デジタルツールでの漢字変換に慣れてしまうと、ふとした時に正しい表記が思い出せない…などということ、ありませんか?

デジタル変換の怖いところは、センテンスをどこで区切って変換するか?によって、予測変換の内容に大きな違いがあるところです。短い単語で変換してみたところ、予測候補の数が多すぎ、どれが正しいのか混乱してしまう…ということもあるのではないでしょうか?

「あなたまかせ」
「あなたまかせ」

Respect(尊敬される)女性から、Shame(残念な)女性にならないために、間違いやすい日本語について今一度おさらいする教養クイズシリーズ第2弾は、デジタル変換でもミスを誘発する確率の高い「あなたまかせ」という言葉について。

その正しい書き方と、言葉にまつわる語源や歴史エピソードをご紹介します。

【問題】「あなたまかせ」の正しい表記は、次のどれ?

1:貴女任せ

2:貴方撒かせ

3:彼方任せ

「貴女任せ」「貴方撒かせ」「彼方任せ」
「貴女任せ」「貴方撒かせ」「彼方任せ」

1から3、あなたはどの表記を選びましたか?

あなたの選んだ回答は…Respect?それともShame?
あなたの選んだ回答は…Respect?それともShame?

正解は…3:彼方任せ が正解!

「あなたまかせ」の語源は、仏教の「他力本願」に由来します。阿弥陀如来の力にすべてをまかせる、というのが由来で「あなた」は「あちら、むこうのほう=人の手の届かぬ浄土にいる阿弥陀如来」を指した言葉です。本来は「目の前の人」「YOU」を指す言葉ではありません。そう、「目の前のあなた」のことではないのです。

正解は「彼方任せ」
正解は「彼方任せ」

しかし、だんだんと「他人の力にすべてを任せる」という意味でも使われるようになり、「貴方任せ」という表記も、現在では辞書に載るようになっています。とはいえこの場合も、「貴方」は特定の人物ではなく「誰か」「他人」を包括的に指す表現として、使用されます。

いかがでしたでしょうか?

「あなた」は「○○さん」など、その事をお任せした特定の誰かを指す、とカン違いされたていた方も多いのではないでしょうか?

実は昔、特定の人物を指して「あなたまかせ」と表現する使い方を、作品内の限定的な遊び表現として使っているヒット曲が存在しています。昭和歌謡の『あなたまかせの夜だから』です。この曲に接した世代以降は、特にカン違いされる方が増えてしまったかもしれません。

『あなたまかせの夜だから』というムーディーなデュエット曲の作品世界では、男女の恋のいとなみを歌った歌詞の中で、あえて「あなた」を目の前の男性や女性、という意味に転用する言葉遊びが使われていました。1971年、今から50年近く前にヒットした曲です。

会話に「彼方まかせ」を使用する際には、「あなた」を正しく理解していても、特定の人物とカン違いしていても、際立った違いは現れにくそうです。たとえば

「Aさん、すっかりあなた任せで、恐縮です」

といった場合でも、「あなたまかせ」という慣用表現の中の「あなた」について、言った人物が「Aさん」とカン違いしているか、正しい言葉を理解して使っているのかまでは、あえてこの言葉にフォーカスして質問しない限りは、判別できないでしょう。

注意すべきは、やはり表記です。

「貴方任せ」でも現在では間違いとはされませんが、できれば語源に即した「彼方任せ」と書けたほうが、教養の高さや美しさを感じさせますよね?

言葉の使い方はほんの少しの違いでも、印象を大きく左右してしまいます。正しい日本語の知識を身に着けて、デジタルツールに頼らずとも美しい文章を操れる、素敵な女性で参りましょう!

この記事の執筆者
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ILLUSTRATION :
小出 真朱