切れ味鋭い日本人ならではの美意識と高い技術

銀座「ファロ」とローマ「ビストロ64」2件のエグゼクティブシェフとして日本とイタリアを行き来する能田耕太郎シェフ

新しく「ファロ」のグゼクティブ・シェフに就任したのがローマにある「ビストロ64 」のオーナーシェフにして、ミシュラン1つ星を3年連続で獲得している能田耕太郎さん。現在イタリアでは「TOKUYOSHI」の徳吉洋二シェフと並ぶ最も有名な日本人シェフだ。現在ではローマのみならず日本にもその活動範囲を広げ「ファロ」の新エグゼクティブシェフに抜擢されたことは、いわばイタリアからの逆輸入であり、日本のイタリア料理愛好家たちにとっては新しい能田耕太郎の世界が銀座で味わえるのだからたまらない。

11月のある夜、「ファロ」にて注目のディナーコース「霜月」を味わう機会に恵まれた。

「ファロ」注目のディナーコース「霜月」

「霜月」のコースから前菜の「八寸」。「ファロ」では日本の作家の器など和の要素を数多く取り入れているが、重箱のようなこの器も和を強く意識している 

日本ならではの食材を使った料理の数々 

同じく「八寸」から3センチ程度の極小フィンガーフード「ライスペーパー、食用菊、切り干し大根のザワークラウト」

最初に登場する「ファロ」のメニューにはメニューに使用する全食材と生産者名が書かれてあるのだが、数えてみるとこれがなんと141種類。

特に野菜とハーブに関しては青森県の大西ハーブ農園と奈良県の山口農園と協力し、日本ならではの野草やエディブルフラワー、スパイスやハーブを積極的に取り入れているのが特徴のひとつだ。

最初の「八寸」は2種類の器に分かれて計8種類登場。

「海苔をあしらったカンズリ・クリームのマカロン」「レバームースと栗の香りのミニバーガー」「ペペローニとカボチャのプディング」「ライスペーパー、食用菊、切り干し大根のザワークラウト」「椎茸寿司、キノワのシャリ、山椒」「レンコン饅頭、黒米チップス、白胡椒などのスパイス」「クリームチーズのトルタ、柿とアマレット・ディ・サロンノ」「紫芋、味噌、ゴルゴンゾーラの練切」と、すべて一口にも満たないサイズの極小フィンガーフードなのだが、いずれも日本ならではの野草、ハーブ、植物性食材にイタリアらしいエッセンスを加えた融合体だ。

特に見た目は和風ながらも特に「紫芋、味噌、ゴルゴンゾーラの練切」はイタリアを強く感じた。

温菜「根菜のフリット」は極細切りの山芋のフリットにラルドをのせ、余熱でじんわり脂が溶け出したところをいただく

続いて登場したのが「根菜のフリット」だがこれは揚げたての長芋のフリットにごく薄切りのラルド・ディ・コロンナータを乗せ、脂が溶け始めたところを食べるのだが、感覚としてはトスカーナのコッコリ、あるいはエミリア地方のニョッコ・フリット+ラルド、に近い。

芋と豚の脂、ローズマリーの組み合わせは中部イタリアの田舎料理の定番だ。「豆乳のクリームチーズ」は乳酸発酵が完全に終わっていないヨーグルトを思わせるほのかな酸味のある豆乳にヨモギオイルと豆乳ソース、そして多くのハーブ類の組み合わせ。

極小ハーブ、あるいはスプラウトはイタリアのファインダイニングでも大人気で「ミクロオルタッジ」と呼ばれるが、ほんの一遍のハーブが料理の味を決定的に帰る、ということで多用されている。

かつて能田さんが師事したミシュラン3つ星シェフ、「アル・ドゥオモ」のエンリコ・クリッパも自家菜園で作る数多くのハーブと野菜を使いこなすが、こうした微量かつ複雑な味わいを持つハーブ類を組み合わせるのは現代のシェフには必須の要素となっている。

しかもイタリア人シェフの多くが日本固有の野菜やハーブに興味を示しているのだから、山椒始め日本のハーブをイタリア的解釈で使いこなす能田さんの料理は非常に興味深く映るかと思う。

能田さんの代表的料理のひとつ「じゃがいものスパゲッティ」はイタリア人にも人気の一品。イタリア家庭料理的な味の構成要素にクリスピーさをプラスしている

「じゃがいものスパゲッティ」は、いまや能田さんのシグネチャーディッシュと言ってもいいだろう。

刺身のつまを作る要領でジャガイモを麺状に細くスライスし、バターの中で加熱してパスタのような食感にし、最後にフリットしたジャガイモ・パスタとコラトゥーラ・ディ・アリーチを加えた料理だ。

ジャガイモ、アンチョビ、バターという黄金の組み合わせ、かつ安価な食材をクチーナ・ポーヴェラからシグネチャー・ディッシュへと変化させるイタリア料理の根幹であり無限の可能性を感じさせる 料理だ。今回はさらに能田さん自らがアルバ産の白トリュフをトッピングしてくれた。

こちらも日本的なパスタ「秋刀魚のトルテッリ」、サンマと菊芋のほろ苦さが味をまとめた大人のパスタ

パスタがもう1品「秋刀魚のトルテッリ」はサンマをワタごとトルテッリの詰め物とした日本独特のほろ苦さを特徴にした料理でリンゴとセロリ、イタリアン・パセリのオイルで清涼さが加わる。

魚料理は「クエの炭火焼」一夜干しにしたクエにトピナンブール(菊芋)とバルサミコを効かせたミニサラダ・ブーケという構成で、弾力に富むクエの食感が印象的だった。

肉料理は「熊本赤牛フィレのロースト」で、上質な熊本牛のフィレを一口だけ。それにネギのグリルとネギの炭のパウダーでほろ苦さと香りを加え、甘口のビーツソースをあえたものだ。

エディブルフラワーとハーブを使ったデザート「奈良県山口農園の恵み」、子供の頃野原で遊んだ記憶を蘇らせてくれるノスタルジックな一品

「ファロ」のデザートは、かつて「オステリア・フランチェスカーナ」でドルチェを担当した加藤峰子さんが担当している。「奈良県山口農園の恵み」はハーブや野菜、花を用いたデザートで、甘さの中にハーブや花本来が持つ自然の複雑な香りが溢れ出す。食後にあらためてメニューを見直し、141種類の食材全てを当てることはできなかったが、味蕾と自然に相対した3時間あまりだった。

「日本でやりたかった料理は今現在自分の中で完成しつつあるが、ローマはまだまだ」と語る能田さんは当面東京とローマを往復しつつ、2つのレストランのエグゼクティブシェフとして活動を続けるという。かつてSUZUKIのKATANAがアメリカで大人気となって日本に逆輸入されたように、能田さんの切れ味鋭い日本人ならではの高い美意識と技術、自然への敬意こそが他者と違いを作る最大の要因なのではないかとこの夜あらためて思った。

問い合わせ先

  • ファロ TEL:03-3572-3911
  • 住所/東京都中央区銀座 8-8-3 東京銀座資生堂ビル 10 階
この記事の執筆者
1998年よりフィレンツェ在住、イタリア国立ジャーナリスト協会会員。旅、料理、ワインの取材、撮影を多く手がけ「シチリア美食の王国へ」「ローマ美食散歩」「フィレンツェ美食散歩」など著書多数。イタリアで行われた「ジロトンノ」「クスクスフェスタ」などの国際イタリア料理コンテストで日本人として初めて審査員を務める。2017年5月、日本におけるイタリア食文化発展に貢献した「レポーター・デル・グスト賞」受賞。イタリアを味わうWEBマガジン「サポリタ」主宰。2017年11月には最新刊「世界一のレストラン、オステリア・フランチェスカーナ」刊行予定。