再評価が一気に進むなか、8月9日に88歳で逝去。アーティスト・田名網敬一の冒険エネルギーを今こそ
絵画、コラージュ、立体作品、アニメーション、実験映像、インスタレーションと、ジャンルにも既存のルールにもとらわれることなく制作を続けた田名網敬一。初期から最晩年までの膨大な作品群を、「記憶」をテーマに紐解く初の大規模回顧展!
この展覧会について、エディター・ライターの中村志保さんにご案内いただきました。
【今月のオススメ】田名網敬一 《死と再生のドラマ》
田名網は1936年東京生まれ。今年8月死去。武蔵野美術大学在学中にキャリアをスタートさせ、日本版月刊『PLAYBOY』の初代アートディレクターを務めたことでも知られる。横幅4mにもなる極彩色で彩られた迫力満点の本作は、戦争を経験した田名網の幼少期の記憶と強く結びついたモチーフの数々から構成。海に沈む多数の戦闘機と妖怪のような生き物が漂い、輪廻転生を思わせる。
数年前、田名網敬一さんのアトリエにお邪魔したことがあります。「コロナ禍で時間ができてね、ずっとやりたいと思っていたことを始めたんですよ」というピカソの模写が部屋から溢れ出し、廊下にずらりと並んでいるのを見せてくれました。
小さなサイズの “ピカソ” とは別に、巨大なカンヴァスに何枚も描いていたのが、田名網作品を象徴する様々な生き物がうごめくカラフルな世界。その画面には、沢山の“目”があります。漫画のキャラクター、女性、骸骨、カエル、魚……全てひっくるめて “妖怪” と呼んでもいいでしょう。そこに、草花や海、戦闘機などが入り乱れています。
1936年生まれの田名網さんは、第二次世界大戦を経験した幼少期の記憶が創作の原点にあると語っていますが、世界中の人々をこれほど魅了したのは、凄惨を凄惨のままに提示するのではなく、アメリカ由来のカルチャーを見つめ、面白がり、ときに痛烈な風刺をもって、日本人・田名網敬一としてポップな混沌へと作品を昇華させたことにあるのではないでしょうか。描かれた無数の目は作家自身の眼差しであると同時に、田名網さんが生み出した“子ども”であり、私たちもどこかに潜んでいるのかもしれません。
その後、小さな書店で田名網さんと遭遇し、「あ、あの時のあなた。今度、個展をやるから来てくださいね」と微笑んで、ポケットからフライヤーを渡してくれました。田名網さんはきっと今、「あ、あの時に描いたあなただね」と、楽しい妖怪たちとおしゃべりしているんだと思います。(文・中村志保)
◇Information 「田名網敬一 記憶の冒険」
- 60年以上にわたり、デザイン、絵画、コラージュ、立体作品、アニメーションなど枠にとらわれず創作を行った田名網敬一の、最新作を含む膨大な作品数で迫る初の大規模回顧展。
- 開催期間:開催中〜11月11日(月)
- 会場:国立新美術館
- TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
- 住所:東京都港区六本木7-22-2
問い合わせ先
関連記事
- 過去最大規模となる〈睡蓮〉が集結! 究極の【モネ展】が東京・上野の国立西洋美術館で開催中
- 【知られざる日本画家・田中一村の大回顧展】東京都美術館で開催 ── 単身渡った奄美で描いた、生命の輝き ──
- 圧倒される! 世界最大級の日本現代美術コレクション「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」東京都現代美術館で開催中
- EDIT :
- 剣持亜弥