今を生きる素敵な女性たちに寄り添うエルメスの名品。彼女たちの愛用品を通してその魅力を探る、雑誌『Precious(プレシャス)』の連載「The Story Of Hermès Women」。

最終回を飾るのは、ニュースキャスターの雨宮塔子さん。長いパリ生活でいつしか集まったブレスレットを巡るお話から、雨宮さんのぶれのないセンスが感じられます。

「好きだから身につける。そんなパリマダムの潔さに憧れて」

雨宮さんの手元にシャープな煌きらめきを添えているシルバーバングルはエルメスの名品『コリエ・ド・シアン』。重ねづけするより、存在感のあるものをひとつ。そんなシンプルさが彼女らしい。
雨宮さんの手元にシャープな煌きらめきを添えているシルバーバングルはエルメスの名品『コリエ・ド・シアン』。重ねづけするより、存在感のあるものをひとつ。そんなシンプルさが彼女らしい。

流行にとらわれない、ぶれのないスタイルは成熟の証

一昨年、パリから帰国して17年ぶりにTBSのレギュラー番組に復帰、『NEWS23』でキャスターを務める雨宮塔子さん。人気料理番組『チューボーですよ!』の初代アシスタントに抜擢されたのは、入社2年目のころ。まだ女子大生の面影が残る愛らしさだった。

そして30代から40代半ばという大人の女性として成熟していく年代をパリで過ごし、とてもいい年齢の重ね方をしてきたことが今、テレビ画面からも伝わってくる。

一昨年、フランス大統領選の際、フランス語の資料をもとにまとめたノート。愛用のエルメスの手帳カバーとレザーブレスレット『ケリー』ドゥブルトゥール。すべて私物。
一昨年、フランス大統領選の際、フランス語の資料をもとにまとめたノート。愛用のエルメスの手帳カバーとレザーブレスレット『ケリー』ドゥブルトゥール。すべて私物。

今回、彼女が見せてくれたのは、エルメスのレザーとシルバーのブレスレット。ネックレスやリングよりも、手首にアクセントをおくという雨宮さんが、毎日のように身につけているものだ。

「ブレスレットは、浮気することなくエルメスなのです。初めてのお給料で買ったのも、エルメスのシルバーチェーンの『シェーヌ・ダンクル』でした」

そのころから一貫して好きなものが変わらない。今でも20代のころに買ったものを使うことがよくあるという。

ブレスレットの多くは、パリのフォーブル・サントノーレのエルメスで買ったものだが、なかには『コリエ・ド・シアン』のシルバーバングルのように、オークションハウスの「オテル ドゥルオー」で競り落とした、思い出深いアンティークもある。

「実は一度お直しに出したことがあるんです。直営店で購入したものではないので気後れしたのですが、快く引き受けてくださった懐の深さに感激しました。職人さんの手仕事に誇りをもち、またアフターケアまで責任を取るメゾンの姿勢もあるのでしょうが、メンテナンスしながら長くエルメスを愛する人には、とことん優しいのです。だれかが使っていたものに、職人さんの手が加わることによって、また新たな息吹が吹き込まれたように感じて、ますます愛着がわきました」

そんなふうに、20代のころから好きなものを少しずつ集めている雨宮さん。そのぶれのないセンスは、見ていて潔いほどだ。

「エルメスは自分の思い描く女性像に導いてくれる」

モードなエッセンスの効いた黒のスーツを、すっきりと着こなして仕事に向かう雨宮さん。手にした『バーキン』も長く愛用しているもの。手元にはお気に入りのブレスレットのひとつ『コリエ・ド・シアン』が。すべて私物。
モードなエッセンスの効いた黒のスーツを、すっきりと着こなして仕事に向かう雨宮さん。手にした『バーキン』も長く愛用しているもの。手元にはお気に入りのブレスレットのひとつ『コリエ・ド・シアン』が。すべて私物。

17年にわたるパリ暮らしでは、洗練された女性たちとのたくさんの出会いがあり、瞼に焼きつくほど素敵なシーンに遭遇したことも少なくないという。それでも「私らしくない」と感じれば、欲しいと思わない。そんな彼女にとってエルメスのブレスレットだけは特別な存在なのだ。

「時を経ても違和感なく身につけられて、意志の強い、凛とした大人の女性へと導いてくれる気がするのです。幼いころから頑固なまでに好きなものが決まっていて、そこから逸脱しない…。最近その傾向がより強くなってきました(笑)」

自嘲気味に語る雨宮さんだが、それこそが、パリの女性たちに象徴されるスタイルそのものではないだろうか。エッセイストでもある雨宮さんは自著のなかで、パリで暮らす大人の女性たちに、つねに温かく優しい視線を向けてきた。彼女たちのドラマティックな生き方や、ひとつひとつの選択をつぶさに観察することで、雨宮さん自身も、しなやかに生きる強さを身につけたのだろう。

「彼女たちは、媚びのない自分らしさを大切にしていました。流行(はや)っているから、彼が好きだから…という理由ではなくて、自分が好きだから選ぶのです」

そんなおしゃれが楽しめるパリでは、変わらぬ好みも、自分らしい装いも、思う存分極められたに違いない。雨宮さんがエルメスを愛し、エルメスが似合う女性であるのも、そのスタイルにしなやかな生き方が表れているからなのだ。

上は『エトリヴィエール』、下ふたつは「犬の首輪」を意味する『コリエ・ド・シアン』。エルメスの顧客が愛犬につける首輪を注文したことから生まれたもので、その後、ウエストベルトやレザーブレスレットへと進化した。エルメスを象徴し、今も愛され続ける永遠のモチーフ。すべて私物。
上は『エトリヴィエール』、下ふたつは「犬の首輪」を意味する『コリエ・ド・シアン』。エルメスの顧客が愛犬につける首輪を注文したことから生まれたもので、その後、ウエストベルトやレザーブレスレットへと進化した。エルメスを象徴し、今も愛され続ける永遠のモチーフ。すべて私物。

「力強いのに上品。シンプルなのに華やか。年齢を重ねてもずっと身につけていきたい」

雨宮塔子さん
キャスター・エッセイスト
1970年、東京生まれ。1993年東京放送(現TBS)に入社。『どうぶつ奇想天外!』『チューボーですよ!』の初代アシスタントを務めるほか、情報番組、ラジオ番組でも活躍。1999年に退社してフランス・パリに渡り、西洋美術史を学ぶ。フランス滞在中にはエッセイも多数執筆。2016年7月より『NEWS23』(TBS)のキャスターとしてレギュラー番組に復帰。拠点を東京に移す。最新刊は『パリに住むこと、生きること』(文藝春秋刊)

※この特集で使用した商品はすべて私物です。

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「The Story Of Hermès Women」連載一覧

PHOTO :
浅井佳代子
HAIR MAKE :
jiro for kilico.(ヘア) 、鈴木ナオ(eight peace/メイク)
EDIT&WRITING :
藤田由美・遠藤智子(Precious)
RECONSTRUCT :
安念美和子