'60年代から活躍し続けるシェールの人気の秘密がわかる『ザ・シェール・ショウ』

 ヒット映画『マンマ・ミーア!』の続編『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』で、シェールの登場シーンは明らかに映画のハイライトとして作られていた。ある意味、メリル・ストリープ以上の扱いで。ことほど左様にシェールという人はアメリカで人気が高い。その理由が、『ザ・シェール・ショウ』というミュージカルを観ると、よくわかる。

 1970年代に全米でオンエアされていた、当時の夫ソニー・ボノと組んでのTVショウ。これが肝だろう。具体的には、1971年~1974年の『ザ・ソニー&シェール・コメディ・アワー』と1976年~1977年の『ソニー&シェール・ショウ』。そこでの奇抜な衣装と悪女っぽい“ぶっちゃけトーク”がシェールの人気を決定づけたと覚しい。

  • 『ザ・シェール・ショウ』上演中のニール・サイモン劇場。/筆者撮影
  • 華やかな衣装で登場する3人のシェール。/筆者撮影

 こうした番組の再現が『ザ・シェール・ショウ』の中軸になっている。今回のミュージカルに付けられたタイトルには、それらTVショウの“もじり”的な意味合いもあるのだろう。実のところ、2つのショウの間に、ソニーとシェールは別々に単独のショウを持っていて、その時のシェールの方のタイトルは単に『シェール』というものだったが、それは『ザ・シェール・ショウ』と呼ばれることが多いようだ。

 さて、そのシェール。ソロでも夫ソニーとのデュオ=ソニー&シェールでも全米ナンバー1ヒットを持つ歌手であり、前述したように今なお現役で女優としても活躍している。が、実は幼い頃から数々の苦難に出遭い、それを持ち前のヴァイタリティで乗り越えてきた人だった……と。そんな彼女の半生をショウのスタイルでたどるのが、このミュージカル。母が持っていたチェロキーの血筋による差別や、離婚することになるソニーとのギャラの取り分の問題などに、今日的な視線が注がれる。

登場する3人のシェールのキャラクターに付けられた象徴的な呼び名。/筆者撮影
登場する3人のシェールのキャラクターに付けられた象徴的な呼び名。/筆者撮影

 面白いのは、昨シーズン登場した『サマー~ザ・ドナ・サマー・ミュージカル』と同じように、3人の世代の違うシェール役者が登場するところ。彼女たちが、時に観客ともやりとりしながら、シェール本人の持ち味である“ぶっちゃけた”感じの語りで進めていく舞台が楽しい。

 '60年代~'70年代の「I Got You Babe」「The Beat Goes On」「Half-Breed」から'90年代~'10年代の「Believe」「Song for the Lonely」「Woman's World」まで、ヒット曲も満載。

 ミュージカル・ファンには、演出が『アヴェニューQ』のジェイソン・ムーア、脚本が『ジャージー・ボーイズ』の共同作家の1人リック・エリス、というあたりが気になるところだろう。

一筋縄ではいかないアメリカの多様な価値観を笑いにくるんで掘り下げる『ザ・プロム』

『ザ・プロム』上演中のロングエイカー劇場。/筆者撮影
『ザ・プロム』上演中のロングエイカー劇場。/筆者撮影

『ザ・プロム』には、キング・コングとかシェールといった、わかりやすい売り目がないので観光客には見過ごされそう。しかしながら、3作の中でいちばん面白いミュージカル。

 話の中心は、ずばりLGBTQ問題。インディアナの小さな町に住むハイスクールの女子生徒が、レズビアンであることをカミングアウトしたためにプロム(卒業記念のパーティ)への出席を拒まれている、という事件をめぐって展開する。

 この設定、ロンドンでヒット中の、ドラッグ・クイーンに憧れる少年が主人公のミュージカル『噂のジェイミー』(Everybody's Talking About Jamie※邦題は個人的な意訳です)と似ているが、『ザ・プロム』がユニークなのは、ここにニューヨーク演劇界の住人たちを持ってきて、いきなり話をかき回させるところ。初日を酷評されたブロードウェイ・ミュージカルの役者たちが、名誉挽回の話題作りのために、その女子生徒の応援にインディアナまで駆けつけるのだ。

 インディアナ=田舎のモラル旧守派(トランプ的)VS.ニューヨーク=都会の進歩派(反トランプ)というホットな対立が大いに注目を浴びるだろう、ヘイト騒動に巻き込まれた少女からも感謝されるだろう、というのが演劇人たちの皮算用。が、もちろん、話はそう簡単には進まない。スモール・タウンの面倒くさい人間関係や若者との意識のすれ違いの中で右往左往する内に、善意から発したとはいえ演劇人たちの打算もバレてしまい……ということで二転三転、ハラハラさせてくれる。

 この作品が優れているのは、作者たちが“反トランプ”を標榜する作中の演劇人に自分たちの姿を投影した上で、それを戯画化してみせているところ。そうやって屈折した笑いにくるむことで、簡単には一枚岩にならないアメリカの様々な事情を描きつつ、舞台上のハッピーエンドの向こうに、地域や世代を超えた解決の道を探ろうとしているようにもみえる。見かけによらない意欲作だ。

 ところで、この作品には、2006年にブロードウェイに登場したマニアックな楽屋落ちミュージカル『ドロウジー・シャペロン』の関係者が集っている。共同脚本のボブ・マーティン、演出・振付のケイシー・ニコロウ、そして、主演女優のベス・リーヴェル。なので、同作ほどではないが、ミュージカル・ファン向けの細かいギャグがちりばめられている。そのあたりも、その筋の方々には楽しみなはず。

 ちなみに、楽曲作者はマシュー・スクラー(作曲)とチャド・ベグリン(作詞)の『ウェディング・シンガー』&『エルフ』コンビで、ベグリンはボブ・マーティンと共同で脚本も担当している。

『ザ・シェール・ショウ』と『ザ・プロム』のプレイビルはイラストが印象的。
『ザ・シェール・ショウ』と『ザ・プロム』のプレイビルはイラストが印象的。

各作品の上演日時および劇場は、Playbill(http://www.playbill.com/)や下記の作品公式サイトでご覧ください。

『ザ・シェール・ショウ』公式サイト(https://thechershowbroadway.com/
『ザ・プロム』公式サイト(https://theprommusical.com/

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この記事の執筆者
ブロードウェイの劇場通いを始めて30年超。たまにウェスト・エンドへも。国内では宝塚歌劇、歌舞伎、文楽を楽しむ。 ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」(https://misoppa.wordpress.com/)公開中。 ERIS 音楽は一生かけて楽しもう(http://erismedia.jp/) で連載中。
公式サイト:ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」