「ス・ミズーラはファッションを追うものではない。それはここナポリの文化から生まれ、すべてが手からつくられる(ファット・ア・マーノ)、個人に合わせたハンドメイドだ。だからこそ美しい」ナポリ仕立ての正統アンジェロ・ブラージに師事、2017年4月に83歳で亡くなるまで現役だった巨匠、レナート・チャルディは、ナポリ仕立ての真髄をこう語った。
多くのセレブを惹きつけた華麗なスーツ
’50年代、ナポリを代表するサルトであったブラージは、貴族文化の系譜を継ぐ華のあるナポリ仕立ての哲学を彼に教えた。
ナポリで独立した後、’60年代に全盛を迎えたイタリア映画産業を背景にマルチェロ・マストロヤンニら映画俳優や、マフィアのラッキー・ルチアーノまでもが訪れる人気のサルトリアとなった。
ナポリの伝説のサルト、レナート・チャルディ氏
チャルディのスーツにはこうした逸話にふさわしい、華やかさとエレガンスが備わっている。特筆すべきは背中に吸い付くような優美なラインと、滑らかなショルダーにドレープ感、絞り込んだウエスト。レナートの性格を反映した洒脱なスーツがチャルディの真骨頂だ。
彼の下で働くふたりの息子、ヴィンチェンツォとロベルトも1985年から修業を積んだ熟練のサルトだ。かつては大半のサルトリアが家族経営だったが、偉大な巨匠の後を兄弟で共に継承しているサルトリアは希有な存在といえるだろう。
【関連記事:纏えば男の格が上がる! アントニオ・パニコが仕立てるスーツは何が違う?】
- TEXT :
- 長谷川 喜美 ジャーナリスト
- BY :
- MEN'S Precious2017年夏号 ナポリ王国の栄華を伝える3大マエストロの饗宴より
公式サイト:Gentlemen's Style
- クレジット :
- 撮影/Luke Carby 構成・文/長谷川喜美