歌舞伎だと思えば歌舞伎なのだと思っています。どれが正しい鑑賞法だということもありませんので自由に気楽に楽しんでいただければ。特に本作は、歌舞伎が初めてでもルパン三世を見たことがある方にとっては入りやすい作品になっています。歌舞伎の入り口として楽しんで観ていただければ幸いです」

歌舞伎俳優の尾上松也さん
「歌舞伎の入り口として楽しんで観ていただければ」(尾上さん)
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松也さんも気合いたっぷりの歌舞伎版ルパン三世は、会場でレンタルできるイヤホンガイドのコンテンツも充実。愛之助さんによる見どころや歌舞伎化するまでのこだわりポイントを開演前や休憩時間に聞くことができます。インタビューのVol.2では、松也さんが考える歌舞伎の魅力についてお聞きしているのでお楽しみに。


■新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』が新橋演舞場にやってくる!

2023年12月5日(火)初日~25日(月)千穐楽

■あらすじ
時は安土桃山時代。怪盗・ルパン三世とその仲間の次元大介は“卑弥呼の金印”という国宝級のお宝を狙っています。金印の封印を解くには雄龍丸と雌龍丸という 2 本の宝剣が必要で、金印と宝剣が揃った暁には世を統べる力を手にできると伝えられています。しかし雌龍丸は大盗賊として名を轟かせる石川五右衛門の手の中。五右衛門も同じく卑弥呼の金印を狙っていたのでした。 ルパンが惚れる峰不二子も何か事情を知る様子。さらに天下をおさめる真柴久吉も金印を探しているようで、ルパンの因縁のライバル・銭形警部もルパンと五右衛門らを追っています。
ひとつのお宝を巡る争いの結末は――?

■配役
ルパン三世 片岡 愛之助
石川五右衛門 尾上 松也
次元大介 市川 笑三郎
峰不二子 市川 笑也
銭形刑部 市川 中車
傾城糸星/伊都之大王 尾上 右近
長須登美衛門 中村 鷹之資
牢名主九十三郎 市川 寿猿
唐句麗屋銀座衛門 市川 猿弥
真柴久吉 坂東 彌十郎

■スタッフ
モンキー・パンチ 原作「ルパン三世」より
戸部和久 脚本・演出
大野雄二 作曲(オリジナルテーマ)
藤間勘十郎 振付
山中隆成 美術
多賀正記 照明
苫舟 編曲監修
鶴澤慎治 竹本作曲
杵屋栄十郎 附師
田中傳次郎 作調
湯浅典幸 音響
富永美夏 衣裳
下柳田龍太郎 舞台監督

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PHOTO :
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STYLIST :
椎名宣光
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WRITING :
谷畑まゆみ