創業270周年という歴史的節目を迎えた、「ヴァシュロン・コンスタンタン」。スイス・ジュネーブにルーツをもつ世界最古のマニュファクチュールは、今春「The Quest(探求):270年にわたる卓越性への追求」展を東京・神宮前で開催。

静謐な空気に包まれた会場、そのプレスプレビューに合わせて来日したのが、プロダクトマーケティング・アンド・イノベーションディレクターのサンドリン氏。端正な装いに、柔らかくも揺るぎない眼差しを携えた彼女は、ゆったりとした口調で語り始めました。

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「ヴァシュロン・コンスタンタン」プロダクトマーケティング・アンド・イノベーションディレクターのサンドリン・ドンガイ氏。

「時間」を巡る、メゾンと彼女のフィロソフィー

「伝統とは、必ずしも過去を守ることだけではありません。未来へと、自由に探求し続ける意志そのものなのです。そして時間は流れ、重みをもち、そして何よりも貴重なものなのです」
サンドリン氏は、そう静かに言葉を紡ぎます。彼女にとって、時間とは単なる時の流れではありません。
生きることそのものであり、自らの美意識を育む軸なのです。

「私たちのメゾンにおいても、“時を計る”という作業は、技術の枠を超えたもの。ディテールの一つひとつに魂を込め、ときに寄り添いながら未来を紡いでいくことです。たとえタイムレスな美を追求していても、私たちは立ち止まらず、挑戦し続けています」

時間にあらがうのではなく、時間と共に生きること。
そこに、「ヴァシュロン・コンスタンタン」の、そして彼女自身の哲学が息づいていました。

由緒ある伝統に敬意を払い、自由に探求する意志

意外にも、彼女のキャリアの原点は香水業界にありました。

「実は、時計の世界に飛び込んだきっかけ“愛”でした」
と、サンドリン氏は微笑みながら打ち明ける。

20年前、当時の夫が時計に情熱を注いでいたことが縁となり、自らも時計の魅力に惹き込まれた。以来、好奇心を翼に、彼女はこの世界で独自のキャリアを築き上げてきたそう。

「時計づくりと香水づくりは、一見異なるようで、どちらも精密さ、素材へのこだわり、複雑な製造工程への敬意を表しています」

そして今、「ヴァシュロン・コンスタンタン」の中核に立つ彼女は、こう続けます。

「リーダーとして大切にしているのは、“種を蒔くこと”。自分の考えや発想を周りやチームに押し付けるのではなく、アイディアを提案し、周囲に育ててもらう。それが組織をしなやかに変えていく道だと信じています」

女性の美意識を映し出す、『エジェリー』コレクション

インタビュー当日、彼女の手元を飾っていたのは、「ヴァシュロン・コンスタンタン」唯一のレディスコレクション『エジェリー』の時計でした。

「『エジェリー』は、現代を生きる女性たちのためのコレクションです」

時計製造とオートクチュールが融合したこのコレクションは、2時位置のリュウズ先端で柔らかく輝くムーンストーンなど、オフセンターのデザインが特徴的。そしてダイヤル中央の繊細なタペストリー技法を用いて施されたデザインは、まるでオートクチュールドレスの優雅なドレープを彷彿させます。

「現代の女性は、T.P.O.はもちろん、気分に合わせて装いを自在に変えます。だからこそ、『エジェリー』にも愛用者が自身で簡単に取り替え可能なストラップを組み合わせました。一本の時計で、女性たちが自由に自分を表現できるように」

神秘的な月、華やかなファッションの世界、そして自由。『エジェリー』には、サンドリン氏の静かな情熱と、女性たちへの深い共鳴が見て取れるのです。

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名作ウォッチ『エジェリー』を着用したサンドリン・ドンガイ氏

異なる芸術を融合するという、イノベーティブな挑戦​

昨年、発表と同時にセンセーションを巻き起こした「エジェリー・ザ・プリーツ・オブ・タイム」は、サンドリン氏自身の発案によるもの。時計製造、香水、そしてオートクチュール──異なる3つの要素を融合させた、前例のない挑戦でした。

「誰もが“不可能だ”と言ったプロジェクトでした。でも、私は挑戦してみたかったのです」

 異分野とのコラボレーションによって生まれたこのユニークピースは、時刻表示となるインデックスを排し、時間の概念そのものを問いかける存在となりました。 

「まだ交わったことのない“宇宙”同士をつなぎ合わせて、新しい探求を続けたい」

そう語る彼女の眼差しには、境界を越える覚悟と静かな熱量が宿っています。

自分だけの「時」を育む、しなやかな生き方を追求して

「ヴァシュロン・コンスタンタン」の270年は、単なる伝統の継承ではなく、
絶え間ない探求と、未来への歩みそのものでした。

「あなた自身の美意識を、信じてください。そして自分だけの時間を、育んでください」

サンドリン氏は、そんなふうに私たちに静かに語りかけます。

「自らの美意識を信じ、自分らしい“時”を生きること。
それは、何よりも尊い探求となる。そしてその探求は、ブランドの哲学と共鳴しながら、私たち一人ひとりの人生を、より豊かで意味深いものへと導いてくれるのです」

サンドリン氏が体現するメゾンの精神に触れられる展覧会「The Quest(探求):270年にわたる卓越性への追求」が、現在、東京・神宮前にて開催中。
時を超えた探求の軌跡を、ぜひその目で体感してください。

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サンドリン・ドンガイ
「ヴァシュロン・コンスタンタン」
プロダクトマーケティング・アンド・イノベーションディレクター
香水業界でキャリアをスタートし、2018年より「ヴァシュロン・コンスタンタン」に参画。プロダクトマーケティング・アンド・イノベーションディレクターとして、ウォッチコレクションの企画・開発・戦略的強化をはじめ、デザインやクラフツマンシップ部門、イノベーション領域を横断的に統括する。右脳と左脳を行き来するような柔軟な思考と、感性を大切にした美意識で、メゾンの伝統に新たな息吹を吹き込んでいる。

【イベント情報】

 「THE QUEST(探求): 270年にわたる卓越性への追求」

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  • 時計_6,高級時計_6

営業時間:11:00~19:00(最終入場18:30)
定休日:火曜日(祝日を除く)
入場料:無料(予約来場優先、来場規制あり)
問い合わせ先:0120-63-1755  
住所:東京都渋谷区神宮前5-11-1

詳しくは以下をチェック!

 www.vacheron-constantin.com/jp/en//events/tokyo.html

この記事の執筆者
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WRITING :
安部 毅