2022年エランドール・新人賞を受賞し、2023年は大河ドラマや「月9」など、数々の話題作で存在感を放っている山田裕貴さん。主役の声優を務めたアニメ映画『BLUE GIANT』が2月17日に公開となる。
傷だらけになっても、人の気持ちを考えられる人間でありたい
声優として主演を務めた映画『BLUE GIANT』が、2月17日から公開される。「世界一のジャズプレーヤーになる」と夢を追う主人公・宮本 大のひたむきな姿は、高校卒業後、名古屋から単身上京して俳優を志した山田裕貴さんと重なる。
養成所に通って芝居を学びながら、舞台セットの組み立てやチケットのもぎり、飲食店などのアルバイトで生計を立てたデビューまでの3年。「毎日が戦いで、武士みたいな感覚」だったという。
「例えば、養成所で実技の審査会順位が貼り出されるたびに力の無さを思い知る。考え抜いた演技を『いや、違う』と評価される。『自分の魂が動かないのに、人の魂なんて動かせるか!』と言われて、反論できない。テレビに出ている同世代を見れば羨ましいし、エキストラの現場に行けばカメラとの距離に自分に焦点が合うことはないと気付く。もうその都度プシューッと身を斬られるようで、全身見えない傷でボロボロでしたね。でも、俳優は人の気持ちがわかっていないとできない職業。それに、もし自分と似た思いをしている人がいたら真っ先に気付ける。そういう経験ができて、本当によかったと思います」
『BLUE GIANT』の原作マンガとの出合いは、28歳の頃。それは、ハートと技術がつながる瞬間が、最も自然でいい表現ができるとわかってきた時期だった。
「そう自分の頭に描いていたことが、偶然にも作中に出てきて引き込まれましたね。でも、映画化のお話を聞いた当初は、声優さんではない自分が演じていいのかという葛藤もありました」
背中を押したのは、初めて声優に挑戦した際に憧れの声優・宮野真守さんにもらったアドバイスだった。
「『やっぱり最後は気持ちだよ。気持ちのことなら山田くんはずっとやってきたでしょう?』と。すごく励みになると同時に、テクニックを究める道を通ってきた方だからこそ最終的に行き着く心得だというのもわかりました。だから、音で感情を伝えるために、大の出す音、話すリズム、“一音”一句を考え抜きました」
たったひと言の台詞でも、思考も計算も重ねて発する緻密さを秘めながら、現場ではあえて軽やかに立ち回るよう努めたという。居心地のいい現場づくりまでが、自分の役割だと受け止めているからこそだ。
無欲=ゼロになって、他のだれかのために頑張る
一作一作に込めるその熱量の高さが、関わる人を惹きつけ、観る人の心にも火を灯している山田さん。次に実現したいことを尋ねてみると、「滝行…ですかね?」と、意外にも力の抜けた答えが。「一度、全部流してみたいというか。僕が主役をやれる人になるなんて思ってもいなかったから、ここから先は何が起きるか想像がつかない。困っていく一方なんです」と笑う。たどり着いたのは「ゼロがいちばん強い」という境地なのだとか。
「釈迦が残した〝過去にとらわれず、未来を追わず、ただ今この一瞬を一生懸命生きればいい〟という言葉が腑に落ちたんです。ありがたいこの瞬間に100%で応え続ければ、それがつながって過去にも未来にもなっていく。マインドをゼロにして無欲になって、人のために頑張ろうと考えるようになりました。『BLUE GIANT』だったら、原作の石塚真一先生やファンの人が期待する声を出そう、原作を知らない人にも観に来てもらえるような存在になろうとか。大河ドラマ『どうする家康』では、主演の松本潤さんもきっと悩んだり苦しんだりすることがあるだろうから、この人を支えるために僕が演じる本多忠勝をいい役にしようとか。ここからは“誰かのため”がエネルギーになる。これって最強だなと思っています」
◇山田裕貴さんのインタビューVol.02は2月19日公開予定です。引き続きチェックお願いします!
■『BLUE GIANT』2023年2月17日(金)全国公開!
原作:石塚真一『BLUE GIANT』(小学館「ビッグコミック」連載)
監督:立川譲 脚本:NUMBER 8 音楽:上原ひろみ
声の出演/演奏:宮本大 山田裕貴/馬場智章(サックス)
沢辺雪祈 間宮祥太朗/上原ひろみ(ピアノ)
玉田俊二 岡山天音/石若駿(ドラム)
アニメーション制作:NUT
製作:映画「BLUE GIANT」製作委員会
配給:東宝映像事業部
2013年に石塚真一が『ビッグコミック』(小学館)で連載を開始した漫画『BLUE GIANT』(シリーズ累計:900万部超)。その圧倒的表現力は多くの読者を魅了し、“漫画から音が聞こえてくる”とも評され、現実のジャズシーンにも影響を与えている。
その『BLUE GIANT』が、「最大の音量、最高の音質で、本物のジャズを届けたい」という想いから、映画化される。監督は、『モブサイコ100』シリーズや劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』(18)で注目の立川譲。脚本は、連載開始前からの担当編集者で、現在はstory directorとして作品に名を連ねるNUMBER 8。アニメーション制作は『幼女戦記』(17)などで注目のスタジオ・NUTが手掛ける。
そして主人公・宮本大の声には、原作を読みひたむきに夢を追う大の姿に自身もシンパシーを感じていたという山田裕貴。大が東京で出会うピアニスト・沢辺雪祈に間宮祥太朗、そして大に感化されドラムを始める玉田俊二を岡山天音と、数々の話題作に出演し、目覚ましい活躍をみせる豪華俳優陣がキャラクターに命を吹き込む。
また、“音”の面でも最高のスタッフが集結。音楽は、世界的ピアニストの上原ひろみが担当。上原は、主人公たちのオリジナル楽曲の書き下ろしをはじめ、劇中曲含めた作品全体の音楽も制作する。また、主人公たちのバンド・JASSの演奏を支えるアーティスト陣も豪華なメンバーが揃った。サックス(宮本大)は、国内外のトップアーティストが集まるオーディションを経て選ばれた馬場智章。ピアノ(沢辺雪祈)は、音楽の上原ひろみ自身が演奏し、ドラム(玉田俊二)の演奏はmillennium parade等、多数のアーティストから支持を集める石若駿が担当。最高のジャズトリオの演奏が作品を彩る。
(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 (C)2013 石塚真一/小学館
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 佐藤久美子