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2024年3月の第96回アカデミー賞にて。(C)Jeff Kravitz/FilmMagic

芸能人は政治に口を出すなという、この国にもいた、闘う女優が!

芸能人は政治的な発言をしてはいけない、日本ではいつからかそれが1つの不文律になっている。考えてみれば非常におかしな話。芸能人の政治的発言を咎める権利が、一体誰にあるのだろう。それも一般人がSNSを通じて批判する訳で、海外のメディアでは、日本のこうした風潮を疑問視する報道がなされていたほど。自分が住む国の政治に明快な意見を持つことの、何がいけないと言うのだろうか。

そんな中にあっても、政治への関心の高さを自ら吐露しつつ、「政治に対してこれでもかって失望することがここ何年も続いているのに、何も感じない人がいるんだろうか。応援したいっていう人がいるのか。おかしいですもん、だって」と、政治に対する強烈な不信感を明かしたのは、小泉今日子さん。
そして、確定申告はバカらしい。やめてほしい。(政治家が)ちゃんと納税してから、こっちに納税しろって言えと思うと、ラジオ番組で発言。自民党安倍派の裏金問題に触れ、そんな姿を子供たちが見ていいのか!っていう気持ちになると訴えた。

「バラエティー番組はくだらない」という発言は物議をかもしたが、じつはそれも、「バラエティーがアップデートできてない」という意味であり「どんどん生活が苦しくなっていってるのに、例えば俳優さんとかがゲストに来て、クイズに正解したら、その人が霜降りの牛肉もらえるとか。何言ってんの?って。そういうのがわかんなくなっちゃって。その人、お金持ちじゃん、牛肉もらわなくていいじゃんって。くだらないって思うのはそういうことなんですよ」と、その発言の真意も語った。
その結果、発言に共感する人が増えてきた。モノを言う、言える女優の存在を何か日本人として誇らしく思ったもの。ようやく日本も、倫理観や道徳心を持って本音を言い、政治的な発言をするセレブがバッシングされない、真っ当な国になりつつあるのだとすれば、それは素晴らしいことである。

ちなみに2020年、検察官の定年延長を可能にする法案に対し「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグのもと、この小泉今日子さんを始め、きゃりーぱみゅぱみゅさんなどが、ツイッターで反対の声をあげた時、なぜか次々炎上した。「タレントなのに政治的な発言をするな」「ちゃんと理解して抗議しているのか」というふうに。

常に社会の問題と立ち向かってきた闘う女、シャーリーズ・セロン

アメリカを見て欲しい。グラミー賞14回受賞の記録を作ったとは言え、シンガーソングライター、テイラー・スウィフトが大統領選の行方を決めるかもしれないとまで言われている。にわかには信じがたいが、民主党支持だとされるテイラーを、共和党候補のトランプ氏が本気で潰そうとしているというのだから、その影響力は本物なのだろう。

トランプ氏が勝利した前々回の大統領選挙の時、多くのセレブがヒラリー氏を応援し、逆にそれが"ヒラリーはセレブばかりを優遇する人"といった反感を買って、民主党が負けたという説がある。
そこで、バイデン現大統領とトランプ氏が戦った前回選挙で、独自の活動を続けたのがシャーリーズ・セロン。ブラッド・ピットなどとともに候補者の名前を出さずに、民主党への投票を呼びかけるような運動を行った。「私が投票するのは、私が変化を信じるからです!」様々な人種の人々が、そう呼びかけるCMに自ら登場。ショートヘアに素顔のようなナチュラルな印象がとても印象的だった。
そして、バイデン氏当確の報道があるやいなや、「女性として、母親として、今日のニュースをとても誇りに思った。ようやく私はわが子に、私たちは嫌悪でなく、人間性で大統領を選ぶ国に住んでいるのよと言うことができます」とTwitterで語り、大きな共感を得ているのだ。

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アフリカの若者たちがHIVから自らの身を守ることをサポートする「シャリーズ・セロン・アフリカ・アウトリーチ・プロジェクト(CTAOP)」を2007年に設立。2024年3月、カリフォルニアのウォルドーフ・アストリア・リゾートにて、このプロジェクトを支援する「デザートスマッシュ2024」を主催するシャーリーズ・セロン。(C)David Crotty/Getty Images

シャーリーズ・セロンはこうした社会的な活動が目立つが、もともとが闘う女。女優にスカウトされたのも、南アフリカ出身の彼女がアメリカの銀行で小切手が現金に変えられない上に不快な態度をされたため、激しく抗議しているところをマネージャーを務める男性に見染められたのがきっかけという。自分の人生観や価値観を知るために体系化された「プルーストの質問表」に答えた、自分の1番残念なところも「声を上げること」だった。自ら、少々攻撃的な性格であることを認めているのだ。
しかし、この人が女優の仕事において、役の選び方やその役作りに、ある種攻撃的なまでの攻めの姿勢を見せるのは、自分のそうした一面を仕事にそっくり託しているということなのではないのか。

『モンスター』で連続殺人犯を自ら演じた理由とは?

まずなんといっても、アカデミー賞主演女優賞に輝いた『モンスター』で、犯罪史上最も凶悪な女性連続殺人犯がなぜ罪を犯したのか? それを映画化する企画を持ち込み、犯人を自ら演じたこと。実在の凶悪犯本人に似せるため、16キロ太り、スキンケアを一切せずに肌を荒らし、入れ歯まで入れて似ても似つかぬ風貌になるとともに、凶暴な言動までを完全に再現して、世界を驚愕させたのだ。
奇跡的とも言える美貌を自ら破壊するような役作りは、キャリアに傷をつけるのではないかと危ぶまれたほど。しかし、その挑戦には理由があった。

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『モンスター』(C)2003Film&Entertainment VIP Medienfonds 2 GmbH&Co.KG and MDP Film Produktion GmbH/U-NEXTで配信中

シャーリーズ自身、10代まで父親の家庭内暴力に苦しみ、最後は家族に銃口を向けた父親を母親が銃で打ち殺すと言う二重の悲劇に見舞われている人なのだ。
母親は正当防衛を認められるものの、地元では誹謗中傷に悩み、母国を捨てて移住せざるをえなかった。その時ちょうど15歳、モンスターで演じた連続殺人犯もその15歳からホームレスという過酷な人生を送ってきた人物であるだけに、自分よりも悲惨かもしれないこの犯人を演じることが、自分の生い立ちにおける怒りを整理する大切な転機になったと自ら分析している。
それは、女優としての演じる欲、女優魂などという生易しいものではない。この壮絶な役は自分が演じるべきなのだという何か覚悟のようなものがあったのだろう。人生のトラウマをその役柄にぶつけていく、ある意味そこまで攻撃的な仕事の仕方をする人なのだ。

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2003年『モンスター』ワールドプレミアにて。左から共演のクリスティーナ・リッチ、脚本も担当したパティ・ジェンキンス監督、主演とプロデューサーを務めたシャーリーズ・セロン(C)Amy Graves/WireImage

その後も22キロ体重を増やして、『タリーと私の秘密の時間』で3人の子供を抱える悩める母親を演じたり、坊主頭にして『マッドマックス 怒りのデスロード』で過酷な役に挑んだりと、まさに全身全霊で究極の役を演じてきたが、この人が社会悪と戦う明快な意思を持ち、尚且つ本気なのだと改めて感じさせてくれたのが、『スキャンダル』という作品を自らプロデュースすると言う形で映画化した時だった。
FOXニュースの創立者で元CEOのロジャー・エイルズのセクシャル・ハラスメントに対する女性職員の告発という、アメリカ中を震撼させ、いわゆるMe Too運動のきっかけともなったこの世紀のセクハラ事件において、事件の鍵を握るメーガン・ケリーという、アメリカ一有名でしばしば過激な発言で物議を醸す女性キャスターを演じたのだ。またも本人に驚くほど似た風貌を作って。

見事に高潔な生き方をする“闘う女たち”へ、支持の心を持つということ

かくして、社会的に非常に重要な事件を、自らの人生をかけて映画化して演じる姿はなかなかに感動的。それも、ある種の使命感を持って悪と戦う姿勢までが垣間見えるからである。
結婚はしていないが、2人の養女がいる。南アフリカから引き取った黒人の少女たち。いや1人はもともと男の子だったと言うが、幼い時に本人が自分は女の子だとワンピースを着始めた時、それを母親として認め、今は娘として育てているという。
以前からこの人は、LGBTの権利を支持する活動を行っていて、アメリカで「同性愛者同士の結婚が法的に認められるまで、結婚はしない」と発言し、同性愛に対する人々の理解を深めたことを評価され、GLAADメディア賞の名誉賞を受賞。2008年には国連平和大使に任命されている。発言だけではない。行動が伴う人でもあるのだ。

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2009年南アフリカ・ヨハネスブルグにて。元南アフリカ大統領ネルソン・マンデラ氏と。(C)Media24/Gallo Images/Getty Images

言い換えれば、女優として成功しても、嘘のない生き方をし、自分の信念に忠実に生きているからこそこうした仕事ぶりになるし、こういう人生になるのだろう。もちろん社会性のある女優はアメリカには他にもたくさんいる。しかしシャーリーズ・セロンほど存在そのもので社会と向き合い、諸悪と本気で闘っていきたいという強い意思を持っている人は稀れである。圧倒的に美しい上にこの精神性。なんと力強く、凛々しいのだろう。まさに高潔な人である。

そうしたことも踏まえ、今年秋に行われる大統領選、社会性あるハリウッド女優たちの言動も見逃さずにいたい。臆せずに、恐れずに、モノを言っていく、それ自体素敵なことだが、ただ意見を持っているだけでない、自分が社会において何ができるのか? そう考えて行動する人たちをちゃんと見ておきたいのだ。そしてたとえアイドルのような存在であったとしても、世の中が彼らをきちんと評価することも。それが健全な世の中であり、一人一人が輝く社会であることをしっかりと見つめたいのだ。

ひいては日本も、口を閉ざすことなく、政治に対して意見を持つこと、それ自体が美しい輝きに映るような国になればいいと今強く思うのだ。特に今プレシャス世代こそがそういう価値観を明快に持つことが、この国を変えるエネルギーになるのではないかとそこまで思う。
いずれにしても、そうした社会にならないと日本は本当に危ない。誰も政治家を信用しない国が良い国になるはずは無いわけで、それを変えていくきっかけになるのは、それこそ小泉今日子さんのような、モノをいうセレブの存在なのかもしれないから。せめてそういう人たちを支えていこうという意思を持ちたいのである。

この記事の執筆者
女性誌編集者を経て独立。美容ジャーナリスト、エッセイスト。女性誌において多数の連載エッセイをもつほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザー、NPO法人日本ホリスティックビューティ協会理事など幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。近著『大人の女よ!も清潔感を纏いなさい』(集英社文庫)、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)ほか、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。好きなもの:マーラー、東方神起、ベルリンフィル、トレンチコート、60年代、『ココ マドモアゼル』の香り、ケイト・ブランシェット、白と黒、映画
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EDIT :
三井三奈子