またひとつ「帰りたい」場所ができた、ノルウェーへの旅
「デンマーク人がデザインし、スウェーデン人が売り、ノルウェー人が運ぶ」
北欧にはこんなジョークがあります。デザインならデンマーク、ブランディングならスウェーデン。でも運搬は…って(笑)。北欧のなかでは、ノルウェーはどこか実直で、少し地味な国として語られることが多いよう。でも。その“地味さ”は、本当は華美な演出を必要としない真のラグジュアリーなのではないか。そんなことを、ノルウェー南西部の港町Stavamger(スタヴァンゲル)で考えました。
行く前には名前さえ知らず、空港のカウンターで「スティヴァンジャー」と発音して「え、どこ?」と何度も聞き返され、しまいには笑われたくらい。ですが、旅を終えた今、この地は忘れがたい記憶となり、いつの日か再訪したい行き先リストの上位にランクインしています。おそらくまだ日本の方にはあまり知られていないデスティネーションでしょう。けれど、こうして世界にはまだ私の知らない場所があり、心を動かす景色や人との出会いが待っている。そう思えるだけで、人生はもう少し楽しみになってきます。
スタヴァンゲルの人口は約15万人。日本で考えると石巻(宮城)や米子(鳥取)に匹敵するほどの小規模な都市ですが、北海に面した港町には世界有数のエネルギー企業が集まっていることから「ノルウェーの石油の首都」とも呼ばれています。中心部は歩いても回れるほどのコンパクトな街に歴史ある木造建築と、海産物の豊富さと最先端のガストロノミー、お洒落で落ち着いた感じの人々…この感じはどこか私に函館を思わせました。
1.JAPANDIを感じさせるホテル「Eilert Smith Hotel」
ではそのノルウェーの函館、スタヴァンゲルで出会った5つのラグジュアリーについてご紹介していきましょう。まずは私の拠点となった「Eilert Smith Hotel(エイラート・スミス ホテル)」。ここは、ハイエンドなトラベラーにお馴染みのホテルブランドグループ「スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド(以下SLH)」に加盟し、ミシュランキーにも選ばれているから、そのクオリティはお墨付き。
この建物はもともと有名な建築家エイラート・スミスによって設計された倉庫だったそう。北欧らしく静謐な空間に木やファブリックが温かみを感じさせてくれ、控えめに言って最高。なんでこんなに居心地がいいのかな、とスティナに尋ねたところ、「それはあなたが日本人だからじゃない?」と言われました。今、北欧では「Japandi(ジャパンディ)」というスタイルが人気だそうで、これはJapanとScandinavian、つまり日本と北欧のテイストミックスというわけ。
日本の侘び寂びに象徴される簡素な美しさと、北欧デザインの機能性や温もりが融合したら、こんなにも心地よいなんて。このスタイルが広く受け入れられた背景には、日本と北欧に共通する美意識があるのだと感じました。つまり、四季の移ろいを慈しみ、自然と共生することを大切にする価値観。長く使える良質なものを選び、経年変化さえ美しさとして楽しむ感性。一過性の流行ではなく、日本と北欧がもともと共有していた価値観が、あらためてひとつの言葉として結実したのが「Japandi」なのではないか。そんなことを考えさせてくれる、素晴らしいホテルでの滞在でした。
●Eilert Smith Hotel(エイラート・スミス ホテル)
https://slh.com/hotels/eilert-smith-hotel
2.素材の声を聴くガストロノミー「RE-NAA」
さて、食いしん坊の私が旅をするのですから、スタヴァンゲルの美食もご紹介しなくては。「エイラート・スミス ホテル」内の「RE-NAA」は北欧5ヵ国(ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、アイスランド)を対象にした「ミシュラン・ノルディックガイド」で三つ星を獲得しているレストラン。世界のガストロノミー界を牽引してきた北欧だけに星を獲得するのは非常に難しく、ノルウェーでは現在、「RE-NAA」と「Maaemo」(オスロ)の2軒だけが三つ星だというから、その実力は推して知るべし。
ウニ、帆立、ラングスティーヌなど北海で獲れる魚介をメインに、発酵や熟成、乾燥といった北欧に受け継がれる保存技術を駆使しながら、一皿ごとにこの土地の風土を表現していくシェフ、スヴェン・エリック・レナアの手腕はお見事。コースは20余品出てきましたが、小皿なので満腹になりすぎることもなく、ほどよいボリュームなのも小柄な日本人にとってはありがたいポイントでした。
●RE-NAA
https://www.restaurantrenaa.no/
3.地元にあったら毎週通いたいミシュラン一つ星レストラン
スタヴァンゲルには現在、「RE-NAA」の三つ星を筆頭に、あと3軒の一つ星レストランがあります。その一軒がこちらの「Hermetikken(エルミティッケン)」。料理もさることながら、ワインのセレクトとおもてなしが心地よ過ぎて、正直、毎晩ここで食べたかった(笑)。
横長の店内には大きなカウンターが設えられ、シェフの調理している姿を間近に眺めることができるのは、ちょっと日本の割烹に近いイメージ。若いサービススタッフのみなさんも気づけば一緒にテーブルについて話し込んでしまったり…。まるで東京の地元の町で飲んでいるかのようにくつろげました。外国で食事をして、これほどアウェイ感のない食体験は初めてだったかも。必ず再訪したい1軒です。
●Hermetikken(エルミティッケン)
hermetikken-restaurant.no/
4.大自然を味わう、フィヨルドクルーズ
滞在中、スティナが「ボートに乗りに行きましょう」と誘ってくれました。ホテルの目の前が海ですし、遊覧船に乗るのかな、と軽い気持ちで出かけたら、なんと本格的なヨット!
ノルウェーの特徴的な地形であるフィヨルドを体感できる90分ほどのクルーズはシャンパンつき(スティナ、私の好みをわかってる)!
フィヨルドとは……昔、地理の時間に習ったような気もするけど、うろ覚えでした。今回、改めて調べたところ、フィヨルドとは、氷河が長い年月をかけて大地を削り、その谷に海水が流れ込んでできた入り江のこと。こう書くと、日本のリアス式海岸とどう違うの?と気になりましたが、フィヨルドが氷河で削られたものに対し、リアス式海岸は雨水や川で削られたものなのだそうです。いずれにせよ、切り立った断崖を見られるのかと思いましたが、案外にも海はどこまでも穏やかで、驚くような断崖絶壁は見ることができませんでした。目の前のシャンパンに集中していたからかもしれません(笑)。
5.小さなお店に宿る、暮らしの美意識
スタヴァンゲルで見つけた5つのラグジュアリー、最後は小さなお店について。この街を歩いていると、スティナのように、これ見よがしではないものの、個性的なお洒落を楽しんでいる女性にたくさん会うことができました。そのひとりである「Hermetikken」のマネージャーのベストがかわいくて、どこで買えるの?と聞いて教えてもらったセレクトショップが「BAZAAR(バザール)」。イタリアをはじめヨーロッパ各地から選び抜かれた洋服は、流行に左右されることなく長く愛せるものばかり。どれも欲しかったのですが、何分円安のため、高くて手が出ませんでした。でも、まるでセンスのいい友人のクローゼットを訪ねたような気分で、とても刺激的な時間に。
また、散歩の途中で出くわしたファブリックデザイナーのアトリエもナチュラルなテイストで素敵でした。ちょっと素朴なヴィンテージ調のマリメッコ、みたいな。こんなお店が街に自然と溶け込んでいることも、スタヴァンゲルという街の豊かさなのでしょう。
●BAZAAR
https://www.bazaar-bazaar.no/
いま、年間で100日弱を旅空のもとで暮らす私ですが、世界にはまだまだ知らない場所があります。そして、一度訪れただけなのに「帰りたい」と思える街もあります。スタヴァンゲルは、私にとってそんなふるさとのひとつになりました。あの港町で出会った人たちの笑顔や穏やかな時間を思い出すだけで不思議と癒され、また頑張ろうという明日への力が湧いてきます。私にとって旅とは、思い出を増やすことではなく、自分をなぐさめ、励ましてくれる場所を世界中に見つけていく過程なのかもしれません。
取材協力:スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド
スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド(SLH)は、世界100カ国以上、700軒を超える独立系ラグジュアリーブティックホテルが加盟する、世界有数のホテルブランドのグループ。平均客室数約50室の小規模ホテルを中心に、その土地ならではの個性とおもてなしを提供しています。
スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド 予約センター(日本語対応)
フリーダイヤル:0066-33-813-074(祝日をのぞく月~金9:00~18:00)
URL:https://www.slh.com/

- TEXT :
- 秋山 都さん 文筆家・エディター
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- 秋山 都
- WRITING :
- 秋山 都

















