藤尾康浩シェフも登場したFood & Art シェフズ・ディナー

この夜のシェフズ・ディナーには100名を超える美食家たちがフィンランド中から訪れた。全部で7皿、全てワインペアリング付きで4時間たっぷりのスペシャル・コースだ。

最終日に行われたディナーはこのような感じだった。まずはFood & Artのメインシェフ、Pekka Terävä/ペッカ・テラヴァが作る7皿のワイン・ペアリング・ディナー"Wine O'Clock" ₡498+VAT24%。それと、森の中にあるバンガロー風の一軒家で行われたのはPaul Svenson/ポール・ズヴェンソンによるモダン・スカンジナビアのコースはなんと11 皿で₡298+VAT24%。そしてパヴィリオンのメイン会場で行われたのがサン・ペレグリノ・ヤングシェフ5人とボキューズドール・フィンランド代表チームによるシェフズ・メニュー7皿、ワイン・ペアリング付き₡398+VAT24%だ。今回参加した、そのシェフズ・メニューから、いくつか印象に残った料理を紹介しよう。

“OSPRIADA” salad with sprouts, almond, wheat, mustard leaves and watercress/Constandina Voulgari(GREECE

まず最初の冷たい前菜はペレグリノ・ヤングシェフから選ばれたギリシャの女性シェフConstandina Voulgari コスタンディーナ・ヴールガリの"OSPIRADA"オスピラーダ。これは彼女が働くクレタ島の女子修道院に古くかわ伝わる伝統料理をアレンジしたもので細かく砕いたアーモンドやスペルト小麦などのシリアルとマスタード・リーフ、クレソンなど香りの強いスプラウトをあわせた、地中海というより中近東を思わせるスパイシーでありながら、かつ動物性脂肪を一切使わないギリシャ的精進料理。

White fish carpaccio with green pesto / Ruslan Evstigneev(RUSSIA)

続く2番目の冷たい前菜はペレグリノ・ヤングシェフ・ロシア代表RuslanEvstigneev/ルスラン・エヴスティグネフの「ホワイトフィッシュとグリーン・ペスト」。ホワイト・フィッシュはイタリアではコリゴーネと呼ばれる高地型淡水魚でヨーロッパと北米のみに生息している淡白な白身魚。この薄切りにブロッコリ、ニンニク、バジリコ、オリーブオイルで作るペストをあわせた見目麗しく、かつ冷たく研ぎ澄まされた鋭利な料理だった。

Raw shrimps and broad bean tempura with Japanese somen, shrimp dashi / YASUHIRO FUJIO(JAPAN)

続いて登場した3番目の冷前菜が2018年度サン・ペレグリノ・ヤングシェフ優勝者、藤尾康浩の料理だが、夏の日本食ということでフィンランド旬の食材であるそら豆と海老をフリットにし、紫蘇を練りこんだ素麺とあわせた「天ぷら素麺」。これに日本から持ち込んだ昆布と干しエビで出しをとり、とかくディルやタラゴンなど北欧でよく使われるハーブではなく、日本の穂紫蘇をトッピング。日本とフィンランドの夏を融合させた料理だった。

Grilled potatoes, onions and brown butter / Anton Husa(SWEEDEN)

サン・ペレグリノ・ヤングシェフ、スカンジナビア地区代表Anton Husa/アントン・フサが作ったのは、ジャガイモ、ニンニク、ブラウン・バターを使ったシンプルかつ味わい深い料理。ジャガイモの皮を薄焼きチャルダにして滑らかなマッシュ・ポテトとバタークリームをトッピング。スカンジナビア人が喜ぶ旬の食材「夏ジャガイモ」がメイン食材だ。

Halibut with maltbread and tarragon, smoked cauliflower/Kalle Tanner(FINLAND)

続く魚料理は2018年度フィンランド最優秀シェフに選ばれたKalle Tanner カッレ・タンナーが準備した北海産の大平目ハリバット。これを胚芽入りのモルトブレッドで包んで揚げ、いくら、キャビア、生数の子を加えたタラゴン・バター・ソースをシェフ自らがサーブしてくれた。北海の地味を組み合わせた日本人にはどことなく郷愁を覚える料理で、この夜のベスト。

Raspberry sorbet, yogurt and beetroot mousse / Elizabeth Landeo(PERU)

最後のデザートは、北欧の夏といえば忘れることのできない食材ラズベリーを使ったソルベ。これにヨーグルトムースとビーツの真紅のムース、そしてアマゾン産カカオの苦味で味を整えたが、カカオの苦味とテクスチャーは、ソルベやムースとは違和感があったのは否めない。それでも北欧の去りゆく夏をラズベリーとともに締めくくる、というのはノスタルジックな演出だった。

ホスト役を務めたフィンランドを代表するシェフ、ペッカ・テラヴァ(左端)も一仕事終えてほっと一息。また来年、フィンランドには世界中からトップシェフが集まるはずだ。

そしてグランフィナーレ。この夜も3ケ所同時に行われたテーマ・ディナーが終了し、ステージ上には全参加シェフと主催者であるRiika Kannas/リッカ・カンナスの姿があった。それにしても驚くべきはこの小都市Mänttä マンッタに集まる人々の多さだ。

恰幅良い紳士淑女がドレスアップして森の中の美術館に続々と集まる光景は、普段のマンッタを知る人には想像ができないだろう。街にはホテルもわずか数件で、お世辞にもアクセスしやすい場所とはいえない。しかし、この機会を逃さんと集まる美食家、健啖家、愛好家たちの姿を見ていると、フィンランド・ガストロノミーの未来は明るいように思える。

生真面目で几帳面で時間に性格、ラテンにくらべると寡黙で沈着冷静と、どこか日本人に相通じるところがあるフィンランド人だが、こと食を楽しむことにかけては他のどの国も負けてはいない。

今年の夏、マンッタに集った多くのシェフたちの中からフィンランド史上初の2つ星、3つ星シェフが誕生するのもそう遠くない気がする。そうした未来のトップシェフたちの現在地を知る意味でも非常に貴重かつ意味のあるFood & Artだが、今年日本人で参加したのはわたしと藤尾康浩のみだった。

フィンランドは日本からもっとも近いヨーロッパであるだけに、来年以降は北欧ガストロノミーに関心ある多くの日本人が訪れてくれたら、と切に願う。イベント詳細は以下の公式サイトから。

www.foodandart.fi/

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この記事の執筆者
1998年よりフィレンツェ在住、イタリア国立ジャーナリスト協会会員。旅、料理、ワインの取材、撮影を多く手がけ「シチリア美食の王国へ」「ローマ美食散歩」「フィレンツェ美食散歩」など著書多数。イタリアで行われた「ジロトンノ」「クスクスフェスタ」などの国際イタリア料理コンテストで日本人として初めて審査員を務める。2017年5月、日本におけるイタリア食文化発展に貢献した「レポーター・デル・グスト賞」受賞。イタリアを味わうWEBマガジン「サポリタ」主宰。2017年11月には最新刊「世界一のレストラン、オステリア・フランチェスカーナ」刊行予定。