日本全国に温泉宿は数多あれど、情報の海のなかから本当に満足度の高い一軒を見つけ出すのは至難の業。そこで、本連載では、国内外の温泉を巡りその神髄を知り尽くした温泉ジャーナリスト・植竹深雪さんに、自ら足を運び五感で確かめた上質な宿をピックアップしてもらいました。
極上の湯に癒されるのはもちろん、その土地ならではの美食やホスピタリティで心ゆくまでリフレッシュしたい! そんな大人の女性のニーズに応える至福の旅をナビゲートします。今回ご紹介するのは、静岡県・修善寺温泉にある「文化財の宿 新井旅館」です。

公式サイト
登録有形文化財の湯殿を巡り文豪も愛した名湯に癒される
伊豆の小京都と称される修善寺。この地がもっとも華やぎ、生命の輝きに満たされるのが春の季節です。淡い桃色のソメイヨシノが温泉街を彩ったあと、バトンを繋ぐように街を染め上げるのは新緑のグラデーション。桂川のせせらぎに沿って「竹林の小径」を歩けば、みずみずしい若葉の青さが目にまぶしく、柔らかな光を浴びながら深呼吸するだけで、冬の間に強張っていた心身がゆっくりと解き放たれていくのを感じられます。
そんな情緒溢れる修善寺にて、ひときわ威風堂々とした佇まいが目を引くのが、明治5年(1872年)創業の「文化財の宿 新井旅館」です。一歩足を踏み入れれば、そこは近代日本の美学が息づく別世界。敷地内に点在する15棟もの建物が登録有形文化財で、時代を代表する数多の文人墨客に愛されてきた老舗名旅館です。
なかでも芥川龍之介は無類の風呂嫌いだったにもかかわらず、こちらの温泉はいたく気に入り、繰り返し浸かったという逸話が残っています。
「建築美が素晴らしい新井旅館のなかでも、圧巻なのが昭和9年に築かれた『天平大浴堂』。釘を1本も使わず8世紀の寺院様式を再現した総檜造りの浴室で、見上げれば優美に交差する梁の意匠に目を奪われます。荘厳な雰囲気を醸す歴史的な空間にて修善寺の名湯を堪能できるのが格別です」(植竹さん)
館内には、「天平大浴堂」の他にも趣の異なる湯処が点在し、滞在中は湯巡りの楽しみも尽きません。
「『あやめ風呂』は、池を泳ぐ鯉を眺められる浴槽とあやめの形をしたレトロな浴槽を備えた内湯。タイムスリップしたかのような非日常感を味わいつつ、じっくりと湯と向き合えるのが至福です。そして、木々の緑に包まれた『木洩れ日の湯』は、穏やかな光が差し込む野天風呂。外気と一体になれる心地よさのなか、春の気配を感じながら湯浴みすることができます」(植竹さん)
最も新しい浴室は、「折節の湯 雪花」。四季の移ろいを映し出す庭を望む設えで、時間帯や季節によって異なる表情を見せてくれます。さらに、貸切風呂も2か所あり、プライベートな空間で周囲を気にせず湯に浸かれるのも魅力です。
「泉質は、アルカリ性単純温泉。柔らかな浴感が肌に優しい美人の湯です。歴史ある建築と自然が響き合う空間で、ゆったりと流れるひとときに身を委ねられるのは、この宿ならではの贅沢だと思います」(植竹さん)
伊豆の山海の幸がひしめく珠玉の会席を五感で味わう
湯の余韻にひたりながら、次に楽しみたいのが、伊豆の豊かな自然が育んだ旬の味覚。夕食では、駿河湾の海の幸と天城の山の恵みを取り入れた会席料理が供され、この土地ならではの滋味をじっくりと味わうことができます。
伊豆エリアの海の幸といえば、脂ののった金目鯛。提供の仕方は時季やコースによって異なり、ふっくらとした身質と上品な甘みが口福へと誘います。
そして、新鮮な山葵もこの界隈の名産品のひとつ。清らかな水に育まれた本わさびは、爽やかな香りと優しい辛みが特徴で、すりたてを刺身に添えれば、魚のうま味をいっそう引き立ててくれます。シンプルでありながら、素材同士の相乗効果を堪能できるのも、この地ならではの醍醐味です。
一皿ごとに季節の移ろいを映し出す料理の数々は、素材のよさを引き立てる過不足のない味付けで老舗の矜持を感じさせます。歴史ある空間で繊細に仕立てられた美食を味わう時間が、滞在の満足度をいっそう高めてくれることでしょう。
以上、修善寺温泉「文化財の宿 新井旅館」をご紹介しました。歴史ある建築美と名湯、そして旬の味覚をゆったりと堪能したい人は次の旅先候補のひとつに加えてみてはいかがでしょうか。
問い合わせ先
- 文化財の宿 新井旅館
- 住所/ 静岡県伊豆市修善寺970
客室数/全31室
料金/朝夕2食付き 2名1室1名 ¥29,150~(税込) - TEL:0558-72-2007
関連記事
- 【温泉ジャーナリストの推し宿 vol.7】浸かっても吸ってもよし!温泉とオンドルで心身を癒す「バルコス旅館 三朝荘」
- 【温泉ジャーナリストの推し宿 vol.6】春満開の南房総で温泉に癒されながら海も山も満喫する「海の湯宿 花しぶき」
- 【温泉ジャーナリストの推し宿 vol.5】創業300余年の老舗宿で悠久の時を経て湧き出づる名湯を堪能する「深山荘 高見屋」
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 中田綾美
- EDIT :
- 谷 花生(Precious.jp)

















