革とは、動物の肉を採取したあとの皮をなめす(腐敗しないよう施す加工)ことによって生まれるものだ。革づくりの技術はそれを必要とする寒冷地で最も早く編み出されたといわれるが、世界中でその風土や民族、文化とともに独自の発展を遂げてきた。たとえば肉食や牧畜文化が発展した欧米なら良質な牛や羊の革がたくさんつくれるし、熱帯地方ではワニやトカゲといったエキゾチックレザーの生産が盛ん。日本の場合、鹿や豚革にアドバンテージがあるという。
主に欧米の畜産農家から供給される牛や羊の原皮は、「タンナー」という製革工場に送られ、ここで革となる。これらの革は各タンナーのなめし法と染色、仕上げの加工によってまったく違った表情になるのが面白い。よくショップで「このバッグは○○社のレザーを使っていて……」などと説明を受けることがあるが、それこそがタンナーのこと。
その名前はレザーの性質や上質さを証明するひとつの目安となるだろう。このように仕上げによって引き出される表情が重要視される牛や羊の革に対して、動物の皮が本来持つ質感や味が珍重されるのが、ワニやリザードといったエキゾチックレザーの世界。単純に高価なもの=上質と言い切れないのが面白い点でもある。中でも群を抜いて高価なのはクロコダイルやアリゲーターといったワニ革だが、それは単に稀少な生物ということだけではなく、獰猛な動物ゆえ傷がつきやすく、製品として使える箇所が非常に少ないのがその理由なのだとか。
そんな魅力あふれるレザーの世界だが、ここ10年ほどは値段が高騰しており、上質なものがなかなか手に入りにくくなっている。人々のライフスタイルの変化に加え、資材や輸送費など各種コストの上昇、投機目的での取引……などその要因は様々だ。この傾向は今後も続く見込みなので、いい革製品はなるべく早めに手に入れておきたいものだ。
多種多様なレザーの世界
1.Calfskin 牛革(カーフスキンなど)
世の中で最も広く使われている牛革は、その性別や年齢によって呼び名が異なる。生後6か月までの子牛の革が「カーフ」、6か月~2年までが「キップ」、生後2年以上たった去勢した雄牛が「ステア」、生後2年以上たった出産経験ある雌牛が「カウ」となり、当然若い牛のほうがキメが細かく、値段も高価。その風合いや表情はなめし方と加工によってまったく違ってくる。写真左のような比較的ツルリとしたものから、薬品で縮めたシュリンクレザー(右/右)、裏側を起毛させたスエード(右/中)、ロウを浸透させたブライドル(右/左)など、その種類はあまりにも多い。実は世に流通する牛革の半分は、インテリアと車の内装に使われているのだとか。
2.Ostrich leather 駝鳥(だちょう)革(オーストリッチレザー)
「クイル」と呼ばれる丸い突起を特徴とする、オーストリッチのレザー。世界最大の鳥類である駝鳥は主に乾燥地帯に生息しているが、野生は減少傾向にあるため、食用やレザーに使われるのは、南アフリカで養殖されたものがほとんど。その革は柔軟だがとても丈夫。そして野性的だがどこか品のある表情を生かして、ラグジュアリーなバッグに多く使われている。
3.Camel leather 駱駝(らくだ)革(キャメルレザー)
日中は酷暑、夜は極寒という過酷な砂漠の環境で生き抜いてきた駱駝のレザーは、生息地である北アフリカで多く流通。繊維が密に詰まっており、しなやかさと軽さ、牛革を凌駕する頑丈さで有名だ。大きな動物だが体に傷が多いので、革として流通する機会はそう多くない。キメがやや粗くワイルドな質感がその持ち味で、カジュアルアイテムに使われることが多い。
4.Sealskin オットセイ革(シールスキン)
オットセイやアザラシといった、いわゆる海獣の革を総称した呼び名が「シールスキン」。厚みと丈夫さが特徴で、頭から尻尾にかけては波のような畝模様が見られ、その迫力ゆえに珍重されている。保温性の高いその毛皮は洋服に使われることも多いが、とても稀少ゆえワシントン条約によって輸出入は厳格に管理されている。写真はヌバックのように起毛させたオットセイだ。
5.Shark skin 鮫革(シャークスキン)
「鮫肌」といわれるとおり、非常に硬くザラザラとした質感を特徴とするレザー。その革は世界中で古くから流通しており、日本では鎧兜や刀の鍔、さらにおろし金にいたるまで幅広く活用されてきた。水にも強いので、時計のストラップにもよく使われている。ワイルドな風合いだが、そのカッチリとした質感を生かして、女性向けのフォーマルバッグに使われることも多い。
6.Elephant leather 象革(エレファントレザー)
往年の数寄者たちに珍重されてきた象革だが、乱獲による絶滅を防ぐべく、その生産は厳しく管理されている。現在はアジアゾウに関しては、一切の商取引は禁止。アフリカゾウはジンバブエや南アフリカなど一部の地域で採られた原皮だけが、商業利用を許されている。その革の特徴は、自然な起毛感と圧倒的な丈夫さ。部位によっても異なるが、野性的なシワが味わい深い。
7.Crocodile leather ワニ革(クロコダイルレザーなど)
グラマラスな光沢で珍重されるワニ革。幅広く「クロコ」などといわれるが、ワニ革には「クロコダイル」のほかに「アリゲーター」と「カイマン」などがあり、その革はそれぞれ斑紋の表情や性質が異なる別物である。バッグや靴に使われるのは主にクロコダイルとアリゲーターで、その革は部位によってさらに違った表情を見せる。中でも斑紋が整った腹や尻尾の裏側は「竹斑」と呼ばれ、最も高価。近年は本物と見間違うような型押し革も登場しているが、本物の表面には「穿孔」という針で刺したような穴があり、その有無で見分けることが可能。仕上げ方にはきらびやかな光沢仕上げと自然なマット仕上げがあるが、最近はカジュアル化の流れか、マット系に人気が集まっている。
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- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2017年夏号バッグは男を裁く。より
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- クレジット :
- 撮影/林 敏一郎(FOREST)スタイリスト/武内雅英(code)構成/山下英介(本誌)