フォルクスワーゲン・グループは、本拠地のドイツ北部で複合施設「アウトシュタット」を運営している。いわゆる自動車博物館とは違い、エンターテインメント性に富んだ、一種のテーマパークだ。だから、訪れるのはカーマニアだけではない。そこへ足を運んだモータリングライターの金子浩久氏が、趣向を凝らしたVW流のスタイルをリポートする。

リピーターも多いドイツ北部のテーマパーク「アウトシュタット」

歩いて回るには相当な広さで、敷地内にホテル(リッツ・カールトン)も併設されている。

 フォルクスワーゲン・グループが運営している複合施設「アウトシュタット」を訪れた。

 ドイツ北部の同社本拠地ウォルフスブルク工場に隣接された、28ヘクタールの広大な公園だ。完成したのは2000年1月。年間200万人以上の来場者がある。

 園内には、同グループを構成しているフォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェ、ランボルギーニ、ベントレー(改装中)、ブガッティ、シュコダ、セアト、フォルクスワーゲン・トランスポート(商用車)などのパビリオンが並び立っている。

 各パビリオンでは現在発売中のクルマを陳列したり、歴史やコンセプトモデルを展示したりしてブランドの世界観を提示している。

 自動車の歴史を辿る博物館もあり、グループに捉われない古今東西の250台ものヒストリックカーが収蔵されている。

 10軒のレストランやカフェ、各種のショップなども併設され、家族連れや修学旅行、社会科見学の学生や子供たちでも賑わっていた。

 こうした施設の大きな課題として、いかにしてリピーターを増やすかが挙げられるが、アウトシュタットの場合は各種のイベントを招致し、開催することで門戸を広げている。

 音楽祭やダンスコンテスト、サーカスフェスティバル、冬には凍った池がアイススケートリンクになるから、そこでアイスショーも開かれる。そうした甲斐があって、各種の受賞も果たし成功を収めてきた。

納車もエンターテインメントに!

こちらが「新車引き取りサービス」を行う、2棟のカータワー。いわば、ガラス張りの高層ガレージで、1棟あたり400台を収容。訪問者はクルマを輸送する高層駐車システムで上階にアクセスできる。

 もうひとつの機能である「新車引き取りサービス」もここでは行われている。各地のフォルクスワーゲンディーラーで新車を注文した顧客が、ここまでやって来てクルマを受け取ることができるのだ。

 税制の関係からドイツとオーストリアに限られたサービスだが、人気が高い。2016年一年間で15万2065台が引き渡され、平均すると一日約500台にも上っている。

 注目すべきは、このサービスをフォルクスワーゲンが旅行商品化していることだ。

 ICE(超特急列車)とアウトシュタット内に併設されたリッツ・カールトンホテルを予約し、工場見学なども組み合わせ、前述した音楽やサーカスなどのさまざまなイベントの時期にパッケージツアーとして売り出している。

 顧客も、クルマを受け取った後、自宅に直帰しないで、そのままどこかを巡るドライブ旅行をして、結果的に新車の購入を体験化して楽しんでいる。

 メーカーとしてみれば、ブランドに対する顧客のロイヤリティを高め、リピーターを増やす有力コンテンツのひとつに位置付けることができる。

 そのためには、単に新車を引き渡すだけではなく、アウトシュタットという「舞台」を用意して、そこで演じられる各種のイベントを用意するという演出と工夫が欠かせない。

 クルマの引き取りは旅のメインイベントであるけれども、すべてではない。フォルクスワーゲン社はクルマというハードウェアを製造しているけれども、引き取りサービスを一つの「体験」とした旅行商品、エンターテインメントとしても販売していることになる。とてもよく考えられている。持続させ、発展させてきた努力に敬意を払いたい。

「今日からこのティグアンであちこち出掛けることを想像するだけでワクワクしてくるわ」

 小さな男の子二人を連れた夫婦の妻が満面の笑顔で話してくれた。新車を買うという行為は、そのクルマと過ごす自分と家族の未来を肯定的に想像することである。これもまた、クルマのソフト化のひとつの現れである。

 日本からアウトシュタットだけ訪れる旅というのはなかなか想像し難いけれども、北ドイツを訪れる場合には憶えておいて損はないだろう。フォルクスワーゲンのユーザーやファンならばなおさらだ。行ってしまえば、一日費やしても時間が足りないほどだ。

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この記事の執筆者
1961年東京生まれ。新車の試乗のみならず、一台のクルマに乗り続けることで得られる心の豊かさ、旅を共にすることの素晴らしさを情感溢れる文章で伝える。ファッションへの造詣も深い。主な著書に「ユーラシア横断1万5000km 練馬ナンバーで目指した西の果て」、「10年10万kmストーリー」などがある。
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