「ブルータス、お前もか」――これは古代ローマの将軍・カエサルの死の間際のフレーズです。信頼していた部下に命を取られると知った瞬間に発せられたものといわれています。今回は、どこかで聞いたことがありそうなこの名言の意味や使い方などを解説します。

【目次】

「ブルータス、お前もか」は2000年以上前の名言とされています。
「ブルータス、お前もか」は2000年以上前の名言とされています。

「ブルータス、お前もか」って何?「意味」と「由来」】

■意味

信頼していた人物に裏切られた際に、驚きや怒り、嘆き、失望などを込めて発せられるフレーズです。

■由来

紀元前44年、古代ローマの将軍・ガイウス・ユリウス・カエサルが暗殺される間際、その暗殺を企てた一味の中に、最も信頼していた腹心の部下で友人でもあったブルータス(マルクス・ユニウス・ブルトゥス)を見つけて漏らした言葉とされています。

■なぜ有名に?

なにしろ2000年以上も前の出来事なので“伝承”の域は出ませんが、スエトニウスというローマの歴史家によって2世紀に書かれた『皇帝伝』に「息子よ、お前もか」という形で記録されています。そして、私たちが見聞きしたことのある「ブルータス、お前もか」は、イギリスの劇作家ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『ジュリアス・シーザー』で、クライマックスの台詞として書かれたことによって広まりました。ちなみにジュリアス・シーザーはユリウス・カサエルの英語名なんですよ。


【どんなシーンで?正しい「例文」3選】

シェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』も400年以上前の作品ですが、「ブルータス、お前もか」をいまだに見聞きするのは、それだけ衝撃的なフレーズということですね。辛く、悲しく、怒りに燃え、絶望の淵に立たされたその瞬間に発せられた言葉として、時代を超えたインパクトがあるのでしょう。このような有名な比喩的表現は、意図するところがズレるととても恥ずかしいもの。どんなシーンで使えるのか、正しい使用例をご紹介しましょう。

■1:「社内の勢力図が変わった途端、味方だと思っていた部下が一気に離れていったよ。本気で信じていた同僚にまでそっけなくされて…。それこそブルータス、お前もかって気分だね」

■2:「忠誠心や気概なんてものは絶滅したも同然だな。ブルータス、お前もかって、何度つぶやいたことか」

■3:「ブルータス、お前もか、なんて台詞が頭をよぎる状況になるとは思ってもみなかった」

相手への信頼や信用度が高いほど、裏切られたときのショックは大きい…そんなシーンで使われるのですね。


【「ブルータス、お前もか」に似た表現】

裏切りに対する失望をたとえていう「ブルータス、お前もか」。同じような意味のフレーズにはこんなものがあります。

■恩を仇(あだ)で返す

身に受けた恩に対して報いることをしないで、かえって相手に害を加えて報いること。

■飼い犬に手を噛まれる

普段から目をかけてやっている者に裏切られ、ひどい目にあうこと。

■軒(のき)を貸して母屋を取られる

自分の持物の一部分を貸したために、いつの間にか主要なところ、またはその全部を取られてしまうことのたとえ。「庇(ひさし)を貸して母屋を取られる」も同じです。

■後足(あとあし)で砂をかける

世話になった人の恩義を裏切るばかりか、去り際にさらに迷惑をかけてかえりみないことのたとえ。「後足」は「うしろあし」ではなく「あとあし」と読むのが正解です!


【カサエルにはこんな名言も!】

■来た、見た、勝った

カエサルがポントス王を討った際に、ローマの元老院に宛てた勝利を知らせる名文といわれています。実際のラテン語では「Veni, Vidi, Vici」で、韻を踏んだ簡単明瞭な文例とされ、文学や音楽などの芸術、政治など、さまざまな場面で引用やアレンジされて使用されています。1965年にモーターレースのF1でHondaが初優勝した際に、チーム監督が東京のHonda本社へ打電した電報の一文にも「来た、見た、勝った!」が。これは日本のモータースポーツ史に残る名言のひとつといわれています。

■賽(さい)は投げられた

紀元前49年、カエサルがローマに進軍するためにルビコン川を渡るときに言ったとされています。一度乗り出してしまった以上、最後までやるしかない、という意味です。人気漫画『デスノート』のミュージカル版では、主人公のひとりであるL(エル)が犯人の正体を見破った際の曲「The Game Begins」のクライマックスで、「賽は投げられた~♪」と歌い上げていますよ。


【「英語」で言うと?】

シェークスピアの戯曲『ジュリアス・シーザー』にはラテン語で「Et Tu, Brute?」と書かれています。これを英訳するなら、[And you, Brutus?][Brutus, you too?]となるでしょうか。

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カサエルの「ブルータス、お前もか」は、なすすべもない状態で発せられたもの。もはやこれまで…という瞬間の名台詞には、本能寺の変での織田信長の「是非に及ばず」などもあります。偉人の名言はとてもおもしろいもの。語彙力アップにも役立ちそうですね!

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