「ともすると」は「放っておくと〜な状態になりがち」なことを示す言葉です。あまり日常では使わないかもしれませんね。こんな言葉をしっかりと理解するためには、「使い方のわかる例文」が役に立ちます。今回のテーマは「ともすると」。正確な意味や類語、英語表現まで解説します。

【目次】

放っておくと、よくない事態に…。
放っておくと、よくない事態に…。

 【「ともすると」をしっかり理解するための「基礎知識」】

■意味

「ともすると」は「場合によっては」を意味する副詞です。特定の事案を放任しておくと、ある状態になりやすいという可能性を示唆する言葉で、「ともすれば」と同義です。一般的には、結果としてあまりよくないことが導かれる場合に使われることが多いようです。


【「漢字」で書くと?】

■「漢字」で書くと

「ともすると」には漢字表記がなく、平仮名で表します。

■「語源」は?

前述の通り、「ともすると」は「ともすれば」と同義です。「ともするーと」の「と」、「ともすれーば」の「ば」は、供に「もし〜ならば」と仮定条件を示す接続助詞。同じ意味で使われる言葉です。

そして「ともすれば」の記載は、9世紀末~10世紀初めの平安時代、『竹取物語』に見ることができます。「ある人の、『月の顔見るは忌むこと』と制しけれども、ともすれば、人まにも月を見ては、いみじく泣き給ふ」──ある人が『月の顔を見るのは不吉ですよ』と言って止めようとしたが、それでも人目を盗んで月を見ては、激しくお泣きになる」という文章です。前述の通り、「ともすれば(ともすると)」は、特定の事案を放任しておくとある状態になりがちなことを示唆する言葉。この場合、直訳すると「かぐや姫は、放っておくと、人目を避けて月を見ては激しく泣くような状態になりがち」ということになります。

少しわかりにくいでしょうか。では次は私たちに馴染みのある現代文で、「ともすると」が実際にどう使われているのか、見てみましょう。


【「使い方」がわかる「例文」6選】

「ともすれば」は「放っておくと、ある状態(あまりよくない結果)になりがち」という意味で使われることが一般的です。

■1:「仕事には慣れてきたし何もかもが順調だ…ともすると初心を忘れがちな自分を律していかねばならない」

■2:「売上が絶好調のときこそ消費者の意見に耳を傾けるべきだ。ともすると飽きっぽい彼らからそっぽを向かれかねない」

■3:「相次ぐ辛辣な指摘に、ともすると逃げ出したくなる気持ちと戦いつつ、なんとかプレゼンを続けた」

■4:「両親が続いて亡くなってからは、ただでさえ内向的な彼女はともすると発作的な憂鬱に襲われるようになってしまった」

■5:「彼はひどく泥酔していたため、ともすると倒りそうになるのを、路傍の電信柱に寄りかかり体を支えていた」

■6:「長いと思っていたゴールデンウィークも実際には案外短く、ともすると何もせずだらだらと過ごしてしまいがちだ」


【「類語」「言い換え」表現】

「ともすると」を言い換えられる「類語」をいくつか覚えておきましょう。

■動(やや)もすると

「ややもすると」も「ともすると」と同様、「放任しておくとそのような状態になりやすい様子」を示す表現です。どちらも、ひとりでにある状態になりやすい様子に用いますが、「ややもすれば」は「ある状態になりがちな程度」が、「ともすれば」より強い場合に用います。

■もしかすると

■ひょっとすると

■あるいは

この3つに共通するのは、「うしろに“〜かもしれない”など、仮定に基づく推量を伴うときに用いる語」であることです。「もしかすると」と「ひょっとすると」は、実現性の低いものを仮定するときに用いられ、特に「ひょっとすると」には、予想外の事態が偶然起こるときの驚きの気持ちが含まれます。「あるいは」は、実現性がある程度高い場合に用いられ、推量には客観的な証拠や判断があることが多い言葉です。いずれも「ともすると」とは異なり、よい結果、悪い結果にかかわらず使われます。


【「英語」で言うと?】

「ともすると」そのままの英単語はありませんが、「ともすると=放っておくとある状態になりやすい」を表現した英語のフレーズをいくつかご紹介します。

・He often slips out of the room before the meeting is over.
(彼はともすると会が終わる前に抜け出してしまう)

・I tend to be lazy.(ともすると怠け心が起こる)

・They are apt to criticize their superiors behind their backs.
(彼らはともするとかげで上司の悪口を言う)

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いかがでしたか? 私たちは日本語に慣れ親しんでいるだけに、「ともすると」その知識を曖昧なままにしておきがちです。たとえ知識があやふやでも、差し当たり困ったことにはなりませんが、周囲に与える信頼感や内から滲(にじ)む自信は、正確な知識の裏付けがあってこそ。「ともすると」怠けてしまうのは人の常。でもここはなんとか踏ん張って、「大人の語彙力」を磨きましょう!

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『プログレッシブ和英中辞典』(小学館) /『新選漢和辞典Web版』(小学館) /『使い方の分かる 類語例解辞典』(小学館) /『角川類語新辞典』(角川書店) :