熱気に包まれて、その魅力は世界に広がっていく…【ジュネーブという“時の祭典”】

哲学と美意識が交差し、記憶と未来が重なる世界最大級の祭典で、時計は物語を紡いでいました。単なる展示ではなく、感情が動く “体験” として、時計は新たな世界を立ち上げ、その意味を示したのです。その舞台となったのが、スイス・ジュネーブの街でした。
時を巡る哲学と美意識が交差しラグジュアリー体験を演出する舞台

高級時計の現在地と、未来への気配を体感する場所。それが「ウォッチズ・アンド・ワンダーズ ジュネーブ2025(以下、W&WG)」です。毎春、スイス・ジュネーブのパレクスポで開催されるこの一大イベントは、今年、過去最多となる60ブランドが参加。1週間で5万5千人以上の来場者を迎えました。それは単なる数字の記録ではなく、高級時計を巡る熱気の広がりを物語っていました。

なかでも注目を集めたのが、「ブルガリ」の満を持しての初参加。長年、ジュネーブ市内の別会場で独自に新作発表を行ってきたブランドが、ついにW&WGの舞台に姿を現したのです。ブランドの世界観を体験できる豪華なブースは、W&WGの存在感を際立たせていました。その一歩は、未来志向の意思表明でもあったのです。
W&WGが見本市にとどまらないと感じるのは、空間そのものが、没入感を高める工夫に満ちた「体験の場」として豊かに設計されているからです。各ブランドは、単なる製品の展示ではなく世界観を演出します。ラグジュアリーとは、製品そのものではなく、思想や物語を含めた総体である──その哲学を体感できる空間が広がっているのです。
来場者は、職人の卓越した技術や演出に目を奪われ、ときに驚き、深くうなずきながら会場を巡ります。光や音、動線のすべてが呼応した、思考と感性を揺さぶるような体験。そこには、消費を超えた知的な遊歩、いわば感性の旅がありました。また、一般来場者向けの3日間では2万3千枚以上のチケットが販売され、前年比21%増を記録したとのこと。

SNSやYouTubeによる発信も熱を帯び、ハッシュタグ「#watchesandwonders2025」は、推定7億人以上にリーチしたとされ、現地の高揚感はリアルタイムで世界中に共有されていきました。ラグジュアリーとは、ただ “見る” ものではなく、“感じ、考える” 時間──W&WGは、精緻な技術と美意識の交差点で、そんな本質を静かに体現していたのです。
記憶と想像を呼び起こすように時計が感情に触れる装置となって

時計が “時を知る装置” であるなら、W&WGは感情に触れる舞台装置。「エルメス」のインスタレーションは映像と音、光が交差し、記憶と想像の間に揺れる情景が印象的でした。
「グランドセイコー」のブースには「THE NATURE OF TIME」の哲学が息づき、秒針の流れや光の移ろいが、日本の美意識と “生きた時間” を演出したのです。

「ジャガー・ルクルト」は、名作『レベルソ』誕生の背景にあるポロの世界を再構築。厩舎を模した空間は、まるで過去と現在をつなぐ記憶の装置のよう。
そして、「シャネル」は新開発したブルー セラミックの世界観を深い青で包み込み、色彩そのものが来場者の感情に触れる演出設計。感情が揺れた瞬間、時計は本質を表す──そんな体験が、ここにはあったのです。


知と美が息づく都市に描かれる未来と過去が溶け合う美しい風景

ジュネーブは都市全体で “時の祭典” を奏でています。郊外の村ジャントゥで毎年開催されているWPHHは、「フランク ミュラー」の主催で膨大な新作が並び、世界中の関係者を迎えています。

レマン湖を望む自然のなかに、時計の未来が芽吹くのです。W&WGを軸にジュネーブの街では展示が連なり、時計の世界が広がっていきます。通りを抜けるたび、新たな世界が現れ、人々を歓迎します。それは展示を超えたもの、いわば都市と時間が交差する美の連なりです。


ジュネーブという都市そのものが、時計文化に包まれています。旧市街の石畳、ローヌ川の流れ、国際都市としての顔、宗教改革に育まれた職人技。歴史と革新、科学と芸術──すべてがこの都市で穏やかに溶け合っているのです。
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- PHOTO :
- 箱島崇史(取材)
- EDIT&WRITING :
- 安部 毅、安村 徹(Precious)