「羹に懲りて膾を吹く」という故事成語をご存知ですか?「羹」の読みが難しいですが、こちらは「あつもの」と読み、「羹次」として、大河ドラマ『光る君へ』にも登場しました。今回は「羹に懲りて膾を吹く」の意味や出典、言い換え表現や反対語などを解説します。使う際の注意点についても説明しますので、ビジネスシーンで間違った使い方をしないよう、再確認してみてくださいね。

【目次】

羹に懲りて…は、ポジティブなニュアンスでは使いません。
羹に懲りて…は、ポジティブなニュアンスでは使いません。

【「羹に懲りて膾を吹く」とは?「読み方」「意味」】

「読み方」

「羹に懲りて膾を吹く」は、「あつものにこりてなますをふく」と読みますよ! 「熱物に懲りて膾を吹く」と間違って覚えている人もいるようです。ご注意を。

■「意味」 

「羹に懲りて膾を吹く」は、熱いお吸い物で失敗してから、膾や韲物(あえもの)のような冷たい料理でも息を吹きかけて冷ますようになったことから、「一度の失敗に凝りて、必要以上の用心をすること」のたとえとして用いられます。「羹」は「熱物」を意味し、温かい汁物を指す言葉です。魚や鳥の肉、または野菜などを具にしたようです。一方「膾」は、細かく切った生肉のことで、現代の「なます」とは違う食べ物です。ちなみに大河ドラマ『光る君へ』の第30回で道長が開いた宴は、平安時代に貴族が客を鍋(汁物)でもてなした「羹次(あつものついで)」という宴席です。「贅沢禁止令」が出ていた一条天皇の時代、豪華な宴会は控えられ、鍋物を供する簡素な宴が開かれることがあったのです。

■「由来」

中国戦国時代(紀元前770~紀元前221)後期の詩集である『楚辞(そじ)』を出典とする故事成語です。主君を諫(いまし)めようとして嫌われてしまった臣下の気持ちをうたった作品に、「羹に懲るる者は韲(あえもの)を吹く。何ぞ其の志を超えざるや(吸い物の熱さに懲りて、野菜のあえもののような冷たい料理まで吹いて冷ます者もいるのに、主君を諫めて失敗した自分は、どうして考えを変えようとしないのだろう)」という一節があります。日本では、「韲」が「膾」に変わったかたちで定着しました。


【コロナ禍を揶揄する表現にも。「類語」と「例文」4選】

「羹に懲りて膾を吹く」は、必要以上に注意深いことを表す言葉です。用心深く行動するあまり、無意味なことをしている人を揶揄する際にも使われ、「慎重である」といったポジティブなニュアンスは含まない言葉ですので、使用の際には注意が必要です。これを踏まえ、「類語」や「言い換え表現」を考えてみましょう。

「類語」「言い換え」表現

・蛇に噛まれて朽縄(くちなわ)に怖(お)じる
蛇に一度噛まれてからは腐った縄を見ても怯えるという意味で、ここから転じて、「一度の失敗に懲りて必要以上に用心深くなること」のたとえ。

・黒犬 に 噛まれて灰汁(あく)の垂れ滓(かす)に怖じる
一度黒犬に食いつかれると、以後は灰汁がこぼれていても、それを見ると犬かと思って怖がるという意から、「ひどい目に遭うと、似たものはすべて怖く思うようになること」のたとえ。「黒犬に噛まれて赤犬に怖じる」とも言います。

・用心するにも程がある

・失敗してビビり過ぎ

NG:念には念を入れる
「念には念を入れる」は間違いのないように重ねて確認することを表し、「羹に懲りて膾を吹く」のように、ネガティブなニュアンスは含まれていません。

■「例文」

例文1:子どもの頃、バレーボールで指を骨折したため、羹に懲りて膾を吹いて、球技は一切やらなくなった。
例文2:コロナ禍は確かに大変な経験だったけれど、羹に懲りて膾を吹いて、いつでもどこでもマスクをつけるよう他人に強要するのは、どうかと思うよ。
例文3:株に失敗した父は、羹に懲りて膾を吹いて、新NISAなど投資関係すべての商品に対して懐疑的だ。
例文4:重要な会議に遅れ、新規契約をふいにしてから、羹に懲りて膾を吹いて、約束の時間の1時間前には到着するようにしている。さすがに時間の無駄か…?


【反対語は?】

では「羹に懲りて膾を吹く」の反対語をご紹介しましょう。あまりなじみがないかもしれませんが、意味を知れば、納得です。

■火傷(やけど)火に懲りず

火傷をしたのに、懲りずに火にあたっている意から、過去の失敗にも懲りず、同じような事を繰り返すことのたとえ。「やけづら(焼面)火に懲りず」も同じ意味です。

■喉元過ぎれば熱さを忘れる

つらかったことも、時間がたてばすぐに忘れる、という意味。


【「英語」で言うと?】

英語にも「羹に懲りて膾を吹く」と同じような慣用表現があります。

・A burnt child fears the fire.(火傷した子どもは火を恐れる)

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「羹に懲りて膾を吹く」は、用心深くなりすぎて、無意味な行動をとる人を揶揄する際に使われる言葉です。「慎重」といったポジティブな意味はありませんので、誰かの行動に対して使う際には注意してくださいね。失敗は誰にでもあるものです。失敗を恐れる余り萎縮して、本来の力を発揮できなくなってしまった人がいたら、からかうのではなく、前向きに励ましてあげたいものですね。「情けは人なならず」なのですから!

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『プログレッシブ和英中辞典』(小学館) /NHK代がドラマ・ガイド『光る君へ 後編』(NHK出版)/『平安 もの こと ひと 事典』(朝日新聞出版) :