歌舞伎俳優の尾上松也さんが石川五右衛門に扮する話題の新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)」が新橋演舞場にて絶賛上演中です。原作は人気漫画家モンキー・パンチ氏による「ルパン三世」シリーズ。歌舞伎でもお馴染みの初代石川五右衛門が実在した時代を舞台に設定して、“もしも安土桃山時代にルパン一味が存在したら…?”というユニークな発想から生まれたオリジナルストーリーの公演です。今年、『ファイナルファンタジーX」、『刀剣乱舞-月刀剣縁桐-」そして『流白浪燦星(ルパン三世)」と、3つの新作歌舞伎に出演された松也さんに、歌舞伎の魅力についてお聞きしました。

歌舞伎俳優の尾上松也さん
ジャケット¥93,500・シャツ39,600・パンツ¥39,600(ウィーウィル)その他/スタイリスト私物
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尾上松也さん
(おのえ・まつや)1985年、東京都出身。屋号は音羽屋。5歳で父・六代目尾上松助の襲名披露にて、二代目尾上松也として『伽羅先代荻』の鶴千代役で初舞台を踏む。以降、古典歌舞伎の舞台出演を重ねながら2009年より歌舞伎自主公演『挑む』を主宰。歌舞伎以外にも映画、ドラマ、ミュージカル、吹き替えなど幅広く活躍。2019年には山崎育三郎さん、城田優さんとのプロジェクトIMY(あいまい)を結成する。2023年は『新春浅草歌舞伎』、歌舞伎座新開場十周年『團菊祭五月大歌舞伎』公演など古典歌舞伎の舞台に立つほか、月9ドラマ『女神の教室』に出演、映画『Gメン』、『ミステリと言う勿れ』が公開、9年ぶりの出演となったミュージカル『スリル・ミー』にも出演と精力的に活動。新作歌舞伎は『ファイナルファンタジーX』、『刀剣乱舞-月刀剣縁桐-』に続いて今年3作品目の『流白浪燦星(ルパン三世)』が12月5日より上演される。

歌舞伎の魅力は、楽しませるためなら何でもアリの多様性と柔軟性です」尾上松也さん

――Vol.1では『流白浪燦星』にからめて、新作歌舞伎公演をつくる楽しさについてお聞きしました。演目が年々バラエティに富む傾向にある新作歌舞伎と400年の歴史をもつ伝承芸能である古典歌舞伎が共存する中で改めて、松也さんが考える“歌舞伎の魅力”について教えてください。

「個人的には、多様性と柔軟性があることが歌舞伎の最大の魅力ではないかなと捉えています」

――多様性と、柔軟性。

「それに尽きるかなと思います。歌舞伎は今でこそ長い歴史をもつ伝統芸能とされていて、いかにも堅苦しいイメージをもたれがちです。ですけれども、そもそも歌舞伎は人形浄瑠璃や狂言などとエッセンスをわかちあってきた歴史をもつ非常に柔軟性のある伝統芸能といえるのです。たとえば歌舞伎が人形浄瑠璃の戯曲から題材を借用してきたり、人形浄瑠璃が歌舞伎の人気場面や演出を取り入れることもありました。

歌舞伎俳優の尾上松也さん
「“歌舞伎の魅力”は、多様性と柔軟性だと思う」(尾上さん)

さらにひとくちに歌舞伎といっても、その中にたくさんのジャンルが存在します。たとえば江戸時代以前の出来事や公家や武家社会で起きた出来事を描いた時代物(じだいもの)、江戸時代の町民の世界を描いた世話物(せわもの)、踊りが主体となった所作事(しょさごと)など。セリフが中心のお芝居も、ミュージカルのような歌の見せ場も、踊りで魅せるパートも、そのすべてが歌舞伎にはあるという究極のエンターテインメントであるところが自分たちも誇れるところであると思っています」

――人形浄瑠璃と影響を与えあいながら発展していくような多様性を飲み込んでいける柔軟性が、歌舞伎の懐深い魅力を育んできたのですね。

「そうなんです。歌舞伎にはツケを打ったり(木を打ち付けて出される効果音のこと)、見得を切るなどの歌舞伎特有の演出もありますが、新作の中でツケを打つシーンがひとつもない演目もあれば、三味線の音色が1度も聞こえない演目もあったりします。つまり“こうでなければ歌舞伎とは呼べない”というルールはないのです」

歌舞伎俳優の尾上松也さん
「“こうでなければ歌舞伎とは呼べない”というルールはない」(尾上さん)

「わかりやすさだけではなく、歌舞伎のもつ伝統的な良さも知ってほしい」尾上松也さん

――近年の新作歌舞伎には、古典歌舞伎に現代的なテーマやテクノロジー表現を取り入れる自由度の高さを感じています。今年、松也さんがご自身で企画・演出から携られた新作歌舞伎『刀剣乱舞-月刀剣縁桐-』について、“難しさを避けて観やすくするだけではいけない”とコメントされていたのは印象的でした。

「相反することを言うようですが、わかりやすくキャッチーな要素ももちろん必要なのですが、僕自身はできれば古典歌舞伎のもつ多面的な部分も含めて好きになっていただけたらと考えているんです。普通の演劇のように気楽に観られる部分だけではなくて、伝承されてきたものの良さや違う要素もあるんだよということを知っていただけるように新作をつくっていく必要性を感じています。

 歌舞伎座に観に来ていただくと、わかりやすい演目だけでなく難しい演目や古典歌舞伎も合わせて上演されています。予習したり知識がないとわからないから古典は苦手だと最初から敬遠されないように、できるだけいろいろな形の新作歌舞伎もつくっていきたいということは、個人的に思っています」

歌舞伎俳優の尾上松也さん
「できれば古典歌舞伎のもつ多面的な部分も含めて好きになっていただけたら」(尾上さん)
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――今作の『流白浪燦星』でも、自由度の高い演出や表現が楽しめるかもしれないのですね。

「そうした意味で、歌舞伎のさまざまな魅力がうまく詰まっている公演になれば、ご覧になったお客さまが再び歌舞伎に足を運んでくださるかもしれませんし。難しく捉えず、普通にエンターテインメントを楽しむために来ていただけたら演者としてうれしいなと思っています」

コロナ禍を経て見えてきた歌舞伎の新たな将来を見据えながら、熱く語ってくださる松也さんの心地よい低音トークに思わず聞き入った取材班でした。Vol.3ではオフタイムの松也さんにも迫りましたのでお楽しみに。


■新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』が新橋演舞場にやってくる!

2023年12月5日(火)初日~25日(月)千穐楽

■あらすじ
時は安土桃山時代。怪盗・ルパン三世とその仲間の次元大介は“卑弥呼の金印”という国宝級のお宝を狙っています。金印の封印を解くには雄龍丸と雌龍丸という2本の宝剣が必要で、金印と宝剣が揃った暁には世を統べる力を手にできると伝えられています。しかし雌龍丸は大盗賊として名を轟かせる石川五右衛門の手の中。五右衛門も同じく卑弥呼の金印を狙っていたのでした。 ルパンが惚れる峰不二子も何か事情を知る様子。さらに天下をおさめる真柴久吉も金印を探しているようで、ルパンの因縁のライバル・銭形警部もルパンと五右衛門らを追っています。
ひとつのお宝を巡る争いの結末は――?

■配役
ルパン三世 片岡 愛之助
石川五右衛門 尾上 松也
次元大介 市川 笑三郎
峰不二子 市川 笑也
銭形刑部 市川 中車
傾城糸星/伊都之大王 尾上 右近
長須登美衛門 中村 鷹之資
牢名主九十三郎 市川 寿猿
唐句麗屋銀座衛門 市川 猿弥
真柴久吉 坂東 彌十郎

■スタッフ
モンキー・パンチ 原作「ルパン三世」より
戸部和久 脚本・演出
大野雄二 作曲(オリジナルテーマ)
藤間勘十郎 振付
山中隆成 美術
多賀正記 照明
苫舟 編曲監修
鶴澤慎治 竹本作曲
杵屋栄十郎 附師
田中傳次郎 作調
湯浅典幸 音響
富永美夏 衣裳
下柳田龍太郎 舞台監督

PHOTO :
トヨダリョウ
STYLIST :
椎名宣光
HAIR MAKE :
岡田泰宜
WRITING :
谷畑まゆみ