素材が心に触れるとき、時間は感情になる【記憶に刻む「新・マテリアル」の詩学】
触れた瞬間、なぜか心に残っている── 記憶、願い、あるいは名もない感情。いま、素材そのものが “語り手” となり、 感性の輪郭を語りかけてきます。時計に触れたその先で、時間と感情が結び合う詩に耳を澄ませて。
感情に触れるような素材があります。硬質でありながら、静けさや温もりの記憶を呼び起こす、不思議な存在。それは美しさではなく、光や手触り、色の気配が感性に語りかけてくるからかもしれません。時計という構造体において、素材の情緒が主役になろうとしています。時計の世界で、素材が語り始めているのです。スペックでは測れない、心のどこかに触れる静かな声で――。
「シャネル」が創出した高耐性マットブルー セラミックは、色彩を設計するという思想のもと5年の歳月をかけて開発。手作業で磨かれた面に光が揺らぎ、構造の奥に感情がかすかに立ち上がる。その青はただの色ではなく、青に向かう意志。そこには、静かな詩情が宿っています。
「H.モーザー」が選んだのは、ビルマ翡翠とピンクオパール。語りすぎず、ただあるという気配をまとっています。ロゴもインデックスも排された文字盤は、時間ではなく問いを映す。素材が“美とは何か”を、静かに、だが確かに語っています。
「グランドセイコー」のブライトチタンは、白く、軽く、独自のザラツ研磨を施すことで鏡面に輝く機能素材。だが本質は、性能ではなく静けさにある。樹氷を思わせるダイヤルと、なめらかな秒針の動き。それらが“時間が流れていくこと”の質感を伝えてきます。音のない冬の朝のような、澄んだ余白があるのです。
最後は、「ショパール」が選んだアベンチュリンガラス。星空を閉じ込めたような煌めきに心を奪われ、奥に浮かぶ小さな月が、偶然と永遠を映し出す。銅の削りかすが混ざって生まれたという偶然の素材と、精密なムーンフェイズ機構。そこにあるのは、計測ではなく、感じるための時間が静かに流れています。
素材は語る。構造や装飾を超えて、感情と時間の間にある小さな声として。時計に耳を澄ませば、きっと聞こえてくるはず。私たちは、何でできているかではなく、どう響くかを選び始めているのかもしれません。
1.MATERIAL:静けさをまとう、青の緊張感|磨かれた構造が情緒を灯す

微細な濃淡を湛えたブルー セラミックが、 時の表情に、さらなる奥行きと緊張を与える。 無機質な感触のなかに宿る、人肌のような温度。 完璧に制御された色と形に、 不意に揺らぐ情緒が忍び込む。 計算された光沢と反射が、 静かに感情の輪郭を象って。光と影を編む構造のなかから、 青が静かに、感情の気配を立ち上らせる。
CHANEL(シャネル)

ケースとブレスレットにブルー セラミックを採用。ダイヤルを取り巻くブルー サファイアの煌めきと、中央で回転するダイヤモンドが調和し、トゥールビヨンのリズムと共に静謐な輝きを放つ。
2.MATERIAL:色彩に託した問いかけが知性と好奇心を揺さぶって

ほんのりと濁る翡翠の凛とした質感と、ピンクオパールの温かな色彩のひらめき。ふたつの石の間で、無言の対話を交わしている。どちらも過剰に語ることなく、それでも確かに感情を揺らす。均整の枠をほどくように生まれたこの文字盤は、“美とは何か”という問いを、肌の上で投げかけている。それは装飾ではなく、意思をまとう感覚。
H.MOSER & CIE.(H.モーザー)

ビルマ翡翠とピンクオパールを配した天然石のダイヤルが、奥行きある印象をもたらす。ロゴもインデックスも排した構成が、素材の質感や色彩のニュアンスを際立たせ、視線と感覚を一点に導いていく。
3.MATERIAL:精度に宿る、澄んだ気配|鏡のような金属に、光が舞う

硬質な金属でありながら、冷たさではなく静けさをまとう。この素材に触れると思い出す、音のない冬の朝。日本の美意識が宿ったブライトチタンは、 重さを主張せず、光の入り方と共に表情を変えていく。その穏やかな変化のなかに、時間が流れていくことの質感を感じる。それは時計というよりも、まるで時間そのものを包み込む器になっている。
GRAND SEIKO(グランドセイコー)

4.MATERIAL:偶然が生んだ星のかけらが詩のように時を照らす

夜空に浮かぶ無数の星、その煌めきを閉じ込めたかのようなアベンチュリンの文字盤。小さな月の輪郭は、永遠という時間の流れと、偶然がもたらす出合いを映し出す。ジュエリーであり、天体の記憶でもあるこの時計は、まるで時を詩に変える装置のようなもの。美しさが感情と共に、時をゆっくりと刻んでいく。

星が瞬くように輝くアベンチュリンガラスの文字盤に、クラウンセッティングのダイヤモンドが繊細な光を添える。高精度のムーンフェイズが、偶然と永遠をひとつの円に重ねる。
※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
※文中の表記は、WG=ホワイトゴールド、RG=ローズゴールド、PG=ピンクゴールド、YG=イエローゴールド、SS=ステンレススティール、PT=プラチナ、DIA=ダイヤモンド、MOP=マザー・オブ・パールを表します。
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問い合わせ先
- シャネル カスタマー ケア センター TEL:0120-525-519
- エグゼス TEL:03-6274-6120
- セイコーウオッチお客様相談室/グランドセイコー TEL:0120-302-617
- ショパール ジャパン プレス TEL:03-5524-8922
- PHOTO :
- 池田 敦(CASK)
- STYLIST :
- 関口真実
- EDIT&WRITING :
- 安部 毅、安村 徹(Precious)