ヨーロッパの「文化遺産の日」を知っていますか?

ヨーロッパでは毎年9月の第3週に「文化遺産の日」として、歴史的価値のある建築物、アトリエなどが公開されます。フランス発祥で、今や20か国以上のヨーロッパの国々が参加していますが、やはりフランスが最も盛んです。

ケリング本社で開催されたエキシビション

オフィスには見えないケリング(グッチ、サンローラン、バレンシアガなどを擁する企業体)の本社は、17世紀に創設されたラエネック病院を改築した建物です。歴史的建造物に指定されている部分は勝手に変えることは禁じられていますので外観はクラシックな石造りですが、内側はモダンなオフィスとなっています。

フランスはキリスト教の国ですので病院にはいつも礼拝堂があるのですが、この旧ラエネック病院の敷地内にも礼拝堂が現存しており、厳かな雰囲気を持つアート作品の展示会場として利用されてきました。

石造りの古い病院の入り口
ケリング本社の入り口。ラエネック病院と刻まれています。百貨店ル・ボン・マルシェのほぼ隣です
青空とチャペルの外観
中央のチャペルでアート作品を展示しました。両脇はオフィスです
草木が生い茂る中庭
かつて傷病人を癒した庭は緑でいっぱいで気持ちがいいです
モノクロ写真での建造物の写真
17世紀ごろのラエネック病院。基本的な建造物は変わっていません

アートの庇護者ピノー氏の貴重なコレクション

ケリング会長兼CEOである、フランソワ=アンリ・ピノー氏は世界有数の現代アートコレクター。2019年末には、パリの元証券取引場を美術館として開館します。その建築を任されているのが日本人建築家の安藤忠雄氏です。

今回、フランス政府からの依頼によるケリングが保存の支援をした国宝級の「エロイーズとアベラールの聖遺物箱」を初公開。その他に、ピノー氏が有するピノー・コレクションからカミーユ・アンロ、ダミアン・ハーストらの作品、さらに、バレンシアガの1960年代のオートクチュールショーで撮影された未公開のアーカイブフィルムが披露されました。

刺激的な作品で私たちを驚かせるダミアン・ハーストの『Jacob's Ladder』(2008)
刺激的な作品で私たちを驚かせるダミアン・ハーストの『Jacob's Ladder』(2008)
聖職者の使用する道具や書物
これが、国宝級の聖遺物箱!

エロイーズとアベラールは12世紀の伝説的な恋人たちです。エロイーズは当時最も教養のある女性のひとりで、アベラールは彼女の教師であり、聖職者、神学者としても名を馳せていました。激しい恋に落ちたふたりでしたが、引き離され、しかもアベラールは去勢され(!)、修道女と修道士になります。離れ離れになってもふたりは書簡を交わしましたが、この聖遺物の箱に入っているのがその書簡だそうです。

エロイーズは熱烈な愛情で書簡をしたため(会えないからこそ燃え上がったのかもしれませんけど)、その率直さは現代の私たちですらちょっと引いてしまうほど。しかし、実在の人物だったんですね! 私はてっきり小説の中のお話なのかと思っていました。

エロイーズとアベラールの聖遺物箱は、ケリングの援助のおかげで、今年、エコール・デ・ボザール(国立高等美術学校)コレクションの仲間入りを果たすそうです。

礼拝堂に配置された現代アート作品
独特の雰囲気を持つ礼拝堂で展示されたアート作品

クリストバル・バレンシアガによるオートクチュールの動画が初公開

また、聖遺物箱と同時に、メゾン・バレンシアガ展として1960年から1968年までに制作されたフィルムの一部も公開されました。クリストバル・バレンシアガ本人によるオートクチュール・コレクションの際、ジョルジュ・サンク通り10番地の「バレンシアガ」のクチュール・サロンで撮影されたものだそうです。当時、オートクチュール・コレクションショーをメゾンが撮影することはなく、また、テレビカメラの入場は禁じられていたため、これらの映像は特別な価値があります。

廊下に一列に配置された液晶画面
エレガントの極みと言える「バレンシアガ」のオートクチュールの映像

稀有な素晴らしい文化に触れられるこの日。国家のみならず、民間の企業も快く協力してアートを庇護するとは、さすが、世界随一の文化大国フランスと言わざるを得ませんね。来年は何が見られるのか、楽しみです。

この記事の執筆者
某女性誌編集者を経て2003年に渡仏。東京とパリを行き来しながら、食、旅、デザイン、モード、ビューティなどの広い分野を手掛ける。趣味は“料理”と“健康”と“ワイン”。2013年南仏プロヴァンスのシャンブル・ドットのインテリアと暮らし方を取り上げた『憧れのプロヴァンス流インテリアスタイル』(講談社刊)の著者として、2016年から年1回、英語版東京シティガイドブック『Tokyo Now』(igrecca inc.刊)を主幹として上梓。
WRITING :
安田薫子