毎年、「大晦日(おおみそか)に必ず食べる」と決めているものはありますか? 昭和の時代は「大晦日は年越し蕎麦を啜りながら紅白(NHKの紅白歌合戦)を見る」が風物詩だったものですが、実は地方によって大晦日に食べるものはさまざまなのです。今回は「大晦日」の意味から大晦日に食べる料理、大晦日の食事にまつわるタブーを解説します。
【目次】
【「大晦日に食べる料理」に関する「豆知識」】
■そもそも「大晦日(おおみそか)」って何?
ご存じのように、「大晦日」は「一年の最終日=12月31日」のこと。「おおつもごり」とも言います。もともと日本では、江戸時代までは月の満ち欠けに基づいた「太陰太陽暦」と呼ばれる「旧暦」を使っていました。「旧暦」の基本となるのは新月で、「新月から数えて30番目の日」を「三十日(みそか)」と呼んでいたのです。ここから、「月の最終日」が「晦日(みそか)」となり、1年の最後の晦日(つまり12月31日)を「大晦日」と呼ぶようになりました。そして、「大晦日」は新しい歳神さまを迎えるために寝ないで待つ日とされ、早く寝ると白髪になるなどの言い伝えが。「大晦日の夜」は「除夜(じょや)」とも言い、神社では火を焚いて厄祓いの神事を行ったり、お寺では年をまたいで除夜の鐘を突いたりと、さまざまな年越しの行事が各地で行われます。
■昔は「大晦日」が「新年」だった!
江戸時代まで使われていた「旧暦」では、1日の区切りは「日没」とされていました。そのため、大晦日の日が暮れると新年となり、人々は正月を祝う儀礼を始めていました。つまり、大晦日の夕食は新年最初の食事にあたり、「年取り膳」「年越し膳」として正式な食事を家族揃っていただいていたのです。そのため、大晦日にいただく食事を「オセチ」と呼んでいる地方もあります。「セチ」とは正式な食事のこと。このことからも、大晦日の夜の食事が一年中でもっとも重要な食事とみなされていたことがわかります。
■「大晦日」は「家族と過ごす」と言われていたのはなぜ?
昔は「年越そばは他所 (よそ、つまり自宅以外) で食べるな」とか「年越をともにしない者はあてにならない」と言われていました。これは、「新年を迎え、新しい生命力を身につけるとき、一族一家はともにいなければならない」と信じられていたからです。
【「地域」によっても違う?大晦日の「伝統的な食べ物」】
地方に残る、伝統的な「大晦日の料理」をご紹介しましょう。
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■おせち料理
「旧暦」では大晦日にいただく夕食が新年最初の食事、新年を祝う正式な食事とされていました。北海道で大晦日に食べるおせち料理「トシトリ膳」は、1年の始まりである「大晦日」にごちそうをいただくという、伝統にのっとった風習です。刺身や旨煮、きんぴらごぼう、大根なます、黒豆、昆布巻き、数の子、茶碗蒸し、いずし、クジラ汁、口取り菓子とご馳走が並びます。
■年越し蕎麦
「大晦日」に食べる料理の定番と言えば、やはり「年越し蕎麦」。除夜の鐘を聴きながら食べるという方も多いのでは? 「年越し蕎麦」は、江戸時代の商家が忙しい月末の夜遅くに蕎麦を食べていた習慣の名残とされ、一般に広まったのは戦後しばらくたってからといわれています。細くて長い蕎麦にちなみ、「来年も細く長く幸せに暮らせるように」という願いを込めたり、あるいは蕎麦が切れやすいことにちなんで「今年一年の苦労を切り捨てられるように」と願うなど、長寿や健康を願った縁起物です。ひと口に「年越し蕎麦」と言っても、京都や北海道で郷土料理として知られる「にしん蕎麦」や岩手県の名物「わんこそば」、福井県の「おろしそば」など、地方によってバラエティ豊かです。
■年取り膳/年越し料理
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宮崎県では、大晦日からお正月にかけて、一年間の無事を歳神様に感謝し「年越し膳」をいただきます。沿岸部では縁起物であるタイ、山間部では主に塩イワシを使った歳とり魚、煮しめ、白和え、煮豆、なます、ご飯(おこわ)、吸い物などが並んだそうです。現在のような輸送手段がなかった時代は、魚は貴重な食材であり、ご馳走だったのですね。そして三が日中は「年越し膳」の残りを食べることが多く、各地域・各家庭で個性のある煮しめがつくられました。
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また、大晦日から正月三が日まで、岐阜県の広い範囲で食されている「大歳のごっつぉ」は、地域によって「年越し料理」「年越し煮」「お年越し」など、いろいろな名称で親しまれ伝承されています。大根や人参などの根菜類をだしで煮たものがポピュラーですが、地域や家庭ごとに、煮る野菜や切り方、だし汁なども異なります。ただし、どの地域でも「糸昆布」が入っているのが特徴で、「細長く生きられるように」「長生きできる」などの願いが込められています。
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■豚骨野菜(ぶたほねやさい)
「豚骨野菜」は、大きく切った骨付きの豚肉とツワブキ、昆布、大根、人参、コシャマン(里芋の在来種)を大鍋で煮こんだもの。奄美地域では、大晦日から正月にかけて欠かせない料理として知られています。豚のすべての部位を無駄にしないために、年越し料理の「豚骨野菜」のほか、保存がきく「豚味噌」や塩漬け、炒め物や焼き物などが作られるそうです。
■暮れの煮物
高知県で年越しに食べる郷土料理と言えば、くじら肉が入った「暮れの煮物」です。くじらが手に入りやすかった時代は、大晦日が近くなると魚屋にくじらが並ぶのがお決まりの光景。山間部では「コロ」と呼ばれるくじらの乾燥物を使うほど、欠かせない食材のひとつでした。くじらのような大きなものを食べることで「大物になるように」という願いを込めて食べられたそうです。
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■年越しうどん
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「うどん県」として知られる香川県では、正月や祭り、客人のもてなしなど、「ハレの日」にうどんを手づくりするのが慣わし。そのためか、現在でも「大晦日は蕎麦よりうどん!」という家庭も多いようです。「しっぽくうどん」は、秋から冬にかけて採れる数種類の野菜と油揚げを煮干しの出汁で一度に煮込み、茹でたうどんの上から具材とともにかけてつくる料理。また、兵庫や三重といった近畿地方などの関西では、蕎麦よりうどんを食べる人が多いようです。
【「食べてはいけないもの」はある?】
「大晦日に食べてはいけないもの」として、思い浮かぶものはありますか? 現在ではそういったタブーを耳にすることはありませんが、昔はさまざまなしきたりや風習があったようです。
■動物の肉
『年の初めから殺生をするものではない』という考えから、大晦日には牛や豚など、動物のお肉は食べてはいけないとされていました。でもお雑煮に鶏肉は入っていますよね? 実は食べていけないのは、四足歩行の動物でした。四足歩行の動物を避けた結果、お雑煮に使われるのは鶏肉になったという説もあるそうです。
■鍋
「え〜、鍋がダメなの~?」と驚く人もいるのでは? 準備も片付けも簡単なお鍋を大晦日に食べる家庭は多いようですが、以前は「鍋からでる灰汁(あく)が『悪』に通じる」という理由から、「食べてはいけない」とされていたそうです。意外ですね。
■年をまたいだ年越しそば
前述の通り、年越し蕎麦には「今年一年の苦労を切り捨てられるように」という願いが込められています。ところが、大晦日の深夜から元日にかけて年をまたいでしまうと、「苦労まで新年に持ち越してしまう」ため、年を越す前に食べきらないといけないと言われています。
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今年は、新型コロナウイルス感染症が5類指定となってから初めての年越しとなりました。旅行会社 JTBによれば、年末年始(2023年12月23日~2024年1月3日)の旅行者数は、国内旅行が前年比103.7%、海外旅行は対前年比260.1%となる見込みだそうです。とはいえ、「『大晦日』は家でのんびり年越し」もいいですよね。まだ終わっていない掃除の続きをやったり、まだ書いてない年賀状を仕上げたり…ってこれではのんびりとは言えませんね(笑)。 何はともあれ、お健やかに、よいお年をお迎えする準備をしていきましょう。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『現代用語の基礎知識』(自由国民社) /『世界大百科事典』(平凡社)/農林水産省『うちの郷土料理』(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/index.html)、JTB NEWS RELEASE (https://www.jtbcorp.jp/jp/newsroom/asset/20231205_14/231205:JTBニュースリリース_年末年始の旅行動向.pdf) :