
フランス・シャンパーニュ地方の名門メゾン「アンリ・ジロー」が創業400周年を迎え、同時に日本総代理店「アンリ・ジロー ジャパン」の設立20周年を祝して、特別な記念イベントが開催されました。舞台となったのは、富山県富山市の港町・東岩瀬。江戸期の北前船交易で栄えたこの地は歴史ある町家が今も残り、富山の山海の素材を用いた日本料理やフレンチなどミシュラン掲載店が軒を連ねる注目の町。感度の高い美食家や文化人たちの注目を集める地として知られています。
この日のイベントは、東岩瀬に点在する名店を巡りながら、アンリ・ジローの珠玉のシャンパーニュとのペアリングを堪能するという、町全体を舞台にしたスケールの大きなプログラム。アンリ・ジロー 13代目当主 エマニュエル・ジローさん、醸造責任者であるセバスチャン・ル・ゴルヴェさんも来日し、フランスの名門シャンパーニュメゾンのスピリットと、豪商の家屋や土蔵など日本の匠が融合し、文化と時間を越えた豊かな交歓のひとときとなりました。
エスプリ・ナチュール Gで幕開け──桝田酒造店から始まる物語

イベントの始まりは、富山が誇る銘酒「満寿泉」で知られる老舗蔵元、桝田酒造店の蔵前広場。訪れたゲストたちは、まずはウェルカムシャンパーニュとして「エスプリ・ナチュール G」を手に取り、挨拶がわりの乾杯を交わします。アイ村産のピノ・ノワールとシャルドネを用い、アンリ・ジローが誇るアルゴンヌの森のオーク樽で発酵・熟成されたこのキュヴェは、土地と人の記憶を宿したようなナチュラルさと力強さを併せ持ちます。
乾杯の後に行われたのは、醸造責任者であるセバスチャン・ル・ゴルヴェさんによるサーベラージュ(シャンパーニュの剣開け)。軽やかな動作で一瞬にしてボトルの口が飛び、黄金色の泡が勢いよく飛び出すと、会場からは歓声が沸き起こります。華やかな祝祭の始まりを感じさせる瞬間でした。
東岩瀬の名店で体験する、珠玉のペアリング巡礼
その後、参加者は5つの名店に分かれて移動。各店ではアンリ・ジローが誇る希少なキュヴェと、その世界観に寄り添う特別な料理が提供されました。歴史ある町家を改装したレストランや、地産の食材を用いた日本料理、イノベーティブな技法が光る創作料理など、各店の個性とメゾンの哲学が美しく響き合います。
1 御料理 ふじ居 × フュ・ド・シェーヌ MV

東岩瀬を代表する和食の名店「御料理 ふじ居」。四季折々の地物を用い、器や盛り付けにまで繊細な心配りが感じられる料理でミシュラン二つ星を獲得しています。この日出された富山の名産白エビのしんじょうにはコシアブラがあしらわれ、山海の味覚が楽しめる逸品。合わせるシャンパーニュにはアンリ・ジローの代名詞ともいえる「フュ・ド・シェーヌ MV」が選ばれました。樽熟成による厚みと旨味を備えたこのキュヴェは、山菜や出汁の香りと美しく重なり、シャンパーニュが出汁のうま味とといかに調和するかをあらためて教示するものでした。
2 魚津群 ねんじり亭 × PR 90-20

「魚津群 ねんじり亭」は、魚津港であがる素材をもっともおいしい食べ方で提供してくれる海鮮の専門店。イズカサゴやマダイ、キジハタ、甘エビなど獲れたての魚介に、リザーブワインを100%使用した「PR 90-20」をペアリング。深い熟成から生まれるトースティな香りと滑らかな泡が、魚の旨味を引き立て、シャンパーニュの奥行きを余すところなく伝えてくれました。
3 酒蕎楽 くちいわ × アンリ・ジロー マスイズミ

酒器の静けさと蕎麦の香りに包まれる「くちいわ」では、なんと日本酒「アンリ・ジロー マスイズミ」が登場。これはアンリ・ジローが熟成に使ったオーク樽で6カ月寝かせた満寿泉の純米大吟醸。まさに日仏の究極のコラボレーションです。ワインの醸造技術と日本酒の伝統が交差したこの酒は、どこか洋のニュアンスを感じさせながらも、落ち着きのあるふくよかな味わいで、唯一無二の存在感を放ちます。
4 CAVE YUNOKI(カーヴ・ユノキ) × フュ・ド・シェーヌ MV ロゼ

明治期の回船問屋の築100年の蔵を改装したレストラン「カーヴ・ユノキ」。その名の通り“熟成の蔵”を意味する「CAVE」には、時間をかけて味わいを育むという店主の信念が込められています。貝が得意な店主はこの日、バイ貝を使った繊細な味わいの前菜を披露。これとともに供されたのは、フュ・ド・シェーヌ MV ロゼ。赤ワインを3分の1使用し、最低4年の瓶内熟成を経たこのロゼは、ラズベリーやオレンジピールの香りに塩味と苦味が重なり、余韻に品格を感じさせる逸品。日本海の繊細なバイ貝魚介料理と共鳴し、深い満足感をもたらしました。
5 Japanese Restaurant GEJO × アルゴンヌ 2015

「世界無国籍、No Border」をコンセプトに掲げる日本料理「GEJO」では、丁寧に仕事が為された白エビやマスの握りが用意されていました。登場したのは、アンリ・ジロー最高峰のキュヴェ「アルゴンヌ 2015」。アルゴンヌの森で造られた特製樽によって育まれたこのキュヴェは、ピノ・ノワールの力強さとシャルドネの緻密さが緊張感あるバランスで共存。香ばしいナッツ香と伸びやかな酸が、日本料理の削ぎ落とされた美に寄り添い、五感を研ぎ澄ませる体験です。
フィナーレはピアット スズキ チンクエへ──町と人をつなぐ祝祭のかたち

町歩きしながらのペアリング体験はグランドフィナーレまでがサプライズに満ちたもの。最後にイタリアン「ピアット スズキ チンクエ」では創業400年を記念してリリースされる特別なキュヴェ「Arro(アロー)」がお披露目されます。2004年収穫のアイ村産のピノ・ノワールのみを使用、プレス時に少しだけ醸してほんのりピンク色を帯びた色合いのシャンパーニュ。世界限定わずか400本の生産。洗練された空間の中で、グラスを傾けながら交わされる会話には、それぞれの感動が滲んでいました。
今回の企画は、「アンリ・ジロー ジャパン」代表・山崎昌義氏と、「桝田酒造店」代表・桝田隆一郎氏の友情から生まれたもの。日本でアンリ・ジローの輸入を始めた当初、山崎氏は満寿泉の蔵をワインセラーとして使わせてもらったといいます。そうした“縁(En)”をキーワードに、地域とブランド、人と人が結びつき、1年がかりの構想が結実したのです。
エマニュエル・ジローさんとセバスチャン・ル・ゴルヴェさんが語る、日本での記念すべき日

この日のために来日した13代目当主エマニュエル・ジローさんは、東岩瀬の街を歩きながらシャンパーニュを味わうという初めての経験に、感無量の面持ちを見せました。「伝統的な日本の町並みのなかで、地元の料理とシャンパーニュが響き合うイベントは、私にとっても深く記憶に残る体験でした」
また、醸造責任者セバスチャン・ル・ゴルヴェさんも、「このような美しい街並みと素晴らしい料理人たちに迎えられ、400年の歴史と日本での20年を祝えたことは、何にも代えがたい時間でした」と、笑顔で語りました。
伝統と革新、その真価を体感する時間

アンリ・ジローのシャンパーニュは、単にラグジュアリーなワインというだけではありません。「ゼロ・ペスティサイド」の哲学に則って農薬や除草剤、殺虫剤なしで30年以上栽
今回の東岩瀬でのイベントは、そんなアンリ・ジローの哲学と、日本の美意識が融合した奇跡のような時間でした。参加者にとって、グラスの中に浮かんだ泡のひとつひとつが、きっと忘れがたい記憶として心に刻まれたに違いありません。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- 小松勇ニ
- WRITING :
- 谷 宏美