旅のエキスパートが目に焼き付けたもの、心に刻んだものとは?【追憶の「冬旅物語」】

旅先で、ふとした瞬間、心をつかまれ、カメラに収めてしまう風景たち。旅を愛するプレシャスキャリアによる本人撮影カットを交えて、冬旅ならではの心象風景について教えてもらいました。

今回はそのなかからら、作家の朝吹真理子さんに、国東半島への旅についてお話しをうかがいました。

朝吹 真理子さん
作家
(あさぶき まりこ)デビュー作『流跡』(新潮社)、『きことわ』ほか著書多数。国東半島で食べた辛味噌を塗った「鬼の目覚まし餅」は忘れられない味。

作家・朝吹真理子さん「芸術祭の制作中に滞在していた国東半島。寝静まった夜に山から聞こえてくる鹿の鳴き声を、今も覚えています」

「’12年と’14年の2回にわたって『国東半島芸術祭』で作品を制作するため、3か月ほど滞在したことがありました。毎日車で半島を走っていると、中世や古代の景色が突然目の前に現れて、今がいつなのかわからなくなります。

国東半島の磨崖仏(まがいぶつ)
(C)Getty Images

荒っぽい岩壁に巨大な御仏を彫刻した磨崖仏(まがいぶつ)に登ったり、楠木を夥(おびただ)しい数の五輪塔が取り囲むそばでおにぎりを食べたりしていました。僧侶が洞窟の中で鬼に変身して舞い、各家を回って無病息災を祈念する2月の『鬼会(おにえ)』や、10月の『ケベス祭』という火祭りも、不安になるほど火が燃えて、忘れがたいです。

作家の朝吹真理子さんのプライベート写真
 

修験道の峰があり、その道を歩いたあとは山奥の夷谷(えびすだに)温泉に行きました。褐色のお湯で、泉質が強いらしいのですが私には合い、翌朝まで寝袋の中がじわっと温かかったです。

作家の朝吹真理子さんのプライベート写真
 

疲れ果ててうとうとしていると、子供の悲鳴のような声が響いてきて、鹿の鳴く声だと教えてもらいました。山の遠くから近くから鹿が鳴いていて、あの寂しい声はずっと忘れられないです」

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EDIT&WRITING :
本庄真穂、喜多容子(Precious)