松下 洸平さん
俳優
(まつした・こうへい)1987年生まれ、東京都出身。幼少期より油絵を始め、中学からはダンスを習う。2008年より歌手活動を始め、2009年のミュージカル『GLORY DAYS』を機に俳優の道へ。以降の出演作に、NHK連続テレビ小説『スカーレット』、ドラマ『最愛』『アトムの童』『合理的にあり得ない』『いちばんすきな花』『放課後カルテ』、映画『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』『ミステリと言う勿れ』など。最新出演ミュージカル『ケイン&アベル』は1月22日から東京・大阪で公演。世界初演のオリジナルミュージカルで、ウィリアム・ケインを演じる。
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俳優・松下洸平さん

不安が消える瞬間はない。だからこそ、努力を重ねて、土台をつくる

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ドラマや映像作品では、繊細で丁寧な演技で人を惹きつける松下さん。その原点がミュージカルにあり、20代の主戦場であったことは、案外知られていない。同年代の若手俳優との群像劇もあれば、ピアノだけで歌うふたり舞台もあった。

「もともと歌うことが好きで進んだ道だけれど、ミュージカルをとおして、楽しさも困難も、たくさん経験してきました。年を重ねれば軽く乗り越えられるのかと思えばそうでもなく、楽しさと困難はいつも表裏一体。コンディションが違えば表現も変わるし、観客の反応も日々違います。気持ちを歌に乗せ、集中力を切らさず、会場と一体になったときの達成感は、何物にも代え難いもの。この感覚を味わいたくて、続けていると言ってもいいかもしれません」

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公演を終えたあとの達成感は、何物にも代え難い

そして2025年、久しぶりのミュージカル、それも主演という大役に立ち向かう。その決断にあたり、松下さんは自分の心に問いかけたという。

「数十人のキャストの先頭に立ち、いろんなものを犠牲にする覚悟があるか。『ケイン&アベル』という物語を、世界で初めて演じる重責を担えるか。答えはもちろんイエス。でも、不安が消えることはありません。だからこそ、練習を重ねるしかない。その日々はつらいけれど、追い込むほど、新しい歌い方や表現方法の発見がある。それでも、正解にはたどり着けなくて、常に模索して。一生かけて正解を見つけていくのが、この仕事なのかなと思います」

思ったことを言えずに後悔するのは嫌だから

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「どんな仕事でも、思ったことは言葉にして伝え、仲間とディスカッションを重ね、どこまでも妥協しない。ときにぶつかっても、いい作品にしたいという思いを大事にしています。そのなかで、自分の間違いに気付いたり、周囲と折り合いをつける過程もまた、次の成長につながる。思ったことを言えずに後悔するのは、嫌なので。

先に進むには、地道な努力と試行錯誤しかなくて、自分を満たすのは、結果よりその過程――どんな努力をしたかだと僕は信じています。そこには近道も、奇跡もありません。さらに主演となれば、責任や重圧も受け止めなければならないし、そのための土台にもなります」

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年を重ねたら、少しずつ荷物を下ろしていきたい。本当に大切なものを選び取るために

その背中にかかる負荷を、楽しいとさえ感じられる、37歳の今。ここまでの道をつくってきた過去の自分を誇りに思いつつも、さらにその先も見据えている。

「多くの経験をして、受け止めて、強くなって。これこそが、大人になることなのだと思います。だから、新たなミュージカルを担えることを、20代の自分はきっと喜んでくれているでしょう。でも、年を重ね、いつかすべてを背負えきれなくなることも、わかっています。そのときは、本当に大切なものだけを抱えて、少しずつ身軽になっていけばいい。僕の大切なもの、それは家族や友人です。食事やたわいもない話をする安らぎの時間があって、それがまた、次の仕事につながっていくのです」

通ってきた道が険しいほど、舞台やスクリーンで強く光り輝く。誰よりも、松下さんがそれを証明している。

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Precious.jp編集部 
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