今を生きる素敵な女性と愛用品をめぐる私的な物語を通して、エルメスの本質的な魅力を探る、雑誌『Precious(プレシャス)』の連載「The Story Of Hermès Women」。

第4回は高校時代、馬術部に所属していた女優の木村佳乃さんと、乗馬服のお話です。馬具づくりから始まったエルメスのエッセンスを感じる優雅な体験がありました。

「優雅さと機能美を備えた一着との出合い」

木村さんのこの日のパートナーはドンちゃん。かわいい目をした穏やかな牡馬(ぼば)で、木村さんはすぐに打ち解けた。着用しているのは旅先で手に入れたというエルメスの乗馬ジャケット。
木村さんのこの日のパートナーはドンちゃん。かわいい目をした穏やかな牡馬(ぼば)で、木村さんはすぐに打ち解けた。着用しているのは旅先で手に入れたというエルメスの乗馬ジャケット。

動作の美しさを競う馬術にはスタイルがある

乗馬服姿の木村佳乃さんが、ほの暗い厩舎から馬を引いて現れた瞬間、空気が変わった。なんと清々しい女性だろう。

格調高いクラシックな様式に身を包むことで、生来の気品をさらに増した木村さんは、近寄りがたいほど美しい。馬術とは、スポーツとは、本来こんなふうに優雅な趣味だったのだと感じいる。

10年ほど前、ロサンゼルスのブティックで買ったという木村さんの乗馬ジャケット。裏地の赤が鮮やかで、ボタンもヴィンテージがかって、いい風合いに。クラシックかつ、スポーツ仕様の機能美あふれる一着。
10年ほど前、ロサンゼルスのブティックで買ったという木村さんの乗馬ジャケット。裏地の赤が鮮やかで、ボタンもヴィンテージがかって、いい風合いに。クラシックかつ、スポーツ仕様の機能美あふれる一着。

木村さんがエルメスの乗馬ジャケットと出合ったのは、10年ほど前。

「エルメスが上質な革で馬具をつくるメゾンであることは高校生のころから知っていました。その上らん(=乗馬ジャケット)は憧れでしたが、子供に手の届くものではなく、大人になって旅先で偶然見つけたとき、あまりの美しさに心奪われて…。普段はデニムに合わせてカジュアルに着ますが、こんなに端正なのに、スポーツウエアだからとても丈夫!」

木村さんは高校時代、馬術部だった。友人に誘われ、軽い気持ちで入ってみると…。待っていたのは、毎朝早起きをして授業前と放課後に馬の世話をする日々。

「馬術は生き物を相手にする競技。怪我もしましたし、世話も大変ですが、責任感が生まれて仲間との絆が深まり、今でもみんな仲がいいんです」

彼女にとって、乗馬は厳しいものだったが、ある日、そのスタイルの優雅さに気づく出来事があった。

「乗馬をしていた明治生まれの祖父が、私が馬術部に入ったことを喜んで、ある日、試合を見に来るというのです。いつも家ではラクダのももひき姿しか知らなくて、恥ずかしいから来ないでと言ったのですが…。現れた祖父は全身を乗馬服で決めて、帽子をかぶり、ステッキをついて、これまで見たことのない紳士! すごくカッコよかった。さっそく仲間に"私のおじいちゃん"と紹介してしまいました(笑)」

その後、障害競技で骨折をしたこともあり、馬場馬術に転向した木村さん。馬場馬術とは、馬の歩様(ほよう)を変えて、正確さと美しさを競うものだ。

「人目にわからないように小さく、さりげなく指示をして、馬を雄大に華麗に動かす、人馬一体で演ずる種目。騎手もエレガントに見えますが、馬との信頼関係を築き、コミュニケーションがとれて、自在にコントロールできなくてはなりません」
 

「優雅に見える傍(かたわ)ら、馬の世話にあけくれた日々。仲間との絆も深まって…」

愛用の乗馬ジャケットで馬場に出て、ひときわオーラを放つ木村さん。エルメスのショートブーツに、乗馬用のブーツカバーを重ねるだけで、格調高いスタイルに。すべて私物。
愛用の乗馬ジャケットで馬場に出て、ひときわオーラを放つ木村さん。エルメスのショートブーツに、乗馬用のブーツカバーを重ねるだけで、格調高いスタイルに。すべて私物。

そういえばエルメスのロゴマークにも、主人が自分自身で御す「ルデュック」という種類の馬車が従者とともに描かれている。主人はいない。そこには「エルメスは最高の品物を用意しますが、それを御すのはお客様自身です」というメッセージが込められている。馬具工房から始まったエルメスらしく「優雅さとはなにか?」を教えてくれる。

そしてもうひとつ、エルメスの製品は持ち主の動作の美しさを導き出すと言われている。たとえば、ぴったりフィットした手袋を外すときのしぐさの美しさだったり、『ケリー』のベルトに手をかけるひと手間のゆとりだったり…。それはまさに馬術の優雅さに通じるものがある。

「祖父は"乗馬はマナーの厳しいスポーツ。馬に乗れることは役に立つ"とよく言っていました。なんの役に立つのか、若いころはわからなかったけれど…」

それは実に奥深い言葉で、木村さんの祖父が伝えたかったのは、"馬に乗れる"とは"自在に操れる"ということ。木村さんが馬術を通して10代で身につけたことは今、揺るぎないエレガンスや品格、優しさ、人としての信頼となって、彼女を輝かせているのだろう。

エルメスのルーツである鞍。サドルステッチという特別な鞍の縫い方はレザー製品にも生かされている。鞍下ゼッケンには、鞍工房を象徴する「クルー・ド・セル」のモチーフが誇り高くあしらわれて。
エルメスのルーツである鞍。サドルステッチという特別な鞍の縫い方はレザー製品にも生かされている。鞍下ゼッケンには、鞍工房を象徴する「クルー・ド・セル」のモチーフが誇り高くあしらわれて。

「エルメスの美しさの原点は、馬具にあると思います」

木村佳乃さん
女優
(きむら よしの)1976年、ロンドン生まれ、3歳で帰国し、中学時代はアメリカで過ごす。1996年にドラマデビュー。2010年に結婚し、2女の母でもある。毎週土曜夜、主演ドラマ『あなたには渡さない』(テレビ朝日系)が2018年11月10日(土)よりスタート。映画『パパはわるものチャンピオン』も公開中。

※この特集で使用した商品はすべて私物です。

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この記事の執筆者
TEXT :
Precious.jp編集部 
BY :
『Precious11月号』小学館、2018年
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
PHOTO :
浅井佳代子
HAIR MAKE :
川畑タケル(BEAUTRIUM/ヘア) 、MICHIRU(3rd/メイク)
COOPERATION :
佐伯敦子
EDIT&WRITING :
藤田由美・遠藤智子(Precious)
RECONSTRUCT :
安念美和子