南トスカーナの森に溶け込むデザイン・ワイナリー「ペトラ」
有名建築家マリオ・ボッタが設計
近年イタリアでは有名建築家によるワイナリー設計、いわゆるデザイン・ワイナリーがブームだがこの「ペトラ」はイタリア系スイス人である有名建築家マリオ・ボッタの設計によるものだ。マリオ・ボッタはかつてル・コルビュジェの助手をつとめたこともあり、日本では青山のワタリウムを設計したことで名高い。
マリオ・ボッタの一連の作品は現地で採れる天然石やレンガを多用し、周囲の環境に溶け込むように配慮した建築が多いが「ペトラ」はその完成系のひとつといえるだろう。
ワイナリーの敷地に入るとまずぶどう畑越しにその石造りの巨大建築が目に飛び込んでくるのだが、よく見てみると背後にある丘の起伏部や稜線、ブドウ畑の畝と調和するよう計算されていることがわかる。
象徴的なのは、稜線に向かってまっすぐに伸びている正面階段。建物全体がブドウ畑の斜面を利用して作られているので、収穫したブドウは建物最上部にトラクターで運ばれた後圧搾。発酵は低層階、熟成は岩盤をくり貫いた地下施設と、重力に逆らわずにワイン作りを進めることを可能にしている。
環境をリスペクトした新世代ワイナリー
「ペトラ」のオーナーは、フランチャコルタの「ベッラヴィスタ」「コンターディ・カスタルディ」などを所有するモレッティ・ファミリー。もともとワイナリー建設で財を成したヴィットリオ・モレッティ氏はいち早く自らのワイナリー経営に乗り出し、90年代末にマレンマ地方スヴェレートに土地を購入。
現在は娘のフランチェスカ・モレッティが責任者として、醸造家ジュゼッペ・カヴィオーラらとともにワイン作りを進めている。「ペトラ」の色紙は現在300ha だが、ブドウを栽培しているのはその10%程度の30ha。
残りはマレンマ地方の豊かな森林や、オリーブ畑、そしてトスカーナ海岸部に見られるマッキア・メディテラーネアと呼ばれる地中海性灌木群を手つかずのままに残し、マリオ・ボッタの設計に代表されるように周囲の環境との共生をテーマにしているのだ。
環境をリスペクトした新世代ワイナリー
南トスカーナのテロワールを重視したワイン作り
このワイナリー名「ペトラ」とは、イタリア語で石を意味する「ピエトラ」からきているがそれはこの土地が石灰質土壌に多く石が含まれていることに由来する。
それぞれの土壌がブドウに個性をもたらし、またティレニア海からの塩分を含んだ風はブドウの養分となって豊富なミネラル分を与えている。フランチャスカ・モレッティたちが目指すのは、そうしたマレンマ地方ならではのテロワールを重視したワイン作りだ。
ワイナリーを見学した後、テイスティング・ルームへと移動し3種類のワインを試飲。最良の単一畑で採れたカベルネ・ソーヴィニヨン70%、メルロー30%から作る「ペトラ」はボルドーの土壌に似ているといわれる南トスカーナの地域特性を最大限に引き出したフラッグシップワイン。凝縮感に富み、ブラックベリーやダークチェリー、バルサミコを思わせる香り。
引き締まった味わいは滑らかなタンニンが特徴的なフルボディの赤ワインだ。これに合わせるならば南トスカーナの代表的料理であるイノシシの赤ワイン煮込みやビステッカ・アッラ・フィオレンティーナだろう。一方「アルト」は同名の単一畑で作られたトスカーナ地方を代表する品種サンジョヴェーゼ100%。
サンジョヴェーゼ特有のスミレやチェリー、あるいはラズベリーのニュアンスを含み、フルーティかつミネラルに富む。これを飲むと南トスカーナの手打ちパスタ、ピーチのラグーや熟成した羊のチーズ、ペコリーノが欲しくなる。そしてカベルネ・ソーヴィニョン、メルロー、サンジョヴェーゼをブレンドした「エボ」はスタンダード・ワインだが非常に飲みやすく、若々しいエレガントな赤ワイン。
フィノッキオーナやズブリッチョローナといったトスカーナのサラミや鶏レバーを使ったクロスティーニがあうだろう。「ペトラ」では実際にマレンマ地方の豊かな自然環境と、ワインが生まれる現場を知ってもらうため、積極的にワイナリー体験「カンティーナ・エクスペリエンス」を提唱している。
現地を訪れてワイナリーを見学し、ブドウ畑を歩いてその風や匂い、太陽を感じることはワインが生まれたテロワールを理解するには最上の方法だ。機会があれば是非南トスカーナに足を伸ばして「ペトラ」の世界を体験してみてほしい。
今回取材したワイナリーはこちら
- TEXT :
- 池田匡克 フォトジャーナリスト