【目次】

【第34回のあらすじ】

信長の後継者争いに負け、市(宮崎あおいさん)と柴田勝家(山口馬木也さん)は北庄城の天守から身を投じて去りました。織田信雄(山脇達哉さん)と信孝(結木滉星さん)の兄弟争いは、補佐役に秀吉(池松壮亮さん)を置いた信雄に軍配が上がり、信孝は自刃で最期を迎え…。

第33回より。SNSでも大いに話題となった市(宮崎あおいさん)と柴田勝家(山口馬木也さん)の壮絶で切ない最期の場面。(C)NHK
第33回より。SNSでも大いに話題となった市(宮崎あおいさん)と柴田勝家(山口馬木也さん)の壮絶で切ない最期の場面。(C)NHK

織田家当主の右腕となった秀吉は戦後処理を独断で進め、豪勢な大坂城を築城。もはやいち家老ではないと諸国に知らしめている秀吉を、信雄はもちろん、あの男も苦々しく思っているのでした。

第34回のタイトルである「最強のライバル」とは…? そうです、グッと我慢に我慢を重ねてきたあの男、徳川家康(松下洸平さん)にほかなりません。駿河・遠江・三河を治めた東海道随一の大名・今川家と、織田家の間を行ったり来たりという不遇な幼少期・青年期を経て戦国時代終盤に台頭し、江戸に幕府を開いて戦乱の世を収め、260年以上も続く時代の幕を開けた家康です。この『豊臣兄弟!』でも、天下人となる秀吉の最強のライバルであることは間違いないでしょう。

家康の代理で大坂城に参上した家臣の石川数正(迫田孝也さん)が、主からの祝いの品だと進上した茶器を見たときの秀吉の喜びよう、ご覧になりましたか? これは、千利休以前に選定された、いわれが深く大変貴重な大名物(おおめいぶつ)と呼ばれる茶器のひとつ「初花」です。実際に信長が所有していたもので、本能寺の変で行方がわからなったのち、なぜか家康のもとにたどり着き、そして秀吉の手に…。

(C)NHK
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武将が所有する茶道具や調度品、美術品は権力や財力を誇示するもの。また茶室は密会の場となるなど、当時の茶の湯は戦国武将にとって政治と直結するものでした。秀吉もまた、大坂城築城以降、道具の蒐集はもちろん、史上最大の茶会を催したりして、茶の湯を天下人としてのパフォーマンスに大いに活用しました。

家康の重臣・数正に城内を披露することで、上杉や毛利が秀吉側であること、兵も武器も十分であること、「今のわしの力は絶大なのだ~」と、秀吉はぐいぐいアピールしたわけです。

東国の争いを解決するよう秀吉から指示され憤まんやる方なしの家康は、北条氏政(谷原章介さん)に「あんな下賤(げせん/秀吉のこと)の言いなりになるのか」と発破をかけられます。幼いころの今川での人質生活、生きるも死ぬもそのときの主の胸の内ひとつであること、妻や子どもを犠牲にしなければならなかったことなどの壮絶な過去の回想は、やられるのではなくやる側へと方向転換していく家康の胸の内を知るには十分でした。

秀吉は、大名物のお礼という名目で家康を茶会に招き、天下一統のために力を貸してほしい、そして家康の子を養子にと望みます。ここはまだ我慢だとパワーバランスを鑑みた家康、いったんは幼子を養子に出すことを承知しますが、やはりわが子に自分と同じ道は歩ませられないと変心。「もう誰にも従わぬ。あとは…この父がやる!」と決意するのです。ホトトギスが鳴くまでじっと待つタイプだった家康、いよいよ覚醒のとき!

さて、やんちゃというかぼんくらというか、とらえどころも愛すべきところも見つけにくい信長の次男、現当主の信雄。秀吉を快く思っていなかったところに家康にそそのかされ、秀吉との取次役だった重臣を殺害。秀吉から家康に寝返ったというわけです。

この徳川信雄は、父・信長や兄弟たちが志半ばで命を落とすなか73歳まで生きました。失策・失敗・失態をくり返してもなんのその、窮地に立つたびカメレオンのように立場を変え、しぶとく乱世を生き延び、織田家の血筋を次代へとしっかりつないだ、ある意味“名将”だといえましょう。

さぁ、いよいよ家康が秀吉に立ち向かうとき。夏生大湖さん演じる本田忠勝に加え、酒井忠次にお笑いタレントの天野ひろゆきさん、榊原康政にモデルでタレントの栗原類さん、井伊直政に俳優の阿久津仁愛さんと、「徳川四天王」と呼ばれた重臣も揃いました。

(C)NHK
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家康の積年の恨みつらみが一気に爆発、秀吉討伐へと向かうのです。


【薬草オタクだった家康は?名将が副業をもったら…】

■医学者か植物園経営者がぴったりの家康

膝に長丸(日影琉叶さん)を乗せ、ご機嫌な家康のシーンで始まった第34回。ふたりの目の前には12種類の薬草が並び、長丸がその名前と効能を言い当てます。家康が薬草マニアだったことは有名ですね。合戦の合間にも薬の専門書を愛読していたとか。松下洸平さんが演じている今回の家康は、まさにそういったオタク感満載です。

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江戸城本丸御殿の家康の自室には壁を埋め尽くすほどの薬箪笥(たんす)があり、そのひとつひとつにさまざまな生薬などが収められていたのだとか。将軍の座を秀忠に譲ったのち、駿府(現在の静岡県静岡市)に城を建てて隠居。そこで儒学者の林羅山(はやしらざん)から献上された中国・明時代の『本草綱目(ほんぞうこうもく)』などをもとに、本格的に薬草の研究を進めることになります。

駿府城には自慢の「御薬園(おやくえん)」があり、国内外から集めた薬草だけでなく、中国や東南アジア、ポルトガルやスペインなどから取り寄せた珍しい植物を栽培。駿府は気候が温暖で、薬草の栽培に適していたようです。こうして自ら栽培し、調合した生薬を家康は服用していました。

8代将軍吉宗の時代には、輸入に頼っていた高麗人参などの高価な生薬の国産化が進みます。その基礎となったのが、家康時代からの薬草栽培のノウハウ。薬草園は近代自然科学や薬学の礎として歴史的に大変重要な場所。家康の御薬園は、のちに江戸幕府や諸藩が設けた薬草園のルーツともいえるのです。

ちなみに…東京都文京区にある小石川植物園(東京大学大学院理学系研究科附属植物園)は、家康の薬草研究や駿府城での試みが幕府の事業へと引き継がれ、日本最古の近代植物園へと発展した歴史的施設なんですよ。

■信長はスタートアップ投資家やセレクトショップオーナー?

規制緩和や関所の廃止、兵農分離など、既成概念を覆して社会の構造改革を連発した信長。革新的なアイデアをもつ事業に資金と特権を与え、人材を育て上げる才能に長けていました。

また、南蛮渡来の地球儀や時計、マントなどをいち早く取り入れ、自ら着こなすセンスも。『豊臣兄弟!』でも、そのファッションセンスが衣装に投影されていましたね。海外の最先端トレンドを見抜いて買い付け、日本に広める才能も抜群。

そんな信長が現代で副業するなら、スタートアップを試みる若者への投資や、セレクトショップのオーナーといったところでしょうか。

■人を引き付ける魅力に長けた秀吉はコンサル業?

ひと晩で建てたとされる“一夜城”の演出や、北野大茶湯で「身分不問、誰でも参加OK!」と告知してバズらせるなど、民衆の心理をつかむマーケティング施策の天才だった秀吉。金箔を貼り巡らせた組み立て式の黄金の茶室や、醍醐の花見でのドレスコード指定など、豪華絢爛で映える空間演出や仕掛けなら右に出る者はいません。

また、「人たらし」としても知られる秀吉。敵方でさえ言葉巧みに次々と調略(ヘッドハンティング)しました。相手の欲望や心理を読み取り、言葉巧みに時には強引に手中に収める交渉術のプロでもあります。さらに、農民から天下人まで上り詰めたように、自己プロデュースにも長けていました。

今ならイベントプロデューサーや人材コンサルタントなどが向きそうです。


【次回『豊臣兄弟!』第35回「秀長誕生」のあらすじ】

家康(松下洸平さん)の後ろ盾を得て信雄(山脇辰哉さん)が挙兵。小牧山城に籠城する徳川軍に対し、織田家重臣の新井恒興(堀井新太さん)は敢えて徳川の拠点である岡崎を攻め、城から家康をおびき出す策を提案する。かつて宮部家の養子となった、とも(宮澤エマさん)の子・三好信吉(山田涼介さん)が作戦の大将となるが、徳川軍の奇襲で羽柴軍は大敗。戦が各地に広がり膠着状態に陥るなか、小一郎(仲野太賀さん)は丹羽長秀(池田鉄洋さん)のある言葉をきっかけに、現状打破の糸口を見つける。

 

※『豊臣兄弟!』第34回「最強のライバル」のNHK ONE配信期間は2026年9月13日(日)午後8:44までです。

※宮崎あおいさんの【崎】は「たつさき」が正式表記です。

この記事の執筆者
美しいものこそ贅沢。新しい時代のラグジュアリー・ファッションマガジン『Precious』の編集部アカウントです。雑誌制作の過程で見つけた美しいもの、楽しいことをご紹介します。
WRITING :
小竹智子
参考資料: 『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟! 後編』(NHK出版)/『大河ドラマ「豊臣兄弟!」完全読本』(産経新聞出版)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/『戦国武将の解剖図巻』(エクスナレッジ)/『日本史の“なぜ 有名人の意外な“真相”』(ごま書房新社) :