街を走る自動車のなかで特に目立つのは、SUVと呼ばれるタイプ。背が高く大きな車体はとても存在感があります。当然、室内は広くつくられ、荷室も大容量。前と後ろのシートに大人が乗ってもあまり窮屈さは感じません。なによりも高い目線で周囲を眺める見晴らしの良さは、SUVを選ぶ大きな魅力となっています。

人気があるため選択肢も多いSUV。だからといって、ふわっとしたイメージだけで選ぶのは禁物。死角が多くて縦列駐車が難しかったり、後席の天井が低かったり、はたまた荷室の広さが思ったほどではなかったり……。所有してみないとわからないポイントはたくさんあります。

理想を100%叶えることは難しいですが、一番大事なのは多少の欠点が気にならなくなるほどの“好き”を見つけること。となると、主観的にも客観的にも大きなポイントとなるのがデザインです。そこで今回は洗練された四角いデザインが目を引く、「ディフェンダー」を紹介します。

英国王室御用達の4輪駆動車専業ブランド

最初期の「ランドローバー シリーズⅠ」(写真の車両は2016年に新車同様に改修して25台限定で発売された)。日本にも1953年に輸入され、東北電力会長に就任した白洲次郎が自らハンドルを握り、ダム建設現場の視察に使っていたそう。(C)JAGUAR LAND ROVER LIMITED
最初期の「ランドローバー シリーズⅠ」(写真の車両は2016年に新車同様に改修して25台限定で発売された)。日本にも1953年に輸入され、東北電力会長に就任した白洲次郎が自らハンドルを握り、ダム建設現場の視察に使っていたそう。
こちらは1965年製のシリーズⅡをもとに2023年に限定販売した、スペシャルモデル。四角い車体と丸いライト、その他細部にいたるまで、象徴的なデザインは最新モデルに継承されている。(C)JAGUAR LAND ROVER LIMITED
こちらは1965年製のシリーズIIAをもとに2023年に限定販売した、スペシャルモデル。直線的で四角い車体や丸いライト、その他細部にいたるまで、象徴的な部分は最新モデルに継承。

今をときめくSUVは、悪路を走るためにつくられた4輪駆動車に乗用車の資質をもたせたのが始まり。第二次世界大戦後の1948年に英国のローバーが開発したオフロード車「ランドローバー・シリーズⅠ」は、SUVのルーツにして4輪駆動車のパイオニア。その後、ブランド名がランドローバーとなり、改良を続けてきた4輪駆動車は「ディフェンダー」と改称。ワークブーツのように堅牢で悪路走破性に長けた「ディフェンダー」は英国王室でも愛用され、ランドローバーの車両にはロイヤルワラント(英国王室御用達の証)が発行されています。

ランドローバーは世界で唯一の4輪駆動車専業メーカーであり、英国上流階級のライフスタイルを優雅に表現してきたところに魅力があります。ちなみにランドローバーのフラッグシップである「レンジローバー」は、質実剛健な4輪駆動車の機能にラグジュアリーな装備や上質で高速巡行にも秀でた乗用性能をもたせて、1970年に登場。オーナーのイメージは、郊外に所有する広大な農園を自動車で移動し、リゾートではスポーツを愛する貴族や富裕層です。したがって、ラグジュアリー志向が強い現代の大型SUVの始祖は「レンジローバー」とするのが正しいですが、装いも新たに登場した新型「ディフェンダー」も、アクティブで好奇心旺盛なユーザーの心を捉えているのです。

伝統を継承しながら前を行く新型「ディフェンダー」の先進性

洗練された野性味を感じさせるデザインは、英国ブランドならでは。2020年の登場以来、無二の個性とステイタスで世界的な人気を誇る。
新型「ディフェンダー」。洗練された野性味を感じさせるデザインは、カントリージェントルマンの要求に応えてきた英国の自動車ブランドならでは。2019年に登場するや、無二の個性とステイタスで世界的な人気に!

4輪駆動車のロングセラー「ディフェンダー」は2019年、時代に即した機能や安全性などを高めた新型モデルに刷新。日本で本格的な販売が始まりました。箱型のボディに丸目のライトなど従来型のイメージを踏襲しながらも、全体の雰囲気はミニマルで力強く、モダン。言葉にすると簡単ですが、一過性のトレンドとは一線を画した普遍的な個性は、細部に至るまで徹底的にこだわった設計なればこそ。

新型「ディフェンダー」の日本導入時、デザインを統括したプロフェッサー・ジェリー・マクガバンOBEが来日しましたが、サヴィル・ロウ(ロンドン中心部にある紳士服の注文店が並ぶ通り)であつらえた、鮮やかなブルーのセットアップスーツをクールに着こなすダンディぶりがとても印象的でした。その着こなしに、伝統をしっかりと咀嚼したうえで新しいことに挑戦する心意気を感じ取ったのは、それがまさに新型「ディフェンダー」にも共通する精神だったからです。

ランドローバーのチーフデザインオフィサー、ジェリー・マクガバンさん。(C)JAGUAR LAND ROVER LIMITED
ランドローバーブランドを含むJLRのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務める、プロフェッサー・ジェリー・マクガバンOBE。

四角い車体は街中でも郊外でも運転しやすい

直線的なデザインは、都会だけでなく自然の多い地域を走るうえでも便利。(C)JAGUAR LAND ROVER LIMITED
直線的なデザインは、都会だけでなく自然の多い地域を走るうえでも有利。

今回試乗したのは、「V8 CARPATHIAN(カルパチアン) EDITION」という2024年モデルイヤー限定グレード。5ドアの車体はマットカラーのグレーで塗装され、タイヤを組み込んだホイールはブラックという、女性が乗っても絵になるプレステージ性をたたえたモデルです。そんなところが高感度なセレブリティに支持されているのでしょう。

全長5m近い車体は、日本の道路事情を考えると大きい部類。にもかかわらず、直線的にデザインされた四角い車体は車両感覚がつかみやすく、シートの背もたれを立てると遠くまで見渡せて安心感があり、余裕をもってアクセルペダルを踏みこんでいけます。もし、うっかり細道に入り込んでしまっても、左右や前方の見えにくい部分をカメラ映像で確認できるのでご心配なく!
乗り心地も見た目どおり頼もしく、エアサスペンションを内蔵した足腰は、路面の凹凸を乗り越えたときにもまろやかに衝撃を吸収する上質さを備えています。

3Dサラウンドカメラを装備し、360度の映像をモニターに映し出す。さらに悪路向けの「クリアサイト グランドビュー」(写真)を使えば、前方の見えない下部分も映し出す。駐車場で活用したい便利機能。
3Dサラウンドカメラを装備し、360度の映像をモニターに映し出す。さらに悪路向けの「ClearSightグラウンドビュー」(写真)では、前方の見えない下部分も映し出す。駐車場で活用したい。

豊かなサウンドと頼もしい4輪駆動が行動範囲を広げる

虚飾のない直線的なインテリア。素材とカラーリングの妙で、質実剛健にしてラグジュアリーな世界観を表現。
虚飾のない直線的なインテリア。素材とカラーリングの妙で、質実剛健にしてラグジュアリーな世界観を表現。

余裕を感じるのは、エンジンのおかげでもあります。「ディフェンダー」シリーズは3つのボディタイプ(3ドアのショートボディ「90」と5ドアのロングボディ「110」、「130」)があり、エンジンのバリエーションも複数存在します。どれも優劣つけがたい魅力を備えていますが、今回試乗した5ドアモデルは排気量の大きなV型8気筒エンジンを搭載しており、これがとてつもなくリッチなフィーリング。独特の「ドロドロッ」と低く響くエンジンサウンドも心地よく、長距離を走る旅では心地いいBGMに。

もちろん、音楽を聴く環境もいうことなし。英国のハイエンドオーディオブランドである「メリディアン」のサラウンドサウンドシステムでお気に入りの曲を再生すれば、車内は格調高くダイナミックな音響空間へと早変わりです。

大きなシートは肩から背中、腰、ふとももまでをしっかりと支え、座り心地も抜群。
大きなシートは肩から背中、腰、ふとももまでをしっかりと支え、座り心地は抜群。左右のシートの間にある小物入れは収容力があり、使い勝手も抜群。

旅といえば、冬は降雪地帯でなくても路面状況が不安定な場所を走ることが少なくありません。古民家をリノベした山麓の宿を目指すときなど、朝晩は路面が凍結していることも。その点、巧みな4輪制御でジャングルや砂漠も踏破することを前提に設計された「ディフェンダー」なら心強いことこのうえなし。なにしろ傾斜角45度(もはや壁です!)までの坂道を登ることができ、90cmの深さまでなら水に浸かっても走れます(エアサスペンション装着車の場合)。

日本でそんな状況に遭遇することはそうあるものではありませんが、機能をモダンにデザインした無骨さは、いわばロマンの象徴。気負わずにハンドルを握って出かけましょう!

荷物を隙間なく積める真四角な荷室。後席の背もたれをたためば、3泊の旅にも余裕で対応する大容量に!
荷物を隙間なく積める真四角な荷室。後席の背もたれをたためば、3泊の旅にも余裕で対応する大容量に。

【LANDROVER DEFENDER 110 V8 CARPATHIAN EDITION】

ボディサイズ:全長×全幅×全高:4,945×1,995×1,970mm
車両重量:2,450kg
乗車定員:5名
車両本体価格:¥16,850,000

問い合わせ先

ランドローバー

TEL:0120-18-5568(ランドローバーコール)

この記事の執筆者
総合誌編集部を経て独立。ライフスタイル全般の企画・編集・執筆を手がける。ファッションのひとつとして自動車に関心を持ち、移動の手段にとどまらない趣味、自己表現のひとつとして提案している。