日常会話で交わされる、「彼女って、すごくストイックよね!」というフレーズは、「彼女、すごく頑張っているわよね」という意味合いに近いでしょうか。でも「ストイック」というカタカナ語は、本来もう少し厳密な意味合いで使われていました。ということで、今回は「ストイック」本来の意味や使い方、「ストイックな人」の特徴や「対義語」「英語表現」まで、幅広く解説します!

【目次】

現在ではかなりゆるい意味合いで使われています。
現在ではかなりゆるい意味合いで使われています。

【「ストイック」はほめ言葉?本来の「意味」】

■「意味」は?

英語で[Stoic]と書く「ストイック」は、もともと、古代ギリシア哲学の一派であるストア学派や、そこに属する哲学者を指す言葉でした。彼らは「世界市民主義(コスモポリタニズム)」を唱え、自己修練を通し自らを厳しく律することで賢者としての幸福を得ようとするすることを[Stoic]と表現したのです。時代を経て、「ストイック」はストア学派風の克己禁欲主義や厳粛主義を信奉する人を指すようになり、やがて現在のように「自分に厳しく、欲望に流されない」という意味で使われるようになったのです。

「自分に厳しく、欲望に流されない」ということは、目標のためなら人生における「楽しみ」全般を放棄することも意味します。例えば、美味しいものを食べたり旅行に行ったり、おしゃれをしたり…これらを一切排除し、「目的のためにだけに時間を使い努力すること」を本来は「ストイック」と表現しました。ですから、前人未踏の記録を打ち立てたアスリートであっても、趣味や夜遊びを程ほどに楽しんで競技に臨めるタイプの人は、本来、「ストイック」とは言いません。

■「ほめ言葉」と言える?

誰かに対して「ストイック」という言葉を使った場合、多くは「自分にはとてもできない」といった賞賛や尊敬の気持ちが込められているため、基本的に「ストイックはほめ言葉である」と言っていいでしょう。ただし日常会話では、仕事ができたり、能力の高い人に対し、ごく軽く「ストイックだね〜」と使うケースもありますね。この場合、賞賛の気持ちのほか、軽い妬みや嫉妬のニュアンスが込められていたり、あるいは協調性や融通性なしに、頑固なまでひとりで頑張っていることに対する軽い非難の意図があることも。思い当たる人は気を付けてくださいね!


【「使い方」がわかる「例文」6選】

「ストイック」の意味をより明確にイメージできるよう、例文をチェックしてみましょう。本来は「目標のためには邪念や欲望を捨て去る」ほどの厳しさをもった人を「ストイック」と言いますが、現実的にはもう少しゆるい意味合いで使われていることがほとんどです。5と6に関しては、「ストイック」であることを手放しでほめている表現ではありません。

■1:「大きな夢や目標を叶えるためには、ストイックであることは重要な素養であると言える」

■2:「彼女は人に何と言われようと、自分が決めたルールは必ず守るストイックな人だ」

■3:「前人未踏の記録を次々と打ち立てる彼は、素晴らしいアスリートだ。とはいえ、外食は一切せず、アルコールも飲まず、ムダな外出も買い物もしないというストイックな生活は、私にはとても無理…」

■4:「今までの快楽主義的な生き方を反省して、私はこれからストイックに生きるわ」

■5:「彼は妻が望むような新居を建てるため、節約をモットーにストイックな生活を送っている。だから忘年会など、“ムダ”な人付き合いは一切しないのか。すごいなー」

■6:「ストイックでまじめな彼女のことは尊敬してるけれど、人の仕事のやり方についてあれこれ口出してくるのは勘弁してほしい」


【「ストイック女子」とは?性格など「ストイックな人」の特徴】

自分に対し、何を制限し律するのかは、人それぞれ、その人が立てた目標次第です。例えば、ダイエット中であれば「間食は一切しない」行為なのかもしれません。あるいは仕事に関してなら、「残業も早出もいとわず業務に打ち込む」ことかもしれません。「ストイック女子」という言葉はBS−TBSの番組名にもなっていますが、こちらは「自分の目標のために全力で頑張る」ことに焦点を置き、サブタイトルは「全力美女の私生活に潜入」です。つまり「ストイック女子」は「目標のために全力で頑張る美女」ということです。ハードルがさらに高そうですね!

ではここで、「ストイックな人」の特徴をまとめてみましょう。

■「マイルール」が明確

■まじめである

■目標達成のためなら努力を惜しまない

■周囲からの甘い誘いに乗らない

■完璧主義である

■几帳面で細かいことにまで気が回る

■粘り強く忍耐力が強い

■こだわりが強い


【「類語」「言い換え」表現】

「ストイック」の「類語」や「言い換え」表現をいくつかご紹介しましょう。

・無欲

・禁欲主義的

・克己的

以下は、本来の「ストイック」よりも広義の意味で使われる言い変え表現になります。

・自分に厳しい

・頑張り屋の

・目標のために全力投球する


【「対義語」は?】

・享楽的:快楽にふける様子

・即物的:物質的なことや金銭的なことを優先して考える様子

・エピキュリアン:(古代ギリシアの哲学、エピクロス学派の人々の意から)快楽主義者。享楽主義者。


【「英語」で言うと?】

「ストイック」の英語表現は[stoic]ですが、『Oxford Advanced Learner's Dictionary』では、この単語を[a person who is able to suffer pain or trouble without complaining or showing what they are feeling(不平を言ったり自分の気持ちを表に出すことなく、痛みや困難に耐えることができる人)]と説明しています。カタカナ語の「ストイック」とは少々意味合いが違い、英語よりむしろカタカナ語の「ストイック」のほうが、本来の[Stoic]に近い意味で使われているようです。では、「ストイック=「自分に厳しく、欲望に流されない」と同じような意味をもつ英語の表現には、どんなものがあるでしょうか。

■strict:厳しい

・He is very strict with himself. He study every night no matter how tired he is.
(彼は自分にとても厳しい。どんなに疲れていても毎晩勉強する)

■be disciplined

動詞[discipline]には、「自制心を持たせる」「自己管理できるようにする」「しつける」「規則を守らせる」といった意味があり、これを受け身にすることで「自分を律する」というストイックに近い意味で使うことができます。

・He is disciplined.(彼は自らを律している)

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「ストイック」とは「自分に厳しく、欲望に流されない」という意味で使われる言葉です。『カタカナ語 すぐ役に立つ辞典』には、「『彼はモテたい一心でストイックに身体を鍛えている』という使い方は、○か×か」、という質問が載っています。正解は…「×」。理由は、「『モテたい』という時点で、すでに欲望に流されているから」だそうです。この論法だと、「彼女はきれいになりたい一心でストイックにダイエットした」は、使い方として正しいのでしょうか? 悩ましいところです!

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『Oxford Advanced Learner's Dictionary』(オックスフォード大学出版局) /『角川類語新辞典』(角川書店) /『現代用語の基礎知識』(自由国民社) /『カタカナ語 すぐ役に立つ辞典』(河出書房新社) :