「にべもない」は「愛想も思いやりもない」という意味の言葉です。あまり馴染みのない言葉なので、意味を実感として捉えにくいかもしれませんね。今回は「にべもない」について、その由来や使い方がわかる例文、言い換え表現などを解説します。「にべもない」という言葉に込められたニュアンスが理解できるはずです!

【目次】

「にべ」は「鰾膠」と書きます。
「にべ」は「鰾膠」と書きます。

【「にべもない」の「意味」】

■意味

「にべもない」とは、「愛想がまったくない」、「取り付きようがない」、「お世辞がない」「素っ気ない」「思いやりがない」などの意味をもつ言葉です。人の「話し方」や「態度」を指して使うことが多く、この言葉を使った人は、相手にあまりいい印象はもたなかったことがわかります。「にべない」と省略して用いられることもありますが、意味は同じです。

■「語源」「由来」

「にべもない」を漢字で表記すると「鰾膠も無い」。「膠(にべ)」はスズキ目ニベ科の海産魚で、関東では「いしもち」と呼ばれています。この魚の「鰾(浮き袋)」は非常に粘り気が強く、接着剤として利用される「膠(にかわ)」の原料になっています。このにかわのことを「にべ(鰾膠)」と呼びます。そして、この「にわか」の粘り気を人と人の親密さにたとえ、「鰾膠がない=粘り気がない」→「あっさりしている」→「愛想がない」という意味になったのではといわれています。『日本国語大辞典』の「鰾膠(にべ)」の項には「愛敬。愛想」という意味も記載されており、こちらが「にべもない」の語源となっています。


【「使い方」がわかる「例文」6選】

愛想がまるでなかったり、人に対する気遣いがないことを「にべもない」と言いますが、「にべもない」は否定形でしか使わない言葉です。「愛想がいい」ことを「にべがある」とは言いませんよ。気を付けてくださいね。

■1:「意を決して部長に決裁を仰いだが、にべもなく断られてしまった」

■2:「彼女の言動には情というものがまったく感じられない。つくづくにべもない人だ」

■3:「大将は弟子が跡を継いでくれることを期待していただけに、『出ていきます』というにべもない返事に、かなり落胆しているようだ」

■4:「その気がないことはわかっていたけれど、そこまでにべもない断り方をしなくても…。きみは本当に冷たい人だね」

■5:「私が話を続けようとすると、彼女はにべもなく遮って、『私、忙しいので』と言ってさっさと帰ってしまった」

■6:「顧客に対し、そのようなにべもない対応をするのは失礼だろう。改めなさい」


【「けんもほろろ」との「違い」】

■そもそも「けんもほろろ」って?

「けん」も「ほろろ」も、雉(キジ)の声を表す言葉です。また、「ほろろ」はキジの羽音とも言われています。「けん」は「けんつく(剣突)」「けんどん(慳貪)」などの「けん」と掛けたもので、「無愛想に人の頼みや相談ごとを拒絶して、取り付く島もない様子。つっけんどんな様子。冷然とした様子」を表します。

■「にべもない」とはどう違う?

ふたつの言葉に「愛想がない」「取り付く島がない」といったニュアンスは共通していますが、「けんもほろろ」は頼みごとや相談ごとを無愛想に断る様子に使われます。「にべもない」よりも、さらに拒絶する意味合いが強く、冷たい態度を表します。また、「けん」はキジの鳴き声ですから、「剣もほろろ」は誤字ですよ。


【「類語」「言い換え」表現】

「けんもほろろ」以外にも「にべもない」の「類語」「言い換え」表現があります。いくつかご紹介しましょう。

■にべもしゃしゃりもない

「にべもしゃしゃりもない」は「にべもない」をさらに強調した言葉です。「しゃしゃり」は「粘り気なく、さっぱりとしていること」を表す言葉。「味もしゃしゃりもない」などの形で用いて、「さっぱりしているどころか、少しの味わいもない」という意味に用います。従って、「にべもしゃしゃりもない」で、「粘り気もさっぱりした味わいもない」ことから、「愛想も情も思いやりもない(何もない)」、とても無愛想な様子を表現した言葉です。

■取り付く島もない

「取り付く島がない」にはふたつの意味があります。「つっけんどんで働き掛けるきっかけがない」という意味は「にべもない」と似ていますが、もうひとつ「頼りとしてすがるところがない」という意味もあり、こちらは「にべもない」にはない意味合いです。

■木で鼻を括(くく)る

「無愛想にふるまう。冷淡にあしらう」ことを「木で鼻を括る」と言います。「木で鼻をかむ」という意味もあり、紙が貴重だった時代、硬い木で鼻をかむのが不快だったことから、このような意味になったといわれています。

■素っ気ない

■すげない

■つれない

■よそよそしい

この4つの言葉は意味にそれほど違いのない言葉です。「そっけない」は、相手に対して関心や好意、思いやりを示さず、愛想のない言動をするさまを表します。そして「すげない」は、言葉や言い方が冷淡で温かみがなく、思いやりがない様子。一方、「つれない」は、人に対する接し方に思いやりがなく、無愛想で冷淡である様子。「よそよそしい」は、親しい気持ちを見せず、他人行儀である様子のことです。

■無愛想

「無愛想」は「ぶあいそう」あるいは「ぶあいそ」と読みます。「人あたりが悪くつっけんどんなこと。好意的でない様子」を表す言葉です。


【「英語」で言うと?】

「にべもない」をズバリ表す英単語はありませんが、[turn down flat](きっぱり断る)という表現が使えます。[turn down]は「断る」、[flat]は「きっぱりと。ぶっきらぼうに」といった意味の副詞です。また[curt]は「素っ気ない、ぞんざいな」という意味の形容詞。「返事。応答」といった意味の[reply]と組み合わせることで「にべもない答え」と表現できます。

・I was turned down flat.(にべもなく断られた)

・He gave me a curt reply.(彼はにべもない返答をした)

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誰もが忙しい現代、日ごろのやりとりも、ついついビジネスライクになりがちです。もちろんそのほうが効率的で時短にもなるのですが、相手に「にべもない」という印象を与えてしまったら、残念なこと。媚びたりおもねる必要はまったくありませんが、常に温かみを感じさせる対応を心掛けたいものです。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『プログレッシブ和英中辞典』(小学館) /『ランダムハウス英和大辞典』(小学館) /『角川類語新辞典』(角川書店) :