「彼我」という言葉をご存じですか? 「彼我」は「相手と自分」「あちらとこちら」を意味し、日本では少なくとも8世紀、万葉集の時代から使われてきた言葉です。現在では報道などでも「彼我の勢力」「彼我の差」といった表現でよく使われています。今回はこの「彼我」について、その詳しい意味や使い方のわかる例文、言い換え表現や英語表現まで解説します。
【目次】
【「彼我」の「読み方」と「意味」】
■読み方
「彼我」は「ひが」と読みます。漢字自体は難しくないのですが、あまり馴染みのない言葉なので、読み間違えてしまいそうですね。
■意味
「彼我」は文字通り「彼と私」を表すほか、「他人と自分」「あちらとこちら」「自他」といった意味をもちます。「彼」の訓読みは「かれ・かの」、音読みは「ひ」。「彼」には「あちら」という意味があるのです。「向こう岸」や「涅槃の境に達した浄土」を意味する「彼岸(ひがん)」という言葉には馴染みがありますね。「我」には「わがまま」といった意味もありますが、この場合は「自分」を示しています。
■由来
「彼我」という言葉は古く、8世紀に編さんされた『万葉集』17巻には「縦酔陶心忘彼我、酩酊无處不淹留(しょうすいとうしんひがをわすれ、めいていしてところとしてえんりゅうせずということなし=存分に酔って心地よくなり誰彼と気にせずに、酔いが回ってところかまわず誰もが座り込んでいる)」との記載があります。心地よくお酒に酔って「彼我を忘れる」のは、いつの時代も同じことのようです!
【「彼我の差」とは?】
「彼我」は文章語ですから、日常会話で登場することはまずありませんが、最近では報道などでも「彼我の差」といった表現でよく使われています。この言葉は、「相手と自分」を比べたときの性質や状態、程度の差や違いを意味する表現です。「相手と自分」となる対象は人であったり、国であったり、ビジネスシーンでは企業であることも多いですね。具体的な使い方を例文でチェックしてみましょう。
【「使い方」がわかる「例文」5選】
■1:「A社のプロジェクトチームには実力の上に豊富な経験もある。残念だが現時点では、彼我の力量の差は顕著だと言わざるを得ない」
■2:「業界内で、わが社とA社、彼我の勢力は拮抗している」
■3:「海外に出ると、彼我の文化の差を肌で感じることが多い」
■4:「ライバル社に対抗するためには、彼我比較とその分析が急務だ」
■5:「後発と侮っていたが、B社は急激に業績を伸ばしている。彼我の距離はこの1年で一気に縮まったとも言える」
【「類語」「言い換え」表現は?】
「彼我」の「類語」「言い換え」表現にはどんなものがあるでしょうか。
■「類語」「言い換え」表現
・自他:「自分と他人」を意味する文章語。「自他共に認める実力者」のように使いますね。
・我人:「自分も他人も」といった意味の、こちらも文章語。
・双方:「関係するものの両方。あちらとこちら」。口頭でも使われますが、「どちらも」といった意味で使われることが多い言葉です。
・両者:「両方の者。双方」。スポーツ中継などでもよく使われる言葉です。
■対義語
・自我:「自分。自己」。哲学では、知覚や思考、意志、行為などの自己同一的な主体として、「他者や外界から区別して意識される自分」を指します。他者を含まない自分だけ、という意味において、「彼我」の対義語と言えます。
・片方:両方を意味する「双方」の対義語は「片方」や「一方」です。「片方だけの意見を聞くのは不公平だ」などと使います。
【「英語」で言うと?】
上でも説明した通り、「彼我」は、「彼と私」を表すほか、「他人と自分」「あちらとこちら」という意味の言葉です。これに相応するひとつの英単語はありませんが、[She and I]あるいは[They and I]といった英文を用いて表現できます。
・I felt how different he and I were.(彼我の差を強く感じた)
・They are equal to us in strength.(彼我の力量は五分五分だ)
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「彼我」は報道や企業分析などで目にする言葉ですが、文章語のため、口頭では相手に真意が伝わりにくい言葉です。「彼我の差」といった言葉も「双方の差」「両者の違い」などの言葉に置き換えて話す配慮も、「大人の語彙力」のひとつです。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『プログレッシブ和英中辞典』(小学館) /『新選漢和辞典Web版』(小学館) /『角川類語新辞典』(角川書店) :