描かれているものは?隠されているものは?ワイエスを読み解くための3つのポイント

20世紀のアメリカを代表する画家、アンドリュー・ワイエス。美術界の動向とは距離をおき、ひたすらに身近な人々と風景を描き続けた彼の作品は、なぜ私たちの心を打つのか。ワイエス好きの美術家・ナカムラクニオさんに教えていただきます。

ナカムラクニオさん
荻窪「6次元」主宰。美術家。
『金継ぎ手帖』『こじらせ美術館』『大人が知っておきたい 図解 教養としての美術史』『美術館に行く前3時間で学べる 一気読み西洋美術史』ほか著書多数。長野・諏訪と石川・能登で古民家を修復し、漆を育てている。

【今月のオススメ】アンドリュー・ワイエス《クリスティーナ・オルソン》

アンドリュー・ワイエス
1947年 テンペラ、パネル 83.8×63.5cm マイロン・クニン・コレクション、ミネアポリス  Myron Kunin Collection of American Art, Minneapolis, MN photo: Curtis Galleries, Inc. ©2026 Wyeth Foundation for American Art / ARS, New York / JASPAR, Tokyo

生まれ故郷のペンシルヴェニア州と、夏の家のあるメイン州の、少年時代から行き来していたふたつの地域の身近な人々と風景を描き続けたワイエス。クリスティーナ・オルソンは進行性の病のために両脚が不自由でありながら気高い独立心をもった女性で、彼女を支えた弟と共に、ワイエスの絵に繰り返し登場する。


ワイエスは日本で非常に人気の高い画家です。ただ、解説するとなるとたいてい、「高い精神性が〜」とか「西洋絵画の普遍的テーマである境界が〜」といった抽象的な話になりがちです。ワイエスの作品は、「何が描かれているか」だけでなく「何が隠されているか」を問いかける絵画なので、読み解くのにちょっと知識が必要。そのためのポイントを3つお伝えします。

まずは、「テンペラに感じる侘び寂び」。ワイエスの手法は、卵と顔料を混ぜて描く古典的なテンペラ技法です。軽い水彩と重い油絵具の間、乾いたマットな質感のテンペラには、日本画のような侘びた風情があります。枯れ草の一本一本、古びた壁のひび割れまで、執拗なほどの細かい描き込みに、時間や記憶の断片が宿っています。

次に「日常に隠されたドラマ」。ワイエスは、歩くことのできなかったクリスティーナをはじめ、他人の苦悩を描いた画家です。ワイエスが描く扉や窓は、外への出口であると同時に、閉ざされた過去や秘密を暗示します。

3つ目は「身近な場所と人に宿る美を発見」。ワイエスは、自宅と別荘周辺以外にはほとんど出かけることがありませんでした。同じ風景、同じ人たちを長期にわたって繰り返し描くことで、見慣れたもののなかに存在する深淵や真実を見出そうとしたのです。

ぜひ、この3つのポイントを念頭に、展覧会へ出かけてください。アメリカの田舎のありふれた風景を、魔法をかけたような詩的な世界へ昇華させたワイエスの、マジックリアリズム的世界にますます魅了されますよ。(談)

 

<Information>東京都美術館開館100周年記念  アンドリュー・ワイエス展

1974年に東京と京都で開催された日本で最初の個展で33万人を集めたワイエスの、日本では没後初となる展覧会。10点以上の日本初公開作品を含め、代表作も交えて紹介。以後、愛知、大阪へ巡回。

会場/東京都美術館(東京都台東区上野公園8-36)
会期/開催中〜2026年7月5日(日)まで(以後、愛知、大阪へ巡回)

問い合わせ先

東京都美術館

TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)

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