今を生きる素敵な女性とともに、エルメスの本質的な魅力を探る、雑誌『Precious(プレシャス)』の連載「The Story Of Hermès Women」。

3回目となる今月は、デビュー25周年を迎えたギタリストの村治佳織さんが、この春、40歳のお祝いに大切な方から贈られたシルクスカーフ「カレ」にまつわるストーリーです。

「夢のある一枚の絵が、幸福な40代への扉を開く」

村治佳織さんの髪をふんわりと束ねるのはエルメス「カレ」の今年の春夏の柄、《おしゃべりな鳥たちの家》。村治さんが奏でるギターの音色とともに楽しげな鳥たちの歌声が聴こえてくるよう…。
村治佳織さんの髪をふんわりと束ねるのはエルメス「カレ」の今年の春夏の柄、《おしゃべりな鳥たちの家》。村治さんが奏でるギターの音色とともに楽しげな鳥たちの歌声が聴こえてくるよう…。

人生の節目にはいつもエルメスが寄り添うという喜び

今年の4月で40歳になったギタリストの村治佳織さん。10代前半で数々のコンクールの最優秀賞に輝き、15歳でプロデビューしてから、ギタリストとしても25周年という大きな節目の年を迎えた。

誕生日当日、村治さんは自ら企画して大切な人を食事に招いた。女優の吉永小百合さんと岡田太郎さんご夫妻である。そのとき、お祝いに贈られたのがエルメスのシルクスカーフ「カレ」だった。

村治さんが誕生日に贈られた「カレ」《おしゃべりな鳥たちの家》。中央には花瓶を象ってコラージュした譜面の上に、陶器の模様が軽快なタッチで描かれて、今にも音符が踊りだしそうな陽気さが…。
村治さんが誕生日に贈られた「カレ」《おしゃべりな鳥たちの家》。中央には花瓶を象ってコラージュした譜面の上に、陶器の模様が軽快なタッチで描かれて、今にも音符が踊りだしそうな陽気さが…。

「来てくださっただけでもありがたいのに、岡田さんがいくつもの店舗を回って、私のために、探し出してくださったものだと知り、感激しました」

フランス語で正方形を意味する「カレ」の艶やかなシルク地に描かれる絵には、一枚一枚、物語がある。《おしゃべりな鳥たちの家》と名付けられた村治さんのスカーフは、ポルトガルの陶芸作家、ベラ・シルヴァがデザインしたもの。賑やかなコラージュの手法が、現代アートらしいモチーフになっている。

「とても華やかでエレガントですが、よく見ると真ん中に楽譜があって、動物の表情や、色使いが明るい。これからの人生を美しく、楽しく過ごせるようにというメッセージが感じられました」 

吉永さんとの出会いは、村治さんが17歳の高校時代に遡る。

「吉永さんがライフワークにしている原爆詩の朗読の録音時に、私のアルバムの音源を使用したいと、直筆でていねいなお手紙をいただいたのです。大女優であることは存じ上げていましたが、文面からは、ひとりの人間として、大切なテーマを次の世代へ伝えていくのだという熱い想いが伝わってきました」

高校卒業後はパリへ留学し、25歳のときにイギリスの名門レーベル「デッカ」で、日本人初の国際的な長期専属契約を結んでいる。華やかに駆け上がった20代を経て、30代では病気を患い、3度の活動休止という体験もした。

そんなとき「人生は成り行きでいいんだよ」と声をかけてくれたのも岡田氏だった。この言葉ですっと心が軽くなったという。村治さんにとって「カレ」は、吉永さんご夫妻の優しい想いに包まれる、幸福な一枚でもあるのだ。

新作アルバム『シネマ』の中から「ラストエンペラーのテーマ」をはじめ、いくつかのメロディを奏でる村治さん。ふだんの明るく、くったくのない笑顔が、一瞬にして変わり、曲の世界観に引き込まれていく。
新作アルバム『シネマ』の中から「ラストエンペラーのテーマ」をはじめ、いくつかのメロディを奏でる村治さん。ふだんの明るく、くったくのない笑顔が、一瞬にして変わり、曲の世界観に引き込まれていく。

かつてスペインで暮らしていたころ、30代を迎えた村治さんは、パリのエルメスブティックでバッグを手に入れた。

「いつかは…と考えていたのですが、頑張っているんだし、そろそろいいかなって…。楽譜が入るように、少し大きめの『ヴィクトリア』を選びました。流行を超えて存在感を放つものは、こんなふうにタイミングを待ってくれるのですね」

思いがけず30歳、40歳と大切な節目はエルメスが祝福し、次の10年へと導いてくれることになったのだ。

毎朝、散歩をしながら、カフェで読書をし、書き物をするという穏やかな暮らしのなかで、新たな意欲も芽生えている。

プライベートでは車の運転免許を取得中。しかもマニュアル車に挑戦するのが村治さんらしい。音楽ではこの秋、『シネマ』をテーマに2年ぶりのアルバムがリリースされる。「デッカ」に移籍して15年。海外ではデジタル配信が多くなり、過去に出した曲が、若い世代に受け入れられているのだという。今回はクラシックなエレガンスを残しながら、より多くの人に聴いてもらえるように選曲した。

「何十年、何百年という時を経て、さまざまな国で演奏され続け、運命をくぐり抜けて残っている音楽は強い。エルメスの美しさにも、そんな目には見えない強さを感じるのです」

楽譜や本を入れて持ち歩くバッグは、10年間使い込んでよりしなやかさと艶を増したエルメスの『ヴィクトリア』。「無造作に日常使いしても様になるのはエルメスの魅力のひとつ。いただいた「カレ」とも相性がよく、色の変化が楽しめるブラウンを選んでよかった」と村治さん。
楽譜や本を入れて持ち歩くバッグは、10年間使い込んでよりしなやかさと艶を増したエルメスの『ヴィクトリア』。「無造作に日常使いしても様になるのはエルメスの魅力のひとつ。いただいた「カレ」とも相性がよく、色の変化が楽しめるブラウンを選んでよかった」と村治さん。

「30歳、40歳と人生の四季折々を彩るエルメスは、これからの日々を大切に過ごしなさいと語りかけているようです」

村治佳織さん
ギタリスト
(むらじ かおり)1978年、東京の下町で生まれる。ギター教師である父親のもと、1歳前から、遊びで真似るようにギターに触れて、楽しく、ときに厳しく指導を受けた。10歳からクラシックギタリストの福田進一に師事。15歳でデビュー、CD『エスプレッシーヴォ』を発表。17歳でヨーロッパデビュー。高校卒業後、パリ・エコール・ノルマル音楽院へ留学。アルベルト・ポンセに師事。ホアキン・ロドリーゴとの出会いから、楽曲の研鑽を積む。最近では作曲、編曲も手がけ、2018年9月19日(水)に新アルバム『シネマ』(DECCA/日本発売元ユニバーサルミュージック)をリリース。

※この特集で使用した商品はすべて私物です。

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この記事の執筆者
TEXT :
Precious.jp編集部 
BY :
『Precious10月号』小学館、2018年
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
PHOTO :
浅井佳代子
HAIR MAKE :
福沢京子
COOPERATION :
小倉真希
EDIT&WRITING :
藤田由美・遠藤智子(Precious)
RECONSTRUCT :
安念美和子