昔は歌えていたキーの高さが歌えない…。以前ほど声が伸びなくなった…。朝起きたときに声がかすれている…。そんなことが、増えてきていませんか? それは、声が老けてきているサインかもしれません。

声は見た目と同じくらい、人の印象を左右するもの。ハリのある若々しい声を保ちたいですよね。けれど、どうしたら声のハリを保てるのかは、わかりにくいもの。

そこで今回は、好感の抱かれる声について研究している東京工芸大学の森山 剛 准教授に、声が老ける原因とハリのある声を保つために気をつけたいことを伺いました。

これができないと黄色信号?まずは声の若さをチェック!

まずは、自身の声にどの程度ハリがあるかチェックしてみましょう。


【方法】
「あー」と声を伸ばしてみる

【チェック項目】
■1:声が、十分に長く伸びきらない(目安:20秒)
■2:伸ばした声が震えている
■3:安定して息が吐けず、息が太くなったり細くなったりする


いくつチェックがつきましたか? ひとつでもチェックがついた人は、声が老化しはじめている黄色信号かもしれません。

森山先生によると、声はケアや日ごろの使い方次第で若さを保てるそう。さらに、喉を傷めてしまった人でも、声を改善するチャンスがあるといいます。

どうしたら声の老化を防ぎ若々しい声を保てるのか、声が老化する原因と対策をお伝えします。

筋力の低下と声帯の疲労が原因。「声が老ける」とはどういうこと?

声は、どうして老けてしまうのでしょうか? まずは、どのようにして私たちは声を出しているのか、その仕組みからみていきましょう。

声とは、肺から吐き出した空気が声帯や口、鼻などを通って音波となったものです。声ができる仕組みは、大きく4つのステップにわかれます。

■1:肺から横隔膜をはじめとする呼吸筋の力で空気を出す
■2:声帯で声のもととなる音(声帯音源)をつくる
■3:喉から上の舌や歯、鼻(声道)で声帯音源の音色を加工し、音声をつくる
■4:つくられた音声が口から外気へ放たれ、相手の耳に届く

肺から吐き出された空気が声帯、喉から上の声道を通り声となります
肺から吐き出された空気が声帯、喉から上の声道を通り声となります

このうち、「2」の声帯の衰えと、「1」に関わる横隔膜の筋力や「3」の口元の筋力の衰えが、声の老化につながります。

声帯の酷使を続けるとガラガラ声に…

声帯とは、気道の壁から突出する左右対になったヒダのことで、喉仏のあたりにあります。声帯の間を空気が通ると、気流の力により2枚のヒダがひっついたり離れたりします。この動きにより、ただの空気の流れに強弱がつき、声の元となる音が生まれます。また、声帯の開閉のスピードで声の高さが調整されます。

健康な声帯は、空気が通ることで2枚のヒダがぴったり閉じます
健康な声帯は、空気が通ることで2枚のヒダがぴったり閉じます

声帯の表面は粘膜で覆われています。そのため、声帯を使いすぎると粘膜が痛み、表面が凸凹になってしまいます。凸凹が生まれると2枚のヒダはピッタリと密着せず、声帯が閉じたときも隙間ができてしまいます。

声帯の粘膜が傷つくと、2枚のヒダが閉じきらず隙間ができます
声帯の粘膜が傷つくと、2枚のヒダが閉じきらず隙間ができます

この隙間から余計な空気が漏れてしまうため、声に雑音が混じりガラガラ声になったり、うまく声の元となる音をつくり出せずに声が枯れたりします。

大声を出し続けたり、喉に無理に力を入れて怒鳴ったりすると声帯は酷使されてしまいます。みなさんの中にも、スポーツ観戦などで声を張り上げた結果、声が枯れた経験のある方もいるのではないでしょうか。

粘膜は再生するため、声帯の傷みも少しであれば治ります。しかし、喉を休めることなく声帯の酷使を続けると、粘膜の凸凹が戻らなくなってしまい、ガラガラ声になってしまいます。

筋力が衰えると声にも変化が…

声を発するとき、まず横隔膜の筋力で肺を収縮させることで、肺の中の空気を喉から口へ押し出しています。このとき吐き出される空気の量やスピードが、声の大きさや伸びを左右します。

横隔膜の筋力が衰えると、肺を十分に収縮したり、肺から空気を一定のスピードで押し出したりすることが難しくなります。そのため、声が細くハリがない・伸びきらない・不安定で揺れるなどの老化症状が現れます。

また、「あ・い・う・え・お」などの発音や声の音色は、舌や歯・口の形などによって響き方を変化させてつくり出します。

口元の筋力が衰えると、口の形に明確な変化がつかず、ハッキリとした発音がしにくくなり、滑舌が悪くなります。

ハリのある声を保つための6つのポイント

声の老化を防止するには、声帯を傷めないようにすることと筋力を保つことが重要です。けれど、声帯も筋力もなかなか目に見えず、どうしたらケアできるのかわかりにくいもの。

そこで、森山先生がおすすめしている日ごろから取り組めるケアや気をつけたいポイントは次の6つです。


■1:喉の乾燥に注意する
■2:肌の調子が悪いときは喉を無理に使い過ぎない
■3:息を深く吸って吐いて話す
■4:言葉の第一音を意識する
■5:足腰の運動不足に注意する
■6:笑顔で話す


それぞれ、詳しくご紹介します。

■1:喉の乾燥に注意する

水分はこまめにとり、喉の乾燥には気をつけましょう
水分はこまめにとり、喉の乾燥には気をつけましょう

最も気をつけたいのが、喉の乾燥です。

声帯と、肺から声道までの空気が通る道は表面が粘膜で覆われています。粘膜は乾燥に弱く、乾燥しがちだと少し声を使っただけで声帯を傷めやすくなってしまいます。こまめに水分をとり、加湿器で室内の空気が乾燥しすぎないようにするなどしましょう。

口呼吸はNG。乾燥した空気が直接喉に触れるだけでなく、空気中の雑菌が十分に死滅することなく直に喉に届くため、喉を傷める原因となります。できるだけ、鼻呼吸を心がけるようにしましょう

■2:肌の調子が悪いときは喉を無理に使い過ぎない

喉の粘膜も、皮膚です。そのため、肌が乾燥やホルモンバランスの乱れで荒れているときは、喉の粘膜も荒れやすい状態である可能性が高くなります。「なんだか肌が荒れているな」と感じたときは、喉の使い方にも注意をし、あまり大声を出したりしないようにしましょう。

また、同様に肌にとっていいことは喉の粘膜にとってもいいといえます。特に腸内環境を整えると、肌も喉の粘膜も安定しやすくなります。

■3:息を深く吸って吐くように声を出す

肺いっぱいに深く息を吸えば、声を出すときにより多くの空気を送り出せます
肺いっぱいに深く息を吸えば、声を出すときにより多くの空気を送り出せます

相手に自分の声が聞こえづらいときは、ボリュームを大きくして伝えようとし、喉に無理な力を入れてしまいがちです。これが、喉を傷めることにつながります。

無理にボリュームを大きくしなくても、肺から十分な息を送り出していれば声量は上がります。日ごろから息を深く吸って吐くように話すようにしましょう。

特に意識したいのが、息を深く吸うことです。人の肺は風船と同じような性質を持っており、空気がたくさん入れば入るほど勢いよく縮もうとします。その力が、しっかりと息を吐くことにつながります。

深く息を吸って吐くためには、鼻から空気を吸って、ゆっくり話します

口で息を吸うと、肺の上部だけを使って呼吸するようになります。そのため、十分に肺の奥まで息を吸い込めません。また、焦って話すと思ったように息を吸いきれず、「ハアハア」と呼吸が浅くなりがちです。

力まずに十分な声量を発するために、焦らず落ち着いて、ゆっくり鼻から息を吸いながら深い呼吸で話すようにしましょう。喉に無理な力を入れないだけでなく、横隔膜の筋力を保つことにもつながります。

■4:言葉の第一音を意識する

声の印象を若くする要素に、明瞭な発音が挙げられます。はっきりとした発音をするコツとして、各単語の第一音を意識すると、滑舌がスムーズになります。

例えば「ありがとう」と言うときは、第一音の「あ」に意識を置いて少し強めに発声します。そうすると、勢いでその後の音もスムーズに出やすくなり、明瞭な発音が可能になります。

また、森山先生によると、第一音に意識を置くといいのは、日本語の特性でもあるのだとか。日本語には、第一音と第二音に大事な音がそろっているものが多いとのこと。第一音と第二音が聞き取れれば、何を言っているのかわかりやすくなるそうです。

単語の第一音に意識を置くことは「■3:息を深く吸って吐くように声を出す」とセットで取り組みたいポイントです。そうすることで、大きく吐き出した息を漏らすことなく音声に変換でき、息と声のつながった「いい声」になります。

■5:足腰の運動不足に注意する

喉の乾燥と酷使、どちらにとっても大敵なのが「姿勢の悪さ」です。

姿勢が悪く、背中が丸い状態になると、重心のバランスが悪くなり、顎を前に突き出す姿勢になります。顎が前に出ると、口が開きがちになり口呼吸しやすくなってしまいます。そのため、喉が乾燥しやすくなります。

姿勢が悪く猫背になると、顎が前に出やすくなり、口呼吸になりがち
姿勢が悪く猫背になると、顎が前に出やすくなり、口呼吸になりがち

さらに、猫背の姿勢は腹筋や横隔膜に力が入りにくくなり、肺の奥まで十分に息を吸えなくなります。そのため、喉に無理な力を入れて声を出そうとしてしまいます。

猫背になりやすい要因に、足腰の筋力低下があります。足腰の力でしっかり立ち上がれずに腰が落ちると、腹筋に力が入らず背中が丸くなるためです。

一方で、デスクワークが多い生活では、足腰の運動が不足しがち。日常生活の中で、少し意識して足を使うようにしてみましょう。

いつもはエスカレーターを使う駅で階段を使ってみる。電車で立っているときに、キュッとお尻に力を入れる。そんな日ごろのちょっとした心がけで足腰の運動不足は解消され、姿勢も改善されます。

■6:笑顔で話す

笑顔で話すと、口の中で声をうまく反響させ、人に伝わりやすい音をつくり出しやすくなります
笑顔で話すと、口の中で声をうまく反響させ、人に伝わりやすい音をつくり出しやすくなります

声の若さを保つ最後のポイントは、意外にも「笑顔」。これには、口の形が関係しています。

声を出すとき、私たちは声帯を通ってできた音を喉から上の空間で反響させて声の音色や発音をつくっています。この喉の上の空間が一番広くなり、人に届きやすい響きを生み出せるのが「い」の発音をするときの口の形です。笑顔は「い」の発音に近い形を生み出すため、喉が開きやすくなり、人が聞きやすい声を生み出すことにつながります。

また、笑顔を心がければ口の周りの筋力も鍛えられ、滑舌もよくなります

笑顔で鍛えられる筋力は、滑舌をよくするのみでなく、リフトアップに活躍する筋力(大頬骨筋)もあります。この筋力が鍛えられると、ほうれい線が薄くなることが期待でき、見た目の若さにもつながります。

声だけでなく、見た目の若さも保つことができる笑顔は、日ごろから心がけたいポイントです。


【 まとめ|ハリのある声を保つための6つのポイント】

■1:喉の乾燥に注意する
■2:肌の調子が悪いときは喉を無理に使い過ぎない
■3:息を深く吸って吐いて話す
■4:言葉の第一音を意識する
■5:足腰の運動不足に注意する
■6:笑顔で話す


一度喉を傷めて声が老けてしまうと、もとのハリのある声に戻すのはなかなか難しくなってしまいます。声の老化防止はできるだけ早い段階から始めたいところ。最初のチェック項目に該当しなかった人も、ぜひ今回ご紹介した6つのポイントを意識してみてくださいね。

森山 剛 准教授
東京工芸大学工学部 メディア画像学科 映像メディア研究室
(もりやま つよし)慶應大学助手、カーネギーメロン大学ロボティクス研究所などを経て現職。現在は「いい声」と「声に好きな感情を含ませる方法」などの声に関する分野のほか、表情の画像解析や音楽分野における研究も行っている。
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この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
EDIT&WRITING :
廣瀬 翼(東京通信社)