2月18日、女優の杏さんが出席した文化庁主催の「文化プログラム参加促進シンポジウム」は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機に、日本文化の魅力を発信する文化プログラムへの参加を促すものです。
第一部は主催者を代表して宮田亮平文化庁長官が挨拶し、その後は文化庁の坪田知広さん(同庁参事官)、堀 和憲さん(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会)、松田泰典さん(東京都)のそれぞれが、今年から本格的に始まる文化プログラムの中核を担う取り組みにについて、プレゼンテーションを行ないました。
文化庁主催の「文化プログラム参加促進シンポジウム」に、杏さんが登壇
簡単に補足をしておくと、なぜ、今年から文化プログラムなのか。それは、近代オリンピックの根本原則であるオリンピック憲章に「オリンピズムはスポーツを文化、教育と融合させ、生き方の創造を探求するものである」という記述があり、オリンピック・パラリンピックはスポーツの祭典のみならず、文化の祭典であることが謳われているからです。
一部の関係者ではよく知られていますが、2012年のロンドン大会の際、さまざまな文化プログラムを用意したことで、この試みが大成功を収めました。
東京大会で、どのような文化プログラムが楽しめるかを、各国が注目しているところ。そうしたことをPRし、機運を醸成するために、この催しは企画され、そのスペシャルゲストとして杏さんに白羽の矢が立ったのです。
「文化プログラム」とは、東京オリンピック・パラリンピックに合わせて開催される「文化の祭典」
その杏さんが登場したのは、トークセッションとパネルディスカッションで構成される第二部の前者。ちなみに後者には、パネリストとして古坂大魔王さんや中川翔子さんらが登壇しました。
杏さんとトークセッションに臨んだのは、宮田亮平文化庁長官と、美術評論家の秋元雄史さん。
秋元さんは、いま新しいアートのメッカとして国際的にも注目されている、瀬戸内のベネッセアートサイト直島のディレクターを務めるなど、美術館や展覧会のプロデュースでも大活躍する方です。現在は、東京藝術大学大学美術館館長、練馬区立美術館館長を務めています。
このふたりが紹介されたあと、杏さんが白いワンピース姿で舞台に現れました。
どんどん触れて、共有し、いろいろな価値観を知る。2020年は、文化に触れる良いチャンス
杏さんを間近にした宮田長官は「いやぁ、きれい」と感嘆の言葉。杏さんは「(宮田長官、秋元さんが)控室でもすごく気さくにお話してくださったので、今日、すごく緊張がほぐれました」とアイスブレイク。その後、本題である文化についてのトークに移っていきました。
まず、杏さんが歴史に興味をもったのは、幕末、それも佐幕派の人々に興味をもったのがきっかけだったとか。
そして、当時の風景写真やポートレートなど物理的なものが多く残っていることから、リアルに感じられるようになり、時代小説などに接するなかで、不思議な感覚を覚えたことを振り返ります。
「時代小説やマンガなどに触れるなかで、『知らないのに、知っている』感覚になったんですね。なんだろう、この感覚。すごくドキドキするし、もしかしたら自分のなかのどこかがつながっているのかもしれない、ということを想像するだけで、なんだかワクワクするというような感じになったんです。
それから、いろいろな作品を見るようになったほか、仕事柄さまざまな場所に行くので、そこの史跡を見たり巡ったりするなかで、どんどん好きになっていきました」
「私は、近藤勇の享年と同じ年ですが、あそこまでのことをできたかな、できているかな、がんばらなきゃ、という気持ちになる」(杏さん)
本人は、「歴女」を自称するよりも、ひとりの歴史ファンとして、そうしたことに触れているのだとか。
ちなみに、お気に入りは、新撰組の永倉新八。新選組二番組頭として第一線に立ちながらも維新後まで生き残り、自叙伝などを残すことで、新撰組は悪の人斬り集団という見方に一石を投じた人物としても知られています。
そうした幕末の群像作品に触れることは、杏さんにも少なからず影響を及ぼしているようです。
「幕末に活躍した人は、みんな若いんです。こんな若い人たちが政治の中心に切り込んで、命をかけてやっていたのかと。私は、近藤勇の享年と同じ年ですが、あそこまでのことをできたかな、できているかな、がんばらなきゃ、という気持ちになるんです。
タイトルは物騒なんですけれど、『人間臨終図鑑』(徳間文庫、2011)という、いろいろな人が亡くなられた年が書かれた本があるんです、それを見ていると、死の直前まで志をもち、やり遂げてスッキリという人はいないんですよね。
そう考えると、一瞬一瞬を生きていかなければいけないじゃないかな…という勇気をもらえるんですよね」
杏さんが印象に残った場所は、ユネスコ無形文化遺産に登録された「百舌鳥古市古墳群」
このように歴史から学び、さまざまな日本文化に触れることを楽しみにする杏さんは、テレビ番組『世界遺産』(TBS系)のナレーションを務めていることでも知られています。
これに関連して宮田長官から「どこか印象に残った場所はありますか?」と質問があると、杏さんは、2019年にユネスコ無形文化遺産に登録された百舌鳥古市古墳群を挙げ、番組で取材に行ったときのエピソードを披露しました。
「普通ではなかなか見られない空撮の映像を見たり、普段は入れない古墳のなかにも行ったんです。そして、これが人の手でつくられたんだ…ということを肌で感じたんです。
そして、本当に長い長い間、これは何だったんだろうと思われながらも、わからないまま残されているのを目の当たりにしたんですね。
メッセージがタイムカプセルみたいに今まで残されているというところに、ものすごいロマンを感じました」
杏さんが考える、「文化プログラム」の楽しみ方とは?
その後、話題は東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機とした、文化プログラムに関連した内容に。宮田長官、秋元さんから、一般の人々が、文化プログラムに触れる際、どんなことを意識したらよいかといった問いが投げられました。
これに対して杏さんは、まずは自分自身で体験して、五感で感じてみることを提案しました。
「実際に行くことで新たな出会いがあるかもしれないし、自分が予想したものとはまったく違う価値観に触れることもある。それは、紙の媒体や、映像を見るだけでもいいと思います。
そうやって、どんどん触れて、楽しいことをいっぱい探し、それをみんなに共有する。そうすると、私は面白くない、という意見に出会うかもしれません。
でも、それもまったく違う価値観として、そうなんだという発見もある。
これから大きな波がやってくる2020年は、とてもよいチャンスです。今後開催されるイベントなどを紹介していただきましたが、行きたくなるようなものがたくさんあります。
いろいろなヒントが転がっている素晴らしい一年になると思うので、それはすごくみんなで楽しんでいけたらいいなと思いました」
トークセッション中の杏さんはリラックスした表情で、専門家である男性ふたりを唸らせる場面も多く見られました。
印象に残ったのは、杏さんが、「文化プログラム」というと気構えしてしまうかもしれないけれど、大仰に考えることはなく、風を感じたり、そこの音を聞くことを通じて、昔の人のことを想像することで、いま生きている時代や、身近な生活につながっていると話をしていたこと。肩肘張らず、気軽に楽しもうということです。
文化庁では、「日本人と自然」をテーマに、「日本博」。内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局では「beyond2020プログラム」。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会では「東京2020 NIPPONフェスティバル」、東京都では「Tokyo Tokyo FESTIVAL」など、さまざまなプログラムを実施しています。
杏さんの楽しみ方をヒントに、日本の文化の魅力を再発見してみてはいかがでしょうか?