白い壁に囲まれたコートで、ラケットを手にした2名のプレイヤーがボールを軽快に打ち返す「スカッシュ」。残念ながら採用には至りませんでしたが、2020年東京オリンピックの追加競技として、レスリングや野球・ソフトボールと並び最終候補に残ったことを記憶している方も多いかもしれません。
室内で行うスカッシュは、天候や季節に左右されずにいつでも楽しめます。短時間で汗を流せ、上級者になるにつれて頭脳を使うスポーツなので、Googleなどの大企業ではオフィス内にコートを設置している例もあるそう。
最近では、そんなスカッシュを「自宅で楽しみたい!」と別荘や自宅にスカッシュコートを造る人もいるのだとか。
そこで今回は、国内でスカッシュコート施工を手がけ、スカッシュスタジアムやスクールを展開するJSM株式会社の代表取締役・小林昌也さんに「スカッシュ」について徹底取材。JSMの提携先である総合スポーツクラブ「スパ白金」で実際にスカッシュコートを見せていただきながら、そのルールや歴史、そしてコート設置にかかる費用を伺いました。
初心者でも楽しめる! スカッシュって、どんなスポーツ?
スカッシュコートに足を踏み入れると「スパーン!」と気持ちよく抜けるようなが響き渡ります。ボールが壁に当たった音が大きく反響しているそう。
「『スカッシュ(Squash)』は英語で『押しつぶす・潰れる』という意味が語源です。体を動かしたり、見たりして楽しむだけでなく、このボールの音を聞いて楽しむスポーツでもあります。ボールを叩く大きな音が、プレー中の爽快感を増すんです」(小林さん)
小林さんによると、リフレッシュやストレス発散に楽しむ方もいるというスカッシュ。どのようなスポーツなのか、まずは基本的なルールを伺いました。
ルールはシンプル!2バウンド前に正面の壁へ打ち返す
スカッシュは、4面を壁で囲まれたコートで2名(ダブルスは4名)のプレイヤーが交互にボールを打ち合うラケットスポーツです。その特徴は、ネットを挟まず正面の壁に向かってボールを打ち込むこと。正面の壁に当たって返ってきたボールが2バウンドする前に打ち返します。
コートの壁には規定のラインが入っており、その範囲内であればどこに当てても構いません。必ず正面の壁に当たれば、その前後に横や後ろの壁に当たってもいいそう。
「プロの試合だと、この横の壁をうまく使っていろいろな球を生み出します。そうやって頭を使って相手の意表をつくことでも勝負を左右するスポーツなんです。単純に『体力勝負』ではないこと、やればやるほど新たな戦略が生まれること。そこが、スカッシュが『知的』とも言われるポイントのひとつです」(小林さん)
使用するのはゴルフボールぐらいの黒いゴム製のボールと、スカッシュ専用のラケット。専用の道具はこのふたつのみです。
ラケットは、面の部分が独特の細長い形をしています。長さは約68cm、重さは110g〜130gが主流です。テニスラケットとバトミントンラケットの中間程度と比較的軽いので、女性や子どもでも扱いやすいのだそうです。
下は小学生から上は70代後半まで。男女混合でも楽しめる
スカッシュはプロの試合ともなるとその運動量が「テニスの2倍」といわれることもあります。しかし、小林さんいわく一般の方にとってはコートがコンパクトで、むしろ楽なのだとか。
「スカッシュは、コートの外を走り回るテニスと異なり、動く範囲はコート内のみです。周囲が壁なので、ボールがどこか遠くに飛んでいってしまうということもありません。ラケットもテニスラケットより軽く、それほど力がなくても扱えます。無理なく楽しめるスポーツですよ」(小林さん)
小林さんによると、下は小学生から上は70代後半まで、幅広い人がスカッシュコートに通っているそう。また、男女の体力差が出にくいスポーツでもあるので、男女混合で楽しむ方も多いのだそうです。取材時も、スポーツクラブでは男女混合で打ち合う姿が見られました。
スカッシュコートはどんなところに設置されている?
では、スカッシュは一体どこで楽しめるのでしょうか。実際にスカッシュコートを導入している事例を伺いました。
高級住宅街のスポーツクラブや高級マンション
最も設置が多いのは、やはりスポーツクラブ。特に、白金や麻布などの高級住宅街や、横浜など外国文化に馴染み深い地域にある施設の導入実績が多いそうです。
「日本国内でも、ジムやプールのあるホテルは多いですよね。海外では、さらにスカッシュコートを用意した施設が多いです。それほど親しまれているので、海外生活が長い方やよく海外に出張される方のなかには、日本でもプレーしたいとスカッシュコートのあるスポーツクラブにいらっしゃる方も多いんです。
また、高級マンションでも設置しているところがあります。コートのあるマンションは、外国人滞在者向けに造られたところが多いです」(小林さん)
また、日本国内でも一部のホテルにはごく稀にスカッシュコートを設置しているところがあるそうです。
「以前、スカッシュコートがある北海道の外資系ホテルに、JSM会員対象イベントとしてスカッシュをプレーするための旅行を企画したことがあります。ホテル側は天候によってスキーができない代わりにスカッシュで遊ぶことを想定してコートをつけたそうで『まさか、スカッシュのためだけに北海道まで遊びに来る方がいるとは思わなかった』と驚いていました(笑)」(小林さん)
個人の設置、住宅や別荘への導入事例も
さらに、小林さんによると個人宅での導入事例もあるのだそう。
「スポーツクラブだとコートの数に限りがあるので、スカッシュを楽しむにもどうしても時間制限があります。そこで『いつでも自分がやりたいときにスカッシュをしたい、練習したい』という方から設置の依頼をいただくことが多いです。個人での導入が多いのは、別荘ですね」(小林さん)
別荘では、コートを1・2階吹き抜けにし、2階から観戦できるようにすることも多いそうです。
また、一般の住宅街の新築物件にスカッシュコートを導入した珍しい事例もあるそう。最近では、間取り上はスカッシュコート部分を「リビング」とし、スカッシュをしない時は実際にリビングとして活用している導入事例もあったそうです。
「スカッシュコートは、フローリングの床に何も置いていない空間なので、スカッシュをする以外にもさまざまに活用される方がいます。例えば、白い壁にプロジェクターを投写してホームシアターにされる方もいますね」(小林さん)
スカッシュコートの設置費用はいくら?
約800万円で設置可能!その後のお手入れはほとんど不要
まず、コートを設置するために満たすべき条件はなんでしょうか?
「大前提として、コートを設置する十分な大きさがあることです。床の面積が、横6m40cm、縦9m75cm。ファミリー向けマンションに例えれば、2LDKくらいの広さのイメージでしょうか。コートの外は人が出入りできればいいだけなので、周囲にはそれほどスペースは必要ありません。但し、高さは6m近く必要なので、その点が一番難しいかもしれませんね」(小林さん)
小林さんによると、この広さが確保された倉庫などのスペースがあれば、公式サイズのコートは約800万円で設置できるそう。
「費用の800万円には、三方の壁と床、後方のガラスの材料費と工事費を含みます。もし新たに空調や照明を入れるとなれば、別途その工事費がかかります。既にある建物の空間に設置するのではなく、建物から建てるとなると、この2.5倍程度はかかってくるでしょう」(小林さん)
特殊な照明や設備をつける必要がないなら、施工期間は1か月程度とのこと。さらに、その後のメンテナンスはほとんど不要なのだそう。
「ゴムボールが壁に当たった際の跡を落とすくらいでしょうか。跡が気にならなければ、特に何もする必要はありません。床は体育館やジムと同じ板張りで、特別なメンテナンスは不要です。天井の電気もLEDなので数年は変えなくていい。管理は楽です。唯一あるとすれば、別荘などの場合は壁がカビたりしないよう、風通しに気を配るといいですね」(小林さん)
イギリス生まれの「コミュニケーションスポーツ」、ゲームを通して深まるプレイヤー同士の交流
別荘や自宅にコートを導入する人がいるほど、プレーした人を虜にするスカッシュ。どのように日本に広まり、コアファンを惹きつけているのでしょうか?
発祥はイギリス。日本のスカッシュコート第一号は英国大使館
スカッシュは19世紀のイギリス・ロンドンで始まったスポーツ。そこから世界各国に広まっていきました。現在では185か国で約2,000万人がプレーしているといわれています。
イギリス発祥のスポーツということもあり、日本で最初にスカッシュコートができた施設はイギリス大使館なのだそう。
「昭和2年(1927年)に、イギリス大使館にスカッシュ専用コートが造られたのが日本のスカッシュの始まりです。現在ではこのコートは老朽化して使われていないそうですが、カナダやオーストラリア、スウェーデンなど他の大使館にもスカッシュコートがあります。大使同士でゲームをしているそうですよ」(小林さん)
バブル期、ゲーム感覚で楽しめるスポーツとして拡大
日本で一般にスカッシュが広まり出したのは、昭和〜平成初頭。いわゆるバブル期に当たります。
「特にバブル期に、一気にスポーツクラブが増えました。そのときに、スカッシュのコートも設置されました。スポーツクラブでできる運動は、ジムや水泳などのトレーニング重視のスポーツが多く、ゲームを遊んで楽しむタイプのスポーツは少なかったんです。そこでスカッシュが注目されました」(小林さん)
しかし、バブルの崩壊と同時にコートの数は減少していきます。
「スカッシュだと1度にふたりしか入れないスペースでも、ヨガやダンススタジオにすれば10人程度入れます。もとはインドアでしっかり体を動かし、ゲームと交流を楽しめるスポーツとして広がったスカッシュでしたが、収容人数の効率性の観点から、スカッシュコートを廃止するところが増えました」(小林さん)
「コミュニケーションスポーツ」として再注目
そんなスカッシュが、近年また注目されつつあります。
「アメリカドラマや韓流ドラマの広がりで、スカッシュをプレーするシーンを目にすることが増えたのもひとつかもしれません。実は先進国のなかでは、日本が最もスカッシュの普及が遅れています。同じアジアでも韓国では盛んで、韓流ドラマで見たのをきっかけにスカッシュを始める女性もいます」(小林さん)
日本国内のテレビドラマでも、『ガリレオ』(フジテレビ系列・2007年)や『猟奇的な彼女』(TBS系列・2008年)でスカッシュをプレーするシーンが登場し、話題になりました。
また、スカッシュは必ず2名以上で楽しむゲームであることも、近年注目のポイントなのだそう。
「人が多すぎると、逆にコミュニケーションが生まれないこともありますよね。スカッシュは、必ず相手がいて一緒にゲームするので、コミュニケーションが生まれやすいんです。1ゲーム10分程度から楽しめるので、スポーツクラブに来れば複数人と打ち合ってみることもできます。
また、スカッシュをする方は、運動をゲームとして人と楽しみたい・あまりトレーニングを好まない方が多いんです。そのため、スポーツクラブに来るときは必ずスカッシュをするというコアファンが多い。だから、コートで会う人たちと自然と親しくなりやすいんです」(小林さん)
コートに対して待っている人が多いときは、互いに声を掛け合って、6人で順番に回りながらラリーを打つゲームを楽しむ場面も見られるといいます。そんな交流から、素敵な出会いが生まれることもあるそう。
「実は、スカッシュを通した出会いがきっかけでパートナーになる『スカッシュ婚』も多いんですよ」(小林さん)
手軽だけど、奥が深い!スカッシュの魅力とは?
最後に、スカッシュの魅力を小林さんに伺いました。
「まず、短時間で手軽に楽しめること。人と一緒にゲーム感覚で楽しめること。そして、技術的に奥が深いこと。この3拍子だと思っています。
時間や費用、体力や技術の面すべてでスカッシュのように手軽に楽しめるスポーツはなかなかないと思うんです。特に、室内スポーツなので天候や季節に左右されず紫外線も気にしなくていい点、汚れにくい点は女性にもうれしいポイントだと思います。
そして、手軽なのに奥が深い。いかに壁を使うか、どんなスピンをかけるか。やればやるほど『これで終わり』がありません。上手な人ほどコート内であまり動かず相手を動かします。なので、知恵と経験を使った高齢の方が、体力のある大学生に勝つ、他のスポーツではなかなか見られないゲーム展開も生まれるんですよ」(小林さん)
取材時には「本日、初体験です」という50代の男性が、ほんの10〜15分でコーチとラリーができるようになっている様子も見られました。とても楽しそうにコーチと打ち合っている様子からも、スカッシュの始めやすさを感じられました。
夢中になったら、別荘や自宅にコートを設置することもできてメンテナンスも手軽なスカッシュ。まずは、ちょっとした空き時間に「スパーン」という気持ちのいい音を体感しにスカッシュを始めてみませんか? これまでにはなかった仲間との出会いも、待っているかもしれませんよ。
問い合わせ先
- ジェイ・エス・エム(スカッシュコート設置のお問い合わせ)
- TEL:03-6300-7757
- Mail:jsm@sea.plala.or.jp
- スパ白金(スカッシュコート利用のお問い合わせ)
- 営業時間/10:00〜22:30(火〜土)、9:00〜20:30(日・祝)
- 休館日/月曜 ※月曜が祝日の場合は営業
- TEL:03-3444-6372(スカッシュ・ラケットボール専用)
- 住所/東京都港区白金台1-1-18
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- COOPERATION :
- スパ白金
- EDIT&WRITING :
- 廣瀬 翼(東京通信社)